COLUMN

映画「グランド・ブダペスト・ホテル」

鬼才ウェス・アンダーソン監督の遊び心満載の新作は、ヨーロッパの小さな国のリゾートホテルを舞台にした大冒険の物語

(C)2013 Twentieth Century Fox

 

 ゴールデンウィーク、そして夏休みと、これからの季節、海外に出掛ける旅行客も多いだろうが、穴場としてお薦めしたいのが、ヨーロッパの東端に位置する旧ズブロフスカ共和国だ。壮麗なアルプス山脈に囲まれ、古い歴史と文化を持つブロフスカが最も栄えたのは19世紀。国の各地にある温泉リゾートには、世界中から旅行客が訪れて賑わった。残念ながら第二次世界大戦でファシストに支配され、戦後、共産圏になってからはすっかり寂れてしまったが、今なお栄華の面影を残している高級ホテル、グランド・ブダペスト・ホテルはぜひ宿泊したい。といっても、このホテルはどんなガイドブックを見ても載ってないけれど。

 ウェス・アンダーソン監督の映画『グランド・ブダペスト・ホテル』は、架空の国、ズブロフスカ共和国の高級リゾート・ホテルを舞台にしたサスペンスフルな大河ドラマ。現代をイントロダクションに、30年代と60年代のドラマが交差して描かれていく。ことの発端は60年代、ズブロフスカの国民的作家(ジュード・ロウ)が休養で訪れたグランド・ブダペスト・ホテルで、ホテルのオーナー、ゼロ・ムスタファ(F・マーレイ・エイブラハム)と出会ったことだった。貧しい移民の子供として生まれたゼロは、なぜホテルのオーナーになることができたのか。なぜ年に3度、ホテルにやってきて、いちばん狭い使用人の部屋に泊まるのか。謎めいたゼロに興味を持った作家に、ゼロは驚くべき過去の冒険について語り始める。

(C)2013 Twentieth Century Fox

 

 シュテファン・ツヴァイクの小説を愛読しながら、ヨーロッパ映画を撮りたいと思っていたというウェス・アンダーソン。その夢が叶った本作には、アンダーソンのファンタスティックな妄想でデザインされた、テーマパークのようなヨーロッパが広がっている。そして、その真ん中で、ディズニーランドのシンデレラ城のような麗しい姿で鎮座しているのが、本作の真の主人公(ヒロイン?)ともいえるグランド・ブダペスト・ホテルだ。急峻な山中に建てられたホテルには瀟洒なケーブルカーで登ることになっていて、ウェスの乗り物への偏愛が本作でも伺える(お気に入りの列車もふんだんに登場)。ホテルの外見はミニチュアモデルで制作。屋内はポーランドチェコの間に位置する世界遺産に指定された街、ゲルリッツにある古いデパートに手を加えていて、その素晴らしい出来映えに関しては、ぜひ大きなスクリーンで隅々まで堪能してほしい。

(C)2013 Twentieth Century Fox

 

 さて、そんな夢のようなホテルでベルボーイとして働き始めた少年ゼロは、ホテルのカリスマ・コンシェルジュ、ムッシュ・グスタブ(レイフ・ファインズ)に付いて仕事を学んでいた。そんなある日、グスタブと懇意にしていた裕福な未亡人マダムD(ティルダ・スウィントン)が謎の死を遂げ、彼女の遺言で貴重な絵画「少年と林檎」がグスタヴに贈られることになった。しかし、マダムDの遺産を狙っていた彼女の息子、ドミトリー(エイドリアン・ブロディ)の策略で、グスタヴはマダムDを殺した犯人の汚名を着せられて逮捕されてしまう。グスタヴ救出に向かうゼロ。雪山の刑務所からのスリリングな脱獄劇にはワクワクさせられる。一方、グスタヴとゼロを執念深く追いかけるのは、ドミトリーに雇われた冷酷無比な殺し屋ジョプリング(ウィレム・デフォー)で、ウェスの人形アニメ『ファンタスティックMr.FOX』(09)で、彼が声を担当したラットを思わせるワルなキャラクターがハマりすぎ。グスタヴとゼロは逃亡しながら絆を深めていくが、ゼロは戦争で家族を失った孤児で、グスタヴとの間に擬似的な親子関係が生まれる。父と子の関係は、ウェスの作品の重要なモチーフだ。そんな二人は、世界中の高級ホテルのコンシェルジュ達が所属する〈鍵の秘密結社〉や、ゼロの婚約者でケーキ職人のアガサ(シアーシャ・ローナン)に助けられて、事件の真相に迫っていく。

(C)2013 Twentieth Century Fox

 

 個性的なキャラクター造形、カラフルな美術や衣装、ユニークな音楽(アレキサンドル・デスプラが、バラライカヨーデル宗教歌などを織り交ぜたエキゾチックなスコアを提供)など、こだわりと遊び心に満ちた映画作りは相変わらずのウェス流だが、さらに今回は、現代/30年代/60年代の3つの時代を、異なるスクリーンサイズで撮影しているのも面白い試みだ。サスペンス、アクション、ラヴストーリーなど、エンターテイメントの要素がレゴブロックのようにカラフルに組み立てられた本作。一見、軽やかな語り口の奥には、しっかりと力強い感情が息づいている。ドミトリーやジョプリングよりも恐ろしい戦争の影。そして、すべてを押し流していく時の流れ。物語を語り終えた年老いたゼロから伝わってくる孤独が、映画に深い余韻を与える。今はもう消滅した小さな国で起こった大冒険の物語。この映画には、子供の頃、大好きだった絵本を久しぶりに読み返すような愛おしさと切なさがある。

 


ウェス・アンダーソン監督最新作!
「グランド・ブダペスト・ホテル」

ようこそグランド・ブダペスト・ホテルへ
“伝説のコンシェルジュ”がふるまう窮極のおもてなしとミステリーをご堪能ください

監督・脚本=ウェス・アンダーソン(『ムーンライズ・キングダム』『ダージリン急行』他)
音楽=アレキサンドル・デスプラ 音楽スーパーバイザー=ランドール・ポスター 
出演=レイフ・ファインズ/トニー・レヴォロリ/F・マーレイ・エイブラハム/マチュー・アマルリック/エイドリアン・ブロディ/他

配給:20世紀フォックス映画(2013年 イギリス・ドイツ 100分)
GBH.JP

◎6月6日全国、謎解きロードショー

 


intoxicate presents
特別試写会

映画『グランド・ブダペスト・ホテル』特別試写会に
25組50名様をご招待!

日時:5/27(火)18:30開場  19:00開映
会場:20世紀フォックス映画試写室

 

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