COLUMN

20世紀の演奏史の一断面を克明に把握できるソニー・クラシカル名盤コレクション、世界/日本初CD化も含む全100タイトル登場

ソニー・クラシカル名盤コレクション1000
網の目のように張り巡らされた20世紀演奏史の断面

 いきなり東京メトロ(地下鉄)の話で恐縮だが、2008年に開通した副都心線は北部で東武東上線、西武池袋線、南部で東急東横線、みなとみらい線に乗り入れる結果、埼玉県の川越市駅や飯能駅で「横浜中華街行き」、逆に神奈川県の横浜駅で 「森林公園行き」といった色とりどりの車両を見かけるようになった。「ソニー・クラシカル名盤コレクション」も20世紀末から21世紀初頭に加速したレコード産業の再編成により、歴史や文化背景を異にする複数のレーベルの歴史的録音のハイブリッド(複合体)、相互乗り入れというのが実態である。

 もちろん中心は米国CBSだが、ここでもすでに、ブルーノ・ワルター(指揮)やレナード・バーンスタイン(同)、グレン・グールド (ピアノ)らを擁したメインの 「コロンビア・マスターワークス」と、ジョージ・セル指揮のクリーヴランド管弦楽団が属したセカンド・レーベル 「エピック」の2系統が存在する。さらに1968年(昭和43年)、日本政府の資本自由化措置の第1号として米CBS、日ソニーの折半出資で誕生した「CBSソニー」の自主録音で中村紘子(ピアノ)、前橋汀子(ヴァイオリン)、若杉弘(指揮)らがカタログに加わる。

 20年後の1988年、バブル経済の絶頂期にあったソニーはCBSの持ち株を買い取り、クラシックでは「ソニー・クラシカル」にレーベル名を改めた。ドイツ・グラモフォン(DG)のプロデューサーだったギュンター・ブレーストをハンブルクのソニー・クラシカル代表に据え、カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)、クラウディオ・アバド(同)らの録音も開始した。当時のソニー・グループ総帥でバリトン歌手出身の大賀典雄はCBSソニーの初代社長を務め、自らプロデュースも手がけた経験を生かし、クラシック音源のCD化、映像ソフトの制作を強力に進めた。ヘルベルト・フォン・カラヤンの住まいの近く、オーストリアのアニフに、ソニーのCD工場も建てた。さらに録音嫌いだった指揮者セルジュ・チェリビダッケを口説き落とし、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団とのブルックナーの交響曲第7、8番を当時のレーザーディスクに収めたのも大賀の功績だ。今回、その音声はCDとして新たなパッケージを得ている。

【参考音源】セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団による
ブルックナーの交響曲第8番

 

 ブレーストや大賀は同時にピリオド(作曲当時の仕様の)楽器の名門レーベル 「セオン」の名プロデューサーだったヴォルフ・エリクソンを迎え、ピリオド専門の「ヴィヴァルテ」レーベルを立ち上げた。グスタフ・レオンハルト(指揮と鍵盤)、ジョセ・ファン・インマゼール(同)、アンナ・ビルスマ(チェロ)ら古楽界のスターが一斉に移籍したヴィヴァルテの陣容は壮観といえた。

 一方、かつては米国を代表するエレクトロニクス企業だったRCAは経営破綻してゼネラル・エレクトリック(GE)に買収された後、音楽ソフト部門をドイツの出版大手であるベルテルスマンに売却。同社はもともと傘下にあったドイツの国内レーベル、「アリオラ・オイロディスク」のカタログとアルトゥーロ・トスカニーニ (指揮)、ユージン・オーマンディ(同)、ヴラディーミル・ホロヴィッツ(ピアノ)、ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)らの膨大な文化遺産を誇るRCAレーベルを糾合し「BMG」(ベルテルスマン・ミュージック・グループ)を組織した。そこにイタリアの音楽出版社「リコルディ」のディスク部門、エリクソンの旧作である「セオン」も加わる。

 2004年にはソニー・ミュージック・エンタテインメントとBMGが合併、2008年にはBMGの日本法人もソニーに吸収された。昨年はついに様々に入り乱れていたレーベルの管理もソニー・ミュージックレーベルズに一本化され、現在のカタログが完成した。ホロヴィッツとオーマンディは旧CBS、RCAそれぞれに相当数あった録音がソニーに集合し、長いキャリアと芸風の変遷を一括して検証できるようになった。ホロヴィッツと長くライヴァル関係にあったアルトゥール・ルービンシュタインも今ではソニーの〝同僚〟だ。エリクソンの仕事もセオン、ヴィヴァルテの音源すべてがソニーに集まり、レオンハルトビルスマに加え、リコーダー奏者時代のフランス・ブリュッヘンまで登場する。

 今回の名盤コレクションの編集方針には、かなりマニアックなところがあって、オーマンディ最晩年の貴重なデジタル録音のバルトーク《管弦楽のための協奏曲》に若き日のアレクシス・ワイセンベルクが独奏する同じ作曲家の《ピアノ協奏曲第2番》をカップリングしたり、レオポルド・ストコフスキーの膨大な盤歴の中から自身の編曲による十八番の《バッハ・トランスクリプション》とアイヴズの《交響曲第4番》ほかの2点だけを選んだり……と芸が細かい。小澤征爾でも1970年の日本万国博覧会(大阪)にちなむ当時の前衛音楽を集めたレア音源が発掘され、テリー・ライリーフィリップ・グラスの初期音源と肩を並べる。ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、クラリネットのアンサンブルTASHI(タシ)もこの編成の名曲、メシアンの《時の終わりへの四重奏曲》で健闘する。小澤指揮の《トゥーランガリラ交響曲》と並ぶメシアンの名盤だ。

【参考音源】グレン・グールドによるバッハのゴールドベルグ変奏曲

 

 ピアノと作曲のセルゲイ・ラフマニノフ、チェロのパブロ・カザルス、ヴァイオリンのヤッシャ・ハイフェッツ、ピアノのルドルフ・ゼルキンらヨーロッパ大陸から北米大陸に新天地を求めた世代の巨人たち。ヴァイオリンのアイザック・スターン、ピアノのグレン・グールドマレイ・ペライアジュリアード弦楽四重奏団らファミリーのルーツはヨーロッパでも、米国に生まれ育った名手。キリル・コンドラシン(指揮)、ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン)、レオニード・コーガン(同)ら米ソ冷戦時代に“鉄のカーテン”を破格の実力で破って現れ、西側のレーベルに特別の録音を残した旧ソ連の音楽家。ダニエル・バレンボイム(指揮)、ギュンター・ヴァント(同)、アリシア・デ・ラローチャ(ピアノ)、マルタ・アルゲリッチ(同)ら、あくまでヨーロッパが基盤ながらレーベル糾合の結果、ここに加わった人々。実に顔ぶれは多彩である。

 もちろんエーリヒ・ラインスドルフ(指揮)やルドルフ・ケンペ(同)、フィリップ・アントルモン(ピアノ)、フリッツ・クライスラー(ヴァイオリン)、グレゴール・ピアティゴルスキー(チェロ)ら今回の選に漏れたアーティストは多々いる。しかしながら、ここに選ばれた全100点のカタログを眺めるだけでも、録音技術で検証できるようになった20世紀の演奏史の一断面は克明に把握できると思う。

 

ソニー・クラシカル名盤コレクション1000

第1回 発売:4月22日 50タイトル
第2回 発売:5月20日 50タイトル

詳細リリース・リストはタワーレコード・オンラインで!
http://tower.jp/classic