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ジャンル特定不可! あらゆるジャンルからミクスチュアされた、〈いま〉聴かれるべきバンド

 ハイエイタス・カイヨーテはオーストラリアはメルボルンで結成されたバンド。2013年に『Tawk Tomahawk』でデビューしたが、それ以前からネット上にはいくつかのライヴ動画が存在し、僕が彼らを知ったのもそれら動画を眼にしたのがキッカケとなる。音楽にはすぐに共感、興奮したが、同時に(ヴォーカルのネイ・パームのルックや分裂的な曲構成も手伝って)ここまでジャンルを特定しにくいと感じたバンドは初めてだった。使い古された言葉ではミクスチュアだが〈いや、こりゃ本当の意味でのミクスチュアだな〉との印象が鮮烈だったのだ。

HIATUS KAIYOTE 『Choose Your Weapon』 Flying Buddha/ソニー(2015)

 一般的にミクスチュアと分類される音楽は大きな括りではロック・ベースドだが、彼らの場合は幹となるジャンルの特定が難しい。資料には〈フューチャー・ソウル・バンド〉とあり、なるほどグラミーにノミネートされた“Nakamarra”などネオ・ソウル的ムードが濃厚な曲はあるが、そうとは言い切れない楽曲も多い。ヒップ・ホップを中心に各種ビート・ミュージック、ネオ・ソウル、ジャズ、フュージョン、プログレ、ワールド・ミュージックから現代音楽的な響きやノイズ・ミュージックまで、あらゆる要素がときには一曲中に聴きとれるのがハイエイタス・カイヨーテだ。多岐に渡る要素とそれらが推移するスピード感を今日的と捉える向きもあろうが、であれば、80年代にジョン・ゾーンがやっていたことと大差はない。多要素の混在と場面展開のスピード感を実現しながら、なおかつ、肉感的なひとつのバンド・サウンドとして提示できていることを重要視すべきであろう。同傾向の音楽から真っ先に聴こえてくる恣意性よりも肉体性が勝っているのだ。キーボードのサイモン・マーヴィンによれば、制作では各メンバーのバック・グラウンドや興味の対象は自発的に提示され、リハーサルによって曲としての整合性を高めていくと言う。どうやらこの制作方法にもサウンドの鍵がある。そして本作『Choose Your Weapon』ではバンドとしての強度は増し、多岐に渡る要素、その推移のスピードさえもがひとつの個性として響きはじめた。多要素の混在と推移自体は目新しい手法ではないが、そこに肉体性、主体性、そして全体としての整合性が並立しているこの様こそが今日的。彼らに備わったこのバランス自体が魅力なのである。もちろん卓越したヴォーカリストであるネイ・パームの存在は重要で、彼女の声、歌唱(とルックも含めて)がバンドのアイコンとして機能しているのは言うまでもない。

 肉感的に感じる彼らの音楽だが、そこにはマシン由来のアイディアも多く含まれる――現代のバンドにデフォルトとなりつつあるコンセプトだ。楽器毎に、あるいは1小節の中で異なったサブ・ディヴィジョン(16分音符、3連符など楽曲を構成する主要な音符の最小単位)が並走する手法はサンプリングやマシン・ビート由来のもので、彼らは特にヒップ・ホップ経由の訛った(ように聴こえる)ビートを多用する。多く聴かれるハーモニーの平行移動はサンプリングされたコード・サウンドをピッチを変えてパッドにアサイン、それを演奏、プログラムして作曲する手法をバンド演奏に逆輸入したようなものだ。強引とも言える曲展開もサンプル由来と解釈できなくもないが、それよりもPCでの音楽再生時に経験しているスピード感、時には複数の楽曲が偶然重なって再生される瞬間にインスパイアされているように感じられる。

 いずれにせよ、分断した要素が演奏により肉体性を、リハーサルにより社会性を帯び、強い連続性を得たことによりハイエイタス・カイヨーテの音楽はできあがった。音楽理論的な斬新さよりも、リスニングのスピード感の変化が音楽として提示された事実は特筆に値する。ハイエイタス・カイヨーテはいまもっとも聴かれるべきバンドだ。

 


LIVE INFORMATION
HIATUS KAIYOTE ブルーノート東京 単独公演
2015年9月26日(土)東京・南青山 ブルーノート東京
■1st Show
開場/開演:16:00/17:00
■2nd Show
開場/開演:19:00/20:00
http://www.bluenote.co.jp

Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2015
2015年9月27日(日)神奈川・横浜赤レンガパーク 野外特設ステージ
開場/開演/終演:12:00/13:00/20:30
出演:Hiatus Kaiyote/Pat Metheny with Blue Note Tokyo All-Star Jazz Orchestra featuring Scott Colley & Danny Gottlieb: Directed by Eric Miyashiro/Jeff Beck/Robert Galasper Trio/Incognito/Snarky Puppy and more
http://bluenotejazzfestival.jp