柔らかな弦の感触、中間色をうごめく音色の変化、甘美に歌い抜かれる旋律、繊細な織物のような合奏…。イタリアの名ヴァイオリニスト、ピーナ・カルミレッリが率いる四重奏団のラヴェルから響いてくるのは、作品が成立した20世紀初頭の退廃的な時代精神である。演奏様式に時代の残り香があった1957年、優秀なステレオ録音でこの演奏が残された意義は大きい。一方の1941年作、プロコフィエフの弦楽四重奏曲第2番は擬古典的な様式の中に、第2次大戦中の民族意識の高揚と戦火への不安と恐怖を描いた名作。カルミレッリは一筋縄ではゆかない作品の魅力を、同時代人として絶妙に、かつ美しく表現している。