COLUMN

ジャズ=自由というメッセージを全身にたぎらせたアフロ・アメリカンの演奏家達の姿が映る写真集「Black Fire! New Spirits!」

ラディカリズムの肖像

“Jazz Is My Religion ” ――Ted Jones

As Ted would say, Let them go to heaven or let them go to Hell When I Die Will Go to Jazz
By Ishmael Reed (CONJURE)

 冒頭は、死んだら、天国でもなく地獄でもなくオレは“ジャズ”に行く、といった内容の詩の頭の数行だ。アフロ・アメリカン、作家、詩人、ジャズ・ピアニストでもあるイシュメル・リードの作品からの引用だ。彼は、音楽プロデューサーのキップ・ハンラハンと〈コンジュア〉というプロジェクト・タイトルでアルバムを3枚制作している。彼の詩にキップが選んだミュージシャンたちが曲を書くというのがコンジュア・プロジェクトであるが、最新作の3枚目『Bad Mouth』では詩人本人が登場し、自作を朗読する。この詩を朗読するトラックは、ダークでクールなファンクが伴奏し、死んだらジャズに行く、(あるいはジャズになる?)とアジる。作家イシュメル・リードの描く世界では、ジャズはアフロ・アメリカンのユートピアのように現れる。奴隷時代、解放時代、公民権運動時代と抑圧された人々が、全身に自由を感じ、取り戻すことができる時間、空間がつまりジャズであり、幸せ=ジャズを召還する魔法を操るのがジャズ演奏家。そんな位置に“ジャズ”があるかのようにイシュメルは書く。イシュメルの代表作である小説『マンボ・ジャンボ』は、戦前のアメリカ国内を舞台に、架空の宗教戦争を描き、一神教(キリスト教)と多神教(ヴードゥー)の闘争を、ジュスグルーという疫病をばらまき、多神教信者を増やそうとする勢力と、囲い込もうとする側との闘いとして描いている。疫病の感染者は、ジャズを聴くと踊るという症状に見舞われるという。

 大戦後、世界を二分する冷戦という結界が張られ、一方の側からは、コミュニズムこそが人民のパラダイスとしてリアルに、フェイクにプロパガンダされた。もう一方のアメリカは世界に“自由”をプロパガンダした。そしてその教育の道具のひとつにジャズを選ぶ。支配する側は、被支配階級のことを実によく学習しているものだと驚くが、単純にジャズの感染は、体制内部にも相当すすんでいたのだろう。やがて素晴らしいジャズ=自由のイリュージョニストたちが、敗戦国へと戦後復興計画の一翼を担い派遣され、ジャズは自由を世界に伝播した。自由に、解放という抗抑圧のネガを転写したまま。

STUART BAKER Black Fire! New Spirits! :Images of a Revolution: Radical Jazz in the USA 1960-75 Soul Jazz Books(2014)

 『BLACK FIRE ! NEW SPIRITS ! “IMAGES OF A REVOLUTION RADICAL JAZZ IN THE USA 1960-75”』という写真集には、ジャズ=自由というメッセージを全身にたぎらせたアフロ・アメリカンのジャズ演奏家達の姿が映る。今の20代がこの写真をみて何を思うのだろう。ここに映った黒い身体に彼らが聴く想像の音楽がジャズなのかどうか、少々疑問だが、もしかするとそんな想像から新しいジャズが芽生えるのかもしれない。戦後、平和と自由のメッセンジャーズをお迎えした当時の50年代、60年代、おじさんおばさん世代は、LPのジャケットが捉えた黒の身体に何か、きな臭いメッセージと強烈な幸福感を読みとっていた。ジャケットに映ったこいつらは何かとんでもないことを抱えているに違いという想像は、確かに彼らの自由を渇望するエネルギーを正しく捉えていた。音だけだと、異国の土地ではエキゾな空想、妄想の類いが煙のようにくすぶっただけかもしれない。もし、アメリカがミュージシャンごとジャズを輸出しなければ。

 

 

 音楽と政治については様々な議論があるが、結局音楽をある特定の意図に飼いならすことなどできるわけもない。政治における絶対零度があればそれは音楽だなんていうつもりはないけれど、音楽は、無垢で自由だ。日本に来演したデューク・エリントンジョン・コルトレーンマイルス・デイヴィスが見せたジャズという空間は、アメリカ政府の思惑を超え、解放を求め続けるラディカルな闘士たちへの共感を各地に呼び起こした。それは連帯を創り出しジャズ感染者は増え続けた。やがてジャズは世界音楽のひとつとなり、いつのまにかコミュニストの魔法は解けてしまっていた。この写真集に集められた時代、アメリカ国内のジャズも、自由と解放への欲望をアフロ・アメリカンの想像のうちに供給し続けていた。この写真集のタイトルにあるように、ジャズは革命のイメージのひとつだった。オーネット・コールマンのアルトにしびれ、アルバート・アイラーのテナーに震えた時代だった。セシル・テイラーの打つクラスターに、黒と白の二分法ではうまくいかないという苛立ちを聴き、エルヴィン・ジョーンズトニー・ウィリアムスポリリズムに異種混交への謳歌を聴いた世代は、今、平和に疲れたのだろうか。それに比べてジャズの抗抑圧的力の喪失を消費という言葉で置き換える自由主義は、まだまだ健在だ。足りないのはやはり想像力なのか。今再び、かつてのこの闘士の肖像を集めた写真集に聴こえる音が何か、確かめてみたい。

【参考動画】2014年のコンピ『Black Fire! New Spirits! Radical and Revolutionary Jazz In The USA 1957 - 1982』収録曲のタイロン・ワシントン“Universal Spiritual Revolt”
40周年プレイリスト
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