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【架空のJ-Pop考】第6回 「さくら荘のペットな彼女」より“なchuラル”をBorisのAtsuo、AZUMA HITOMI、シャムキャッツ夏目が斬る!

キャラクター・ソング(キャラソン)とは、アニメやゲームなどの劇中の役柄/登場人物として声優が歌った楽曲のこと。このキャラソン市場が拡大を続 ける近年、音楽自体も大きな進化を遂げているらしい、どうやらおもしろいことになっているらしい! しかしその音楽には、実際に作品を観たりゲームに親し まない限り触れることはないわけで。でもその扉を開く第一歩をなかなか踏み出せない……何から手をつければわからない……という人もいるでしょう。 そんな貴方のために、Mikikiではキャラソンという名の〈架空のJ-Pop〉にフォーカスし、一見アニメ/ゲームとは相容れないフィールドで活躍する 3名のミュージシャンに、TOWERanime新宿のバイヤーと編集部スタッフがセレクトした1曲を自由にレヴューしてもらいます。さまざまな意味で目か ら鱗な発見があるかもよ!

そして、今回でBorisAtsuoさん、AZUMA HITOMIさん、シャムキャッツ夏目知幸さんは最後になります。ありがとうございました!

 


 

【今月のお題】

茅野愛衣 さくら荘のペットな彼女 スターター CD-BOX KADOKAWA メディアファクトリー(2012)

 2012年に放送され、人気を博したTVアニメ「さくら荘のペットな彼女」の放送前にリリースされた、メイン・ヒロインである椎名ましろ(CV:茅野愛衣)のイメージ・ソング“なchuラル”。当時のアニソン/キャラソンには珍しい構成で、耳の肥えたリスナーを唸らせた同曲は発表から3年経ったいまでも似たもののない、オリジナリティー溢れるナンバーです。

作曲を手掛けたのは、いまをときめく「ラブライブ!」に“Mermaid festa vol.2 ~Passionate~”を、「アイドルマスターシンデレラガールズ」に“絶対特権主張しますっ!”など、人気アニメに多く楽曲を提供している山崎真吾さん。バンド活動を経て現在は作詞/作曲/編曲に加え、演奏やヴォーカル・ディレクション、ミックスまで手掛けるクリエイターとして活躍中です。多彩なジャンルの音楽を取り上げてキャッチーなポップスに仕立て、それをキャラソンとして昇華させる手腕はシーン屈指の実力! アニソン/キャラソンは気になったクリエイターを通じてさまざまな作品を知るのも楽しいので、気になる楽曲と出会ったらまずクレジットをチェックしてみてくださいね。 *樋口翔(TOWERanime新宿)

 

★Atsuo(Boris)

今回の“なchuラル”は、アニメ放送前にスターターCDボックスとしてリリースされた楽曲。Blu-rayサイズのデジパック仕様で、三方背のボックスに対談などを収録したブックレット付き。この隣に本編アニメのBlu-rayを並べていきたくなる作りになっていますね。

当時のリリース、放送の流れを追体験したくて、まず楽曲を試聴。ポリリズムを多用したポップでキレとスリリングさを持った打ち込み曲。っていうかモロにPerfumeの“ポリリズム”(2007年)を想起させますが、リズム楽器におけるアレンジはもっと多様性があって、平歌部分はバラバラに断片化させていたり、間奏部では鼓笛隊、パレード風のパートもあったりとリズム・アレンジに特化している。そして楽曲は〈バームクーヘン〉という台詞で幕を閉じ、僕はいつものようにアニメ本編視聴へ。

【参考動画】Perfumeの2007年のシングル“ポリリズム”

 

舞台の水明芸術大学付属高校には普通科に加えて美術科と音楽科がひとクラスずつ併設されている……。ビックリ。自分も同じシステムの高校の美術科に通っていました。実際、在学中に漫画の連載を持っている者もいたし、頻繁に水に濡れてシャツを透け透けにさせる女生徒もいたからヘンな親近感が湧く……。

