Eの次にはFがある――説明不要のエンターテイナーがフレンドリーに届ける新しい放熱の形。身体中を走る興奮と心の奥の静かな熱狂、さまざまな角度から押し寄せる『FEVER』をフィールせよ!

プラスの感情に向き合って

 「もともとは〈喜び〉とか〈楽しさ〉をたくさん詰め込んだアルバムにしたいと思ってたんです。例えばそれを音楽で表現するって一種類じゃないじゃないですか。アップの曲で興奮する楽しさもあるし、バラードを聴いて涙するような心の中の熱狂もあるし。そうやって、いろんな角度からプラスの感情に向き合ってアルバム作りを進めていくなかで、〈これはいろんな興奮や熱狂が詰まったアルバムなんじゃないかな?〉と思って、最終的に『FEVER』に仕上がった感じですね。今回はプラスな気持ちになれる楽曲、明日への活力になるみたいな音楽がいっぱい作れたらいいなと思っていたので、そこはブレずにやれました」。

 自身5枚目のニュー・アルバムを『FEVER』と名付けた三浦大知は、そのように説明する。とはいえ、言葉を尽くさなくとも、アルバム冒頭のアップ・チューン“SING OUT LOUD”の爽やかな開放感を浴びれば、彼の言わんとするムードや狙いは即座に伝わるのではないか。タイトルが示唆する通り、同曲はリスナーを鼓舞するギミックなしの人生讃歌のようでもあり、ストレートな音楽讃歌のようでもある。そして、大知の歌い上げる先の空は、いままでよりもさらに天高く広がっているのだ。

三浦大知 『FEVER』 SONIC GROOVE(2015)

 もっとも、その開放的な目線の広がりは、前作『The Entertainer』(2013年)以降のリリース作品においても少しずつ表明されていた。同作は本人の〈振り切った作品にしたい〉というヴィジョンを投影して尋常じゃないテンションに満たされた傑作だったが、Nao’ymtによる翌2014年3月の“Anchor”から連なってきたシングルは、