伝統の器で現代を汲み、そこから古を俯瞰する

 今年で18年目に入った東京オペラシティのリサイタルシリーズ〈B→C〉に、初めて三味線奏者が登場する。積極的に現代邦楽に取り組んでいる本條秀慈郎だ。伝統から現代まで幅広く手掛ける三味線演奏家の本條秀太郎に師事した秀慈郎は、本年の出光音楽賞にも輝いた期待のアーティストといえるだろう。

 「私の活動を評価していただいたのは嬉しかったです。B→Cと出光賞は僕の中での憧れでしたから」

【参考動画】本條秀慈郎と本條秀五郎による“いかとり唄”演奏の模様

 受賞によって、現代邦楽の旗手として認められたことになる秀慈郎だが、プロフィールを見ると三味線との出会いは津軽三味線だったという。

 「音楽好きな親が高橋竹山を生で聴いて、ある日突然三味線を勧めてきました。当時私はエレキギターをやっていたんですが、そもそも人と違ったことをやりたい気持ちが強いので、抵抗なく三味線に移ったんです」

 その後、桐朋音大短期大学部に進んだ秀慈郎。ここで現代邦楽に出会うことになる。

 「杵屋勝芳壽先生から中棹(民謡や地唄でつかう三味線。津軽は太棹に近い)も弾くようにいわれたのですが、近くにお住まいだった本條秀太郎師匠を勝芳壽先生が〈あなたのために呼んであげるわよ〉といってご紹介くださいました。でもその前に師匠が演奏した“去来”(杵屋正邦 作曲)を聴いて、こんな素晴らしい人にいつかは習いたいと思っていたんです」

 それ以降、現在まで現代曲を中心に取り上げる三味線奏者として活動してきた。

 「三味線で現代曲に取り組むのはまったく抵抗がないんです。邪道かもしれませんが、現代曲から古典を見つめていく姿勢が自分にはあります。古典と現代曲は音楽的に通じている、奥底では一緒だと思うんです」

【参考音源】本條秀慈郎が演奏する藤倉大作曲の三味線ソロ曲“neo(音緒)”

 そう語る秀慈郎の視線は、すでに発表されているB→Cのプログラムにも現れる。

 「三味線の古い文献に〈糸竹大全〉がありますが、この本はバッハが生まれる少し前に世に出たので、時代が被るんです。予定している“獅子踊り”はそこからの曲で、歌舞伎などの獅子ものの原点といえる曲です。また、師匠作曲の“歌垣”をバッハの“音楽の捧げもの”に挟んでみました。“歌垣”は三味線が大陸から来たときの音遣いで書かれている。つまりバッハ以前の音楽を含んでいます。“音楽の…”も楽器を指定していない曲を選びました。三味線でクラシックを弾くと見世物のように見られるのが嫌なのですが、この曲なら楽器の指定もないし、いいかなと思いまして」

 三味線で奏でるバッハや現代曲から何が浮かび上がってくるのか。それを楽しみにしてみたい。

 


LIVE INFORMATION
B→C バッハからコンテンポラリーへ
本條秀慈郎 三味線リサイタル

2015年5月12日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00
出演:本條秀慈郎(三味線)/野坂操壽(二十五絃箏)/本條秀五郎 (三味線)

■曲目
池辺晋一郎:はじめのうた ─三絃のために(1980)
作曲者不詳:《糸竹大全》から「獅子踊り」
J.S.バッハ:《音楽の捧げもの》BWV1079から2声のカノン(謎カノン)
高田新司:歌垣(1990)
J.S.バッハ:《音楽の捧げもの》BWV1079から2声の逆行カノン
高橋悠治:三絃(2000)
権代敦彦:トリスケリオン ─ 三味線のための op.141(2014)
挾間美帆:新作(2015、本條秀慈郎委嘱作品、世界初演)
J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第2番》ニ短調 BWV1008から「プレリュード」「クラント」
平井京子:夜想曲第1番(2011、世界初演)
新実徳英:三絃と二十五絃箏のための《奏鳴の譜III ─ 水底から》(2014)
ヴィラ=ロボス/佐藤紀雄編:前奏曲第4番 ホ短調
https://www.operacity.jp/