そんな身の上話は置いておいて、第一話。本楽曲のヴォーカルであり、ヒロインの椎名ましろが登場し最初に話す「ねえ、あなたは何色になりたい?」という台詞。“なchuラル”の冒頭でもこの言葉が挿入されています。劇中、この主人公に対する〈問〉が物語のテーマとして描かれていきます。この台詞は物語の締め括りとして、最終話の最後でも登場。この言葉をスターターCDの最初にアニメ作品への導入として配置することで、全体感を上手くまとめています。誰もが納得する美しさ。やはり原作が小説なので〈言葉〉がかなり重要な要素になってくるんですねー。

ちなみにこの3回分の台詞、波形を並べて確認もしましたが、同じ台詞でも別のテイクになっています。特に最終回の語尾は少しピッチが上がる感じで、希望を携えるような表情。読後感を爽やかなものにしています。制作サイドのこだわりが垣間見えますね。

このコーナー、キャラソンを純粋に音楽だけでレビューするという趣旨なんですが、音楽を聴く際、音像自体がリスナーに与える影響は全体の2割ぐらいなんじゃないかな?と考えています。好きなアーティストの音楽を聴くにしても、その人達の容姿、キャラクター、活動の流れ、その作品に対して行われたプロモーション、手に取ったジャケットの重さ、デザイン、聴く場所、その時の雰囲気etc。純粋に音楽そのものを何の文脈の影響も受けないで聴くという行為は絶対にできないだろうなって思います。まずリスナー自身にそれまで生きてきた人生という文脈がありますし。自分は毎回どうしても本編アニメを観ないと気が済まない感じに……。

アニソン、キャラソンはアニメのためにデザインされた音楽だからこそ、ミュージシャンや音楽家の個人的なエゴ、実感、必然性、羞恥心が介在しにくい。そういうものに束縛されない、音楽が本来持つ自由さに還ることができる可能性を持っていると思っています。逆説的に、世界観、文脈は非常に重要な要素となる。その流れを読み楽曲を〈降ろす〉シャーマンとして作り手は機能することになっていきます。キャラソンは文脈ありきの音楽。やはりそれを再確認した連載でした。どうしても本編のアニメが気になるし、それを通過するとやっぱり楽曲の聴こえ方も違ってくる。さまざまな手法で生まれてくる音楽を貪欲に隅々まで味わいたいと思う。音楽が生まれる〈場所〉があって、その場所ごとに多様性がある。その場所の価値観や成り立ちを知ることでいろいろなことが見えてくる。アニメ作品を観るのって異国を旅する感覚と似ているんですよね。

楽曲最後の台詞として登場した〈バームクーヘン〉。オタク文化のなかではなんだか馴染み深い〈バームクーヘン〉。エヴァンゲリオンの碇シンジもドイツ語の一例として〈Baumkuchen〉と口走る。そして、なぜだか筒状のバームクーヘンを丸ごと小脇に抱え、素手でちぎりながら食べ続けるデブキャラがぼくの頭の中にずっといるんですけども、このイメージの起源はなんなんでしょうか???――心当たりのある方は@Borisheavyrocksまでリプください。

ではでは、またどこかで。

 

PROFILE:Atsuo


92年より活動する3人組ロック・バンド、Borisのドラマー。ほぼすべて自身で録音する断続的なスタジオ・セッションを通じ、限定アイテムやUSビルボード・チャートにランクインする作品を発表。毎年行っている海外ツアーに加え、ナイン・インチ・ネイルズのUSアリーナ・ツアーのサポートや数々のコラボレーション、映画「リミッツ・オブ・コントロール」(2009年)や「告白」(2010年)への楽曲提供など、国内外で幅広く活躍。2014年に最新作『NOISE』をリリース、現在もワールド・ツアー〈Live Noise Alive〉を続行中。また、ニコニコ生放送で配信中のアニメ「ニンジャスレイヤーフロムアニメイション」では第1話のエンディング・テーマとして“キルミスター”を提供。同曲はiTunes配信のほか、7月22日にリリースされる『ニンジャスレイヤー フロムコンピレーション「忍」』に収録。9月22日にはイヴェント〈leave them all behind 2015〉に出演。

【参考動画】Borisの2014年作『NOISE』収録曲“Vanilla”

 

 

★AZUMA HITOMI

こんにちは、AZUMA HITOMIです。今月も〈キャラソン〉の時間がやってきました! いよいよ(私は)最終回ということで、最後にくるのは一体どんな強者か!? ドキドキですね。思い起こせばこれまでのお題の3曲、たった3曲ではありますが、どれも実に個性的で、キャラソンへの新たな興味が湧くのに十分すぎる内容でした。本日も夏真っ盛りの猛暑日ですが、キャラソンを聴いてさらにアツくなる予感!

