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【これからのジャズ・ミュージシャンの在り方】 

――それこそ、松下さんはこれまでいろいろな活動をやってきてるじゃないですか。それはどンな感じで広がっていったんですか? 

松下「フォーマット関係なく、〈ダサい〉って思うことは絶対やらないようにしてます。本当にそれだけ。いい例があって、東京03公演をGENTLE FOREST JAZZ BANDでずっとやらせてもらっているんですが、Yasei Collectiveとやってることは全然違うし、ある意味意外だと思われる演奏をしてるんだけど、自分にとっていつも新鮮だしカッコイイ。 じゃあ、お笑いならなんでもやるのかっていうとそういうわけではない。ジャンル関係なく”いい!”と思うからやりたいんです。東京03さんや(構成作家の)オークラさんはほんと別格だし。実際この公演で知り合って深い付き合いになった人も沢山います」


【参考動画】東京03の公演DVD「タチの悪い流れ」のトレーラー
GENTLE FOREST JAZZ BANDは総勢21人のビッグバンドで、Yasei Collectiveの別所和洋も参加
 


松下「個人の活動ではそれがダサいかどうか直感だけで(選んで)やってます。〈あのとき一緒にやっとけばよかった〉ってのも、正直いっぱいありますけどね。アメリカから帰ってきたとき、俺はジャズをやりたいって思ってたけど、一方で大学からの友達の在日ファンクとかのカッコよさもわかってたから、両方のシーンとフラットに付き合って今に至るって感じです。常にアンテナ張ってる感じ。だから気になるミュージシャンが来日したときは、別に知り合いじゃなくても、会場に行って 『友達だから(楽屋へ)通して』ってアテンドの一番若くて優しそうな女の子に言って通してもらうんですよ。それで楽屋に行って、〈Nice to meet you〉って(笑)。ネイト・ウッドともそんな感じですよ。LAでは2、3回しか会ったことなかったけど、ビルボード東京の楽屋で〈ニーボディを日本に呼びたいんだよ!〉って話して、そこから繋がって本当に日本へ呼んじゃったんです」

――すごい行動力!

松下「いまのジャズの人達がフォローすべきところとして、ニーボディは理想的だと思うんですよ。彼らはバンドでやってるでしょ。ベースのカーヴェー (・ラステガー)が忙しいから、サブでティグラン(・ハマシアン)のバンドのベーシストが代わりに入ってツアーを廻ったりもしてますけど、基本的にはサポート・メンバーなしで彼らは活動している。そういうふうに、バンドはそのフォーマットに拘って活動するじゃないですか。でもジャズの人たちって、特定のフ ロントマンがいたら他のメンバーは全員違っても、基本的にはその人のバンドになる。それはそれで良いんだけど、これからのジャズメンが目指すバンドの在り方としては ニーボディがいい例と思いますね。しかもニーボディはバンドとして売れたあと、そこから個々がピックアップされて今、ベン・ウェンデルなんてNYでファーストコール。カーヴェーはジョン・レジェンドのツアーを廻ったり、トゥパックともやったりしてた。ネイト・ウッドはその最たる例で、バンドが認知された後の広がり方が全然違うから」

*ニーボディ
2001年に結成された、ネイト・ウッド(ドラムス)、ベン・ウェンデル(テナー・サックス)、シェイン・エンズリー(トランペット)、アダム・ベンジャミン(キーボード)、カーヴェー・ラステガー(ベース)から成るLA出身の5人組。先鋭的なクロスオーヴァ―・サウンドで知られ、2010年にはグラミー賞にもノミネート。2013年にはYasei Collectiveとの2マンで初来日を果たした。ネイト・ウッドはウェイン・クランツやティグラン・ハマシアンのバンドにも参加している。

【参考動画】Yasei Collectiveとニーボディのパフォーマンスを収めたドキュメンタリー映像
(ニーボディの演奏は3分10秒あたりから)


松下「まぁ、俺らもバンドを始めた頃はすごい叩かれました。〈こんなもんロックでもないし、ジャズでもポップでもない。どこで売ればいいかわかんない〉とか」  

横山「そんなのどこでもいいじゃないですか」 

松下「やっぱりフォーマットは決めていかないと売り出しにくいから、そういう意見もわかるんだけど。でもそこでアメリカで学んできたことを変えちゃ うと行った意味がなくなる気がして、俺は納得がいかなかった。だからYasei Collectiveだけに2年間くらい専念して、そのためにアルバイトもやってた。それまではジャズのギグを月に20本くらいやってて、一番お世話になったのは、駿が今一緒にやってる石井彰さん。順風満帆にこのままジャズでいけるかもって感じだったんですよ。でも、なんか違和感があったんです よね。〈こうやれ〉とか〈こういうもんだ〉って指示ややり取りに抑圧めいたものを強く感じて。それって、Yasei Collectiveで俺がメンバーに〈こうやって〉って指示するのとはちょっと違う感じというか」 

――なるほど。Yasei Collectiveはメンバー間でどういうやり取りをしているの?

松下「うちのギタリスト(斎藤拓郎)は大学の後輩なんだけど、俺が帰国したときに青空麻雀してたんですよ(笑)。卒業生なのに在校生と一緒に。それで〈お前何やってんの?〉って訊いたら、〈最近でっかいマルチエフェクター買って、ギターちゃんとやろうかなと思ってるんです〉とか言ってて」

――それで?

松下「〈じゃあお前、ちょっと一緒に山登りするぞ〉って。アメリカから帰ってきた俺とミッチ(中西道彦、Yasei Collective/Za FeeDoのベース) とで、機材を全部持って、24時間音を出せる長野の山荘に1週間連れて行ったんです。そこで崖から這い上がってきたのをまた突き落とす、みたいな音楽的訓 練をずっと繰り返してました。そのとき、〈ギターってこうなんだよ〉と俺が渡したのがニア・フェルダー。これが2008年頃の話なんですけど、当時はまだ 誰もニア・フェルダーなんて知らなかった。〈みんなパット・メセニー聴いてるし……〉って(斎藤に)言われても〈これが基本だから、いいから聴いてごら ん〉って。〈この人の前にはウェイン・クランツがいて……〉みたいに説明して、〈そっか、リング・モジュレーター買わないとダメなんだ!〉』と気づかせる ところから彼に教え込んだんです」

――いまの話に出た機材への認識や、パット・メセニーとニア・フェルダーの違いは重要な気がするな。音色がエレクトリックだからって、それだけで必ずしもフュージョンには直結しないはずなんだけど、ジャズのプレイヤーはその辺の意識やセンスがほかのジャンルより遅れていたんだよね。 

★「ヤセイの洋楽ハンティング」第3回 〈ウェイン・クランツ編〉はこちら

【参考動画】ニア・フェルダーの2014年のパフォーマンス映像


松下「有名な人を呼ぶとか、ジャズのフォーマットからピックアップするよりも、ゼロから合宿してでもバンドとして作り上げて、スタンダードな部分からお互いに鍛え上げたほうが楽だと思ったんですよ。その時期があったおかげで、『こう来たらこう来るでしょ』みたいな演奏の駆け引きが、今は何をやってもわかるし、ミッチがいればどんなセッションでも大丈夫ってレベルまで辿りつけた。 逆に和明がさ、そういう徹底的にリハーサルしたバンドに参加しているところを見てみたいよね。やりたいことが詰まり過ぎて、1週間くらい籠らないと出来ないようなバンドを。駿は音大でそういうのをやってたもんね。そうやって出来たものって、アドリブで生まれるものと全然違うからさ。そういう和明を見てみた い」 

横山「わかりますよ。ジャズって良くも悪くもすぐに形になってできてしまう音楽だから。ライヴ当日以外に別日にリハーサルをして作り込んで練り上げて……という事をほとんどしませんからね」 

石若「そうなんですよね」 

松下「なんでなんだろうね。日本だけだよね。だって、みんな昼間ヒマでしょ? レッスンやってるか、大学で教えてるか、ヒマかのどれかでしょ。たぶん。(ライヴ終わって)24時くらいまで呑んで帰って、12時に起きて次の入りが17時ですって。だったら、12時から17時までの間はリハできるよね。すればいいじゃん」

横山「例えば、レギュラーでやっているバンドだからこそ、本番と別の内容のリハーサルはした方がいいと思うんですよ。別日にスケジュールを合わせるのが難しければ、ライヴ当日の入り時間を少し早めて色々試しながらリハしても良いし、リハで試した曲を当日のライヴではやらないのもありだと思うし。詰めていく作業はジャズのバンドでもできる。もちろん、それをやらないがゆえの新鮮さ、というのもあるのですが」 

――でも日本のジャズ・ミュージシャンは、作品として録音物をひとつ仕上げるみたいなモチベーションがあんまり高くない印象もあるよね。作りこまないっていうか。

松下「たしかに。でもここに並んでるCDのアーティスト達は相当リハやってるぜ」

横山「絶対そう」

 
石若「海外の人達って、自分でも何かしら作品を作って発表してる印象があるけど、日本のジャズ・ミュージシャンはそこを躊躇しちゃってる感じはありますね。 自分でお金を貯めてでもいいから、年に2枚は作るとかそういう事をやればいいと思うんですけど。でもスタジオとかエンジニアとの友達関係とか、そういう兼ね合いもあってなかなか出来ないのかなって感じもします」

――作品がツアーとセットというか、単に物販で売れる感じのものを狙ってるというかね。自分が本当にやりたいことが果たしてこれなのか、わからないような作品も(日本のジャズ・シーンには)多い気がしていて。Yasei Collectiveはライヴで再現出来ないようなものを録音物として作り上げるのも、それとはまた別の魅力的なパフォーマンスをライヴで見せるのも、両方意識しているでしょ。グラスパーだってそうじゃん。そういうモチベーションがあると音楽に取り組む考え方とかも変わるから、他のジャンルでも使われやすくなったりもするんじゃないかな。

松下「リハをやらないスタイルは、完全に日本ジャズ界の背負っている負の遺産。それでOKなジャンルとして確立されちゃったのが問題。 基本リハはギャラも生まないし金銭的には出ていくだけ、けどそれでも得るものはやっぱりある。なまじリハしなくても演奏出来てしまう技術をもったゆえに、そうなってしまったというのも大きいんだろうけど」

横山「それもいいけど、そうじゃないものがもっとあっていいと思います」

――前にrabbitooの取材をしたときも、こういう話をしたんだよね。〈ジャズ・ミュージシャンだから(リハなしでも)出来ちゃうだろう〉っていう甘えがあるから、まずはそれをなくして、ロック・バンドみたいな感じでリハを何回もやって、そこでよいフレーズが出てきたらとりあえずそれを毎回弾こうみたいな。市野(元彦)さんはリハを録音して、それを帰りの車で聴いてるっていう。

【参考動画】rabbitooの2014年のライヴ映像


松下「ジャズの人達からすると、そういう話は〈うわぁ!〉ってなるけど、バンドだったら普通なんだよね。市野さんは本当にすごい。数年前何度か共演させてもらたけど人柄も音楽も素晴らしいです、すごく考えてますよね。目先の話じゃなくて、これからずっと音楽をやっていきたい人の意見をあの人は述べている気がする」

横山「それは大事ですね」

――あと、〈JTNC〉を作るときもデザインはかなり重視したけど、そういう意識が日本のジャズだとまだ低いよね。Facebookとか見てても、海外のアーティストがアップしてるライヴのフライヤーとか超カッコいいじゃないですか。

石若「めっちゃカッコいいですよね、ジャズティン・ブラウンのフライヤーとか」

松下「ニーボディもアートワークはすごいオシャレだしね」

――日本でもorigami PRODUCTIONSは所属アーティストがみんなオシャレだよね。あそこはクラブ・シーン出身のレーベルだけど。

松下「ブランディングは大事ですよね」

ニーボディの2013年作『The Line』のジャケット(試聴はこちら
 
【参考動画】mabanua、Kan Sano(共にorigami PRODUCTIONS所属)と
マッドリブによる共演ライヴ・セッションの模様


――松下くんはそういう頭の使い方を意識して活動してそう。 

松下「Yasei Collectiveの場合、初期は俺がバンド内でマネージャー/リーダー/ドラマーという3つの 役割を兼ねてる感じでした。だからブッキングとかツアーのマネージメントから、衣装に至るまで全部(自分で)やったんです。いろんな世界の人に会ったりすることに興味があったから丁度いいやって。そういう経験を通じて色々と身についたし、自然と交渉事も得意になった。あとはやっぱり、周りが見えるようになりますね。俺なんかよりドラムが上手いヤツはたくさんいるけど、自分やバンドを売り込むために必要なことも考えられないとダメだし、 バチだけ振ってればいいっていうのは何十年も前の話だと思うんですよ」

 




★最も注目すべき日本人ドラマー、横山×石若×松下が参加したスリーマン・ライヴを柳樂光隆が企画。〈JTNC〉以降のジャズにも精通したスペシャリストたちが、いま聴くべきリズムを叩く!

〈Mitsutaka Nagira & drummers presents “Hang out”〉

日時/会場:6月23日(火)渋谷UNDER DEER LOUNGE
開場/開演:18:30/19:00
出演:ZaFeeDo、石若駿 & The成吉思汗Band横山和明Trio、柳樂光隆(DJ)
チケット:前売り/2,500円 当日/3,000円
問い合わせ:03-5728-2655(会場)

http://www.under-dl.jp/schedule/?tribe_events=ask-info-284%2F

https://www.facebook.com/events/1861327994092217/