自然体だからこそ心に響く、歌詞に込められた美しさやメッセージ

 「曲を選ぶ基準は、私がその歌詞と通じる(心をつなぐ)ことができるか、ってこと。だから私たちがカヴァーする楽曲はみんなが共感できる普遍的な概念をもつものが多いの。あと、私自身の人生の何かに訴えるようなメッセージがある曲が多いかもね」

SARA GAZAREK, JOSH NELSON 『Duo』 コアポート(2015)

 彼女のアルバムに必ず入っている魅力的なカヴァーについて僕はずっと彼女に聞いてみたかった。なかでも彼女が長い間歌い続けているビートルズとジャズのスタンダードを繋いだ“Blackbird / Bye Bye Blackbird”には彼女が歌う際に大切にしているものが込められているような気がしていた。

 「“Blackbird”と“Bye Bye Blackbird”を併せるのは、それぞれの曲が異なる状況からの離脱をしようとする気持ちを唄っているという共通点があるから。私が思うには、“Blackbird”は自分が自分であろうとする力、そしてそれを探し求めるために飛び出ることを唄っていて、一方の“Bye Bye Blackbird”は、自分が必要とするものがここでは見つからないということを伝えようとすること、だから〈バイバイ〉ってね」

サラ・ガザレクによる“Blackbird/Bye Bye Blackbird”2012年のライヴ映像

 歌詞に込められた美しさやメッセージを歌おうとする姿勢は新たに歌い始めたニック・ドレイクとサラ・ティーズデールの2曲を組み合わせた“Riverman / The River”で、さらに深みを増している。

 「ニック・ドレイクの曲はミステリアスでいろんな解釈ができると思うの。“Riverman”はまさにその典型ね。この曲の素晴らしさは演奏者の考え方次第で解釈が自由にできるということ。サラ・ティーズデールの“The River”を発見したとき、すぐに“Riverman”を思い出したので歌詞を調べてみたら、この曲の意味にようやく気付けたの。だから、ここではサラの曲を組み合わせることによって、私なりのニック・ドレイクへの解釈を映し出そうとしたの。でも、その意味はリスナーが自らの発見ができるようにここでは説明しないことにするわね」

 そんな詞の世界を「ジャズは意識と伝達の音楽だとは思っていて、ひとつのメッセージをもっとも誠実に伝えるために使える、または使うべきテクニックやツールについての意識は高くもっている」と自ら言うように、高い歌唱力で歌うのも彼女の特徴だ。しかし、その歌唱力にさえ、「テクニックはあくまで表現のためのツールとして使うだけ。ガードが高く、操作されているように思わせないような誠実な取り組み方をすれば、楽曲と観客の両方と良好な関係を築くことができると思っているの」と細心の注意を払う。

 深く心に響く歌をナチュラルに表現するサラ・ガザレクの歌の魅力の秘密が見えた気がする。

サラ・ガザレク&ジョシュ・ネルソンによる2015年の日本公演トレイラー映像