リストの楽譜から弾くべき音のイメージをキャッチ

 フランツ・リストのピアノ曲は超絶技巧を必要とする作品が多いことで知られる。そのテクニックの追求に追われて、リストの作品の内包する音楽的な魅力が忘れられている気がする。そんな時に、反田恭平(そりた・きょうへい)の演奏するリストを聴いたのだが、音楽的な充実、音楽の内側から沸き上がる情熱を感じることが出来た。若いピアニストで、ここまでのリストを演奏する人はほとんどいないだろう、と思った。現在モスクワで研鑽を積む20歳の反田のデビュー・アルバムは『リスト』である。

 「会ったこともないですけれど、リストの作品は“分かる”という感じがしていました。リストの楽譜を見た時に、パッと、この音を出せばいいんだと分かる。僕にとっては、それがリストの印象です」

 と反田。最初に出会ったリストの作品は《リゴレット・パラフレーズ》だった。

 「その後に《エステ荘の噴水》を弾き、さらに《タランテラ》に出会ったのですが、その《タランテラ》が僕をリスト好きにさせた曲となりました。その後に再び《リゴレット・パラフレーズ》や《エステ荘の噴水》を弾いてみると、リストの魅力がさらによく分かったので、そこから本格的にリストを演奏し始めました」

反田恭平 リスト Columbia(2015)

 今回のデビュー・アルバム『リスト』はそのタイトル通り、すべてリストの作品。《ラ・カンパネラ》《コンソレーション》《水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ》などが収録されており、1曲だけボーナス・トラックにホロヴィッツ編曲のビゼー《カルメン幻想曲》が入っている。

 「楽曲を選ぶ時の基準というか、僕はメロディが好きで、特にメロディの中に半音が入っている作品が好きなんです。今回のリストでも《聖フランチェスコ》の中のメロディにも半音が出て来ますが、そうすると、そこでどうやってためて、クレッシェンドして、というようなイメージがすぐ沸き上がって来ます。これはクラシックに限らず、J-POPを聴いた時もそうなんですが(笑)」

 かなり筋金入りの“半音階マニア”のようである。子供時代のエピソードもユニークだ。本当に筋金入りのサッカー少年だった。1歳の時、オムツをはいて這い這いするぐらいの時からサッカークラブに入り、ボールを追いかけていたらしい。4歳の時にはその世代のキャプテンに、大会にも出場していた。

 「常に動いていた子供でした。お腹の中でも蹴っていたらしく、それならサッカーをやらせてあげようかと親が思っていたらしいです。母親が音楽好きで、エレクトーンでミッキーマウスの曲を弾いてくれたのですが、それを喜んで聴いていた記憶がまだ残っています」

 その時に初めて白と黒の鍵盤を見て、それからそのミッキーマウスの曲を弾ききった。その記憶もまだ残っているという。

 「音を聴いて、それを弾けるのが当たり前という感じで、弾いていたらしいです」

 その後、本人によれば芸人の〈なすび〉に似た風貌の先生についてピアノを学んだが、その先生は反田の弾きたいという曲ならなんでも弾かせてくれたらしい。そして、さらに本格的な音楽教育を受け、高校生だった2012年には日本音楽コンクールで第1位を獲得した。2013年に桐朋学園大学の音楽学部に入学したが、ロシアの名伯楽ヴォスクレセンスキーの推薦でロシアに留学し、2014年にチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席(日本人としては初の最高得点)で入学し、研鑽を積んでいる。

 「モスクワでは音楽院の寮で生活しています。ここがなかなか大変なところで、設備が良くないです。また二人一部屋で、韓国出身の学生と一緒に暮らしているので、すっかり韓国語の会話も覚えてしまうぐらいです。でも、音楽教育は最高のレベルだと思います」

 今後は9月に東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に抜擢され、首席客演指揮者バッティストーニラフマニノフの《パガニーニ狂詩曲》を演奏するなど、日本国内での演奏活動も次第に増えて来ている。いま、まさに聴くべきピアニストの姿を捉えてほしい。

 

LIVE INFORMATION

東京フィルハーモニー交響楽団
第96回東京オペラシティ定期シリーズ
○9/11(金)18:30開場/19:00開演
会場:東京オペラシティコンサートホール
出演:反田恭平(p)アンドレア・バッティストー二(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
曲目:ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43

フレッシュ名曲コンサート
○9/27(日)14:30開場/15:00開演
会場:調布市グリーンホール
出演:反田恭平(p)円光寺雅彦(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団 
曲目:チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 作品23

反田恭平ピアノリサイタル
〇2016年 1/17(日) 会場:大阪 ザ・シンフォニーホール
〇2016年 1/23(土) 会場:東京 サントリーホール
〇2016年 1/29(金) 会場:愛知 愛知県芸術劇場コンサートホール
http://soritakyohei.club/