THE NEWEST ERA
[ 特集 ]2015年のヒップホップ・スタンダード
年明けから話題作が立て続けに届き、またまた熱を帯びるUSヒップホップの世界。各々の魅力に溢れたカラフルキャラクターを紹介していきましょう!

 


 

FAST & FURIOUS
キッド・インクは止まらない

 

 

 細身な身体に所狭しとタトゥーを刻んでいかにもイマドキな雰囲気を醸し、鼻歌のように口ずさめるラジオ・フレンドリーでキャッチーな曲を連発……と、ひときわ目と耳を惹くLA出身のラッパーが、キッド・インクだ。

 もともとは音楽プロデューサーをめざして業界入りし、ラッパーとしての本格始動は22歳の頃、と比較的遅めなキャリア・スタート。初期はロックスターなる名前で活動していたのだが、大手ヒップホップ情報サイト〈HotNewHipHop〉の創設者でもあり、K・ドット時代のケンドリック・ラマーをはじめ、スクールボーイQミーク・ミルタイガらをフックアップしてきたストリートの要人、DJイル・ウィルからのサポートを得てMCネームをキッド・インクへ改名。コンスタントにミックステープ作品をリリースし、イル・ウィル率いるレーベル、アルミニ・グループとも正式契約したことでコネクションもグッと広がると、ストリートの人気アクトがこぞってミックステープへ参加することでキッド・インクの名前も徐々に広まりはじめ、客演仕事も急増していく。2012年にはネクスト・ブレイカーをピックするXXL誌の人気企画〈10 Freshmen〉への選出や胸アツなクラシック“Time Of My Life”のストリート・ヒット(MVも必見!)もあって、翌2013年には大手RCAとのメジャー契約を獲得するまでの存在となる。

【参考動画】キッド・インクの2012年作『Up & Away』収録曲“Time Of My Life”

 

 同年にメジャー第1弾のEP『Almost Home』を発表後、DJマスタード&クリス・ブラウンとのコラボによる“Show Me”と“Main Chick”が連続でスマッシュ・ヒットを記録。2014年早々にリリースされたメジャー・デビュー・アルバム『My Own Lane』は全米アルバム・チャート3位にランクイン、と彼は一気にスターダムを駆け上がっていくこととなった。

 そこから畳み掛けるように発表されたアッシャーティナーシェをフィーチャーしての“Body Language”にはスターゲイトと共にノルウェーのビートメイカー、カシミア・キャットがプロデュースで関与したことも話題に。そして今年に入って、前作から1年強という短いスパンでリリースされたのがニュー・アルバム『Full Speed』である。その登場に前後して、タイガ、ワーレイYGリッチ・ホーミー・クァンという現行シーンのイケてる面々とともに映画「ワイルド・スピード SKY MISSON」の主題曲“Ride Out”に参加したことも記憶に新しいはずだ。

KID INK Full Speed Tha Alumni Music Group/88 Classic/RCA/ソニー(2015)

 そんなキッド・インクの持ち味と言えるのが、先述したようなキャッチーなフックやギャル・キラーな歌メロに軽やかでタイトなラップを織り交ぜたドレイクあたりを彷彿させるスタイルだ。また、恵まれたルックスを活かすかのように映像作品を連発してストリート/ネット界隈のバズを生んでいくという現行のマーケットに合ったプロモート手法や、“Body Language”におけるカシミア・キャットをはじめ、ミーゴスヤング・サグデージ・ローフらシーン最前線で注目を集めはじめているホットな若手を積極的に起用するなど、攻めの姿勢も目立っており、そこは嗅覚鋭いイル・ウィルのバックアップによるところも大きいのだろう。

 そのようにパーティー系やギャル・チューンを得意とし、ファッショナブルなイマドキの若者の心を掴んでいるキッド・インクがいる一方、昨年のメジャー・デビュー・アルバム『My Krazy Life』で大きく飛躍したギャングバングなYG、さらには先日リリースされた最新作『To Pimp A Butterfly』で業界の話題をかっさらった少しシリアス・モードなケンドリック・ラマー、と同じ西海岸勢でもカラーはさまざま。こうしてタイプの異なる役者を揃え、メジャー・フィールドで次々と新たな才能をブレイクさせているLAのシーンは、いままさにフル・スピードで過熱中なのだ。

 

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