今回の曲タイトルは“なchuラル”。=〈ナチュラル〉ですね。とてもシンプルなタイトルです。どんな曲か全然想像がつきませんが、4:51は少し長めかしら。

さて、聴き終わった感想です! ダンス・ミュージックとしてめっちゃ踊れる!し、とてもポップである!と思います。キャラの声も、萌え萌えなブッ飛んだ感じではなく、曲に馴染んでいて聞きやすいです。これならば私もクラブ・イヴェントで聴いたことがあったかも、という感じがします。お客さんが手を挙げて自由に踊っている姿が目に浮かびますね。ドラムとベースは骨太な4つ打ちを刻んでいて、ウワモノのシンセもトラック数は多いのによくまとまっているのでギンギンな印象になりすぎず、低音を感じながら踊ることができます。サビの軽やかなストリングスのバッキングが素敵です。途中で3拍子になる、展開が忙しいアニソンらしい部分もありつつ、無理なくドラマチックに仕上がっていてとても良いと思いました。〈ひとりで聴いてアニメの世界に潜る〉というよりは〈みんなで聴いて盛り上がる〉ほうが似合う曲かもしれません。

わたしの好きな部分は、3拍子の間奏が終わった落ちサビ(リズムがない静かなサビ)で、メロディーの良さが際立つところです。〈ヒカリの色 感じて 空気の色 感じて ココロの色 感じて〉の部分が、どことなくディズニーっぽいんです。歌い方も真っすぐだし、もっとテンポが遅かったら、森やお城のお庭で草木や鳥や動物たちと戯れるお姫様がなんてことない日常の中で口ずさむメロディーにぴったりだと思います。鉄琴ぽいキラキラした音色の効果もあるかもしれません。そして、時々でてくるヘンな歌詞――〈あのね 胸がフラダンス〉〈ちょっと今日も朝寝坊 なんか着替え見当たらず〉が妙に耳馴染みが良くて、覚えやすいのも魅力でした。ポップなオケに乗って淡々と〈着替え見当たらず〉と歌う曲はそれこそ世界中探しても見当たらないでしょう。

また、この曲は最後までちゃんと聴いてください。最後の最後に〈なぞに満ちた一言〉がぽつりとつぶやかれます。このキャラの好きな食べ物とか? ドラえもんで言うところのどら焼きみたいな? それとも何かの比喩? 〈何層にも積み重なる色〉的な?……わからないけれど気になりました。この曲は2012年の作品ということですが、名曲として残っているというのも頷けますね!

今月でわたしの担当はおしまいなので、キャラソンについて改めて考えてみました。〈キャラソン〉という呼び名は、現在の日本のオタク的なカルチャーによって限定されたイメージを持っていますが、単純に〈キャラクターが歌っている曲〉とすれば、それこそ「ドラえもん」にもドラえもんが歌っている名曲(“ぼくドラえもん”)があるし、「クレヨンしんちゃん」も主題歌はしんちゃんが歌っていることが多いし(“オラはにんきもの”“ユルユルDE-O!”など)、わたしも小さい頃からTVでキャラソンと一緒に歌ってたじゃん!と、思い至りました。また、ミュージカル楽曲をキャラソンと言ってしまうのは違和感もあるけれど、あのディズニーの大ヒット映画「アナと雪の女王」の“レット・イット・ゴー ~ありのままで~”は、エルサというキャラが歌う〈最強のキャラソン〉と言ってもいいのではないでしょうか。この曲はアナ雪のヒットに欠かせない存在ですよね。

【参考動画】2014年の映画「アナと雪の女王」挿入歌“レット・イット・ゴー ~ありのままで~”

 

やはりキャラソンというのはその作品や声優さんを好きであればあるほど好きになってしまう楽曲だと思うし、作品と楽曲の相乗効果でどんどん物語の世界が輝いてゆく、そんな音楽だとわかります。今回はアニメの内容は知らないままに曲のみで感想を書いていきましたが、取り上げられたアニメはぜひ観てみたいです。声優さんが役柄の名義で歌ったCDなどを発売することで、なんだか現実とフィクションの境目が曖昧になるため、よりアニメの世界に深くハマっていくきっかけをくれるのかなあと思います。そんなふうに考えるとキャラソンというものの価値が見えてくるし、一つの音楽ジャンルとしての盛り上がりにも納得がいきました。

