Photo by Masanori Naruse

レディ・デイの記憶がドライブするクールネス

 ビリー・ホリデイに捧げるトリビュート・アルバム『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』をリリースしたホセ・ジェイムズが来日をした。2011年にアムステルダムでやったトリビュート・コンサートが、このプロジェクトの始まりだったという。常日頃から、影響を受けた アーティストとして、マーヴィン・ゲイ、ジョン・コルトレーン、そしてビリー・ホリデイの名前を挙げてきたホセにとって、この企画とコンセプトを固めるのは必然的なことだったのだろうが、なぜビリー・ホリデイに惹かれてきたのか。彼はセルフ・ライナーで「十代の難しい時期にビリーを再発見した」と記している。

 「ヒップホップから興味を持ち、ジャズを知っていく中で出会ったのがビリーのVerveの2枚組コンピ(『Lady in Autumn: The Best Of The Verve Years』)だった。ビリーの作品の中でもこの頃のものが一番好きだ。いまの自分がいるのは、この頃の彼女がベースになっている。高校の難しい時期で、周りにも馴染めなくて楽しくなかったが、彼女が歌うものには、どんな痛みにも通じているような気がして、感銘を受けた」

JOSE JAMES 『Yesterday I Had The Blues』 Blue Note/ユニバーサル(2015)

 ドン・ウォズが初めてホセのプロデューサーを務めた本作は、これまでのホセのバックとはまったく違うミュージシャンが選ばれた。ピアノにジェイソン・モラン、ベースにジョン・パティトゥッチ、ドラムにエリック・ハーランドという編成も興味深い。

 「ジェイソンのファッツ・ウォーラーのプロジェクト(『オール・ライズ』)には残念ながらスケジュールが合わなくて参加できなかった。だから今回彼が参加してくれてほんとうに嬉しかった。ジョンとエリックについては、今回初めて会ってその日にいきなり音を出したんだが、 まさに夢が叶ったというメンツだよ」

 録音は僅か4時間で終わり、自身も驚いたという。アルバムを聴いていても、コンビネーションの良さは充分に感じられるが、それにはドン・ ウォズの存在も大きく作用しているようだ。

 「ドンは最小限のことしか言わなかった。彼はオーケストラでいうと指揮者で、入るタイミングを教えてくれる。でもオーケストラはコンサートマスターの指示を待っている。コンサートマスターと指揮者の間の信頼関係があって、みんなが指揮者を向いて演奏している。僕は一番最初に演奏を始めるヴァイオリンだね。ドンの指示は的確で、無駄なテイクがないんだ」

 先頃インタヴューしたジェイソンもドンについて同様の発言をしていたが、ホセのこのアルバムからも、ドン・ウォズと新しいブルーノートが如何にアーティストを活性化させているかを伺い知ることができた。