ジョルジオ・モロダーのニュー・アルバムに感じるデジャヴの正体は……忘れじのディスコ・クイーン!ってことで、モロダー周辺のソウルフル・ワークと、その最高峰となるドナ・サマーの歩みをこのタイミングにじっくり振り返ってみよう

 

 

 新作『Deja Vu』を発表したジョルジオ・モロダーの偉業については別ページに詳述されている通りだが、その躍進を語るうえでもっとも欠くべからざる存在こそドナ・サマーであったのは言うまでもない。それはもちろん、ドナにとっても同様であっただろう。

GIORGIO MORODER Deja Vu Giorgio Moroder/RCA/ソニー(2015)

  70年代のキャリア黄金期に〈ディスコの女王〉と形容されたドナ・サマーの存在感は、アンダーグラウンドな存在だったダンス・ミュージックと相互依存しながら互いをポピュラーに引き上げていったという意味で、大雑把に形容するならマドンナの躍進におけるロール・モデルのひとりとなるし、レディ・ガガらの祖先と位置づけることもできるだろう。ただ、優美な歌唱と華やかなパフォーマンスによってモロダーの革新性を世に届ける触媒となった彼女ではあったが、そのぶんドナ個人がアーティストとして真っ当に評される機会は決して多くなかった。ソウル・シンガーとしていわゆる正統派なわけでもなく、ディスコ・ブームの象徴だっただけにポップ・フィールドでも〈昔の流行歌手〉という認識が支配的だったり、何となく格落ちする存在と見られていた部分はあるんじゃないだろうか。とはいえ、どう捉えられようと彼女の成し遂げてきたことが損なわるはずもない。

 ドナ・サマーこと本名ラドンナ・アンドレア・ゲインズは、48年にマサチューセッツ州ボストンで生まれている。敬虔なクリスチャンの家庭に育ったことからゴスペルに親しみながら成長していった……と書けばソウル系アーティストのプロフィールでは常道のようにも思えるが、ティーン時代の彼女は校内のミュージカルで活躍し、卒業後はNYに移ってロック・バンドで活動するなど、当時では珍しいクロスオーヴァーした志向を育んでいた。ただ、レコード契約が叶わぬままバンドは解散し、彼女はチャンスを求めてミュージカルのドイツ版「ヘアー」のオーディションに挑むことになる。そこで役を掴み、ミュンヘンへの長期滞在を選んだことが彼女の運命を変えることとなった。

 68年には「ヘアー」のキャストとしてドナ・ゲインズ名義の“Wassermann”にてレコード・デビュー。以降の彼女はいわゆるクラウトロック系の作品などで歌ったりモデル活動をしながらミュージカルで活躍し、73年には移り住んだウィーンでオーストリア人俳優のヘルムート・サマーと結婚している。ピート・ベロッテやジョルジオ・モロダーとの出会いはそんな頃に訪れた。彼らのレーベル=オアシスと契約した彼女は、74年にドナ・サマー名義での初リリースとなる“Denver Dream”で再デビュー。同年にはベロッテの制作でファースト・アルバム『Lady Of The Night』を発表している。

  そして75年、元ブッダニール・ボガートが設立した新進レーベル=カサブランカと契約したドナは、ベロッテ制作/モロダー編曲による“Love To Love You Baby”で母国USへと逆輸入的に乗り込む。同曲はシンセサイザーを駆使した妖しげなサウンドメイクもさることながら、喘ぎ声を全編に挿入した煽情的な仕掛けも過激なもので、結果的にUSのディスコ・チャートで首位(総合2位/R&B3位)を獲得した。そのように華々しく始まったカサブランカ時代には4曲の全米No.1を含む膨大なヒットが生まれているが、なかでも〈ミュンヘン・サウンド〉の完成形として別格視されているのが“I Feel Love”(77年)だ。シンセとシーケンサーで組み立てたこの〈プロト・テクノ・ポップ〉は、当時ベルリンに滞在していたブライアン・イーノが〈この先15年のダンス音楽を変える〉と予見するほど革新的だった。

  が、爛熟したディスコ・ブームの終焉を待つことなく彼女の志向は徐々に生々しいロック寄りの表現へ向かうこととなり、80年には新興レーベルのゲフィンに第1弾アーティストとして移籍(その後に続いたのがジョン・レノンエルトン・ジョンだと書けば、当時の彼女のステイタスもわかるだろう)。以降もモロダー&ベロッテとは異なる腕利きたちとまた新しい扉を開いていくのだが、それがカサブランカ時代以上の成功を収めることはなかった。ブルース・スダーノと結婚して私生活に比重を傾けていったのも理由だろうし、信仰への目覚めや、トレンドの変化も当然ある。90年代以降はさらに緩やかなペースに移行しつつ、ライヴはもちろん、ベスト盤やサントラという機会における新曲リリース(その過程でモロダーとのリユニオンも実現)などの活動が途切れることはなかった。2008年には17年ぶりのオリジナル作『Crayons』を発表してツアーも敢行している。

【参考動画】ドナ・サマーの2008年作『Crayons』収録曲“Stamp Your Feet”

 

 彼女は2012年5月に逝去(享年64)したが、没後にEDM勢によるリミックス・トリビュート集が出たことを思えば、今後もその影響力を感じる機会はたびたび訪れるだろう。もちろんモロダーによる文字通りの『Deja Vu』もそのひとつである。

DONNA SUMMER Gold Universal(2005)

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