ちなみに、キャラソンの起源をググってみたところ、原点は1963年の「狼少年ケン」まで遡るそうで。キャラソンに歴史有りのようですね。これからも、流行のアニメ作品や音楽のムーヴメントを自然に映し出しながらも、それぞれに独自の世界観で攻めてくるキャラソン文化のゆくえを陰ながら追いかけていけたらなと思っています。3か月間どうもありがとうございましたー! バウムクーヘン!!

【参考音源】TVアニメ「狼少年ケン」オープニング・テーマ

 

PROFILE:AZUMA HITOMI


88年、東京生まれのシンガー・ソングライター。大学進学後、ライヴを中心とした音楽活動を本格的に開始し、2010年にMaltineより“無人島”を発表。2011年にTVアニメ「フラクタル」のオープニング曲“ハリネズミ”でメジャー・デビュー。2013年の初フル作『フォトン』では初回限定盤にbanvoxさよならポニーテールGalileo Galileiらが参加したリミックス集も同梱して話題に。2014年には最新作『CHIRALITY』をリリースしたほか、矢野顕子『飛ばしていくよ』に楽曲提供&矢野とのステージ共演、Buffalo Daughter大野由美子らとのユニット=シンセサイザー・カルテットでアルバム『Hello Wendy!』を配信で発表するなど、幅広く活動中。8月24日(月)には東京・渋谷LOOP ANNEXにて〈MUSIC HOURS〉に、9月20日(日)に東京・ラフォーレミュージアム六本木にて〈キーボード・マガジン・フェスティバル〉に出演予定。そして、9月16日にリリースされる矢野顕子のニュー・アルバム『Welcome to Jupiter』にふたたびトラックメイカーとして参加。詳しくはこちらへ!

【参考動画】AZUMA HITOMIの2014年作『CHIRALITY』収録曲“食わずぎらい” ライヴ映像

 

 

★夏目知幸(シャムキャッツ)

この曲かなり好きです! 気になったので、曲の構成やコード進行を自分で取ってみたりしましたが、なんていうか、とても参考になりました。特に、Bメロ途中でメビウスの輪みたいなひねりがあって、サビが始まると自然と違う世界に入っちゃう演出がされてるところ。この展開がおもしろいなあと感じました。

メロディーは覚えやすくて、ビートはサビに向かってノリやすく組まれていて、コード進行には工夫があって、アレンジは風通し良く、でも決してやりすぎと感じさせないところに留められていて、ポップスとしてとても良く出来ているなあというのが僕の感想です。

イントロのシンセのテーマもわかりやすくてポップで好きです。喉元のハスハスした音もしっかり聴かせてくれるヴォーカルの声の処理もいい感じに世界観を醸し出してるなあと思いました。

 

PROFILE:夏目知幸


2009年にアルバム『はしけ』でCDデビューしたシャムキャッツのヴォーカル/ギター。自主制作のCD-R作品群やシングル2曲を発表後、2011年にミニ作『GUM』を、翌2012年にフル作『たからじま』、さらにライヴ会場限定発売のスタジオ・ライヴ音源なども含めてコンスタントにリリースを重ねる。2013年にはTurntable Filmsとのスプリット12インチ・シングル“シャムキャッツ×Turntable Films”を発表。ディアフーフマック・デマルコなど海外アーティストとの共演も精力的に行う。2015年には前作『AFTER HOURS』の〈その後〉を描いた最新ミニ・アルバム『TAKE CARE』をリリースしている。9月19日(土)には大阪・AKASOでキセルとの2マンによる〈ALSO vol.2〉を開催、9月21日(月・祝)には〈Shimokitazawa Indie Fanclub〉に出演。さらに10月10日(土)には自主企画イヴェント〈EASY 2〉を東京・TSUTAYA O-WEST & O-nestで開催する。詳しくはこちらをチェック!

【参考動画】シャムキャッツの2015年のミニ・アルバム『TAKE CARE』収録曲“GIRL AT THE BUS STOP”

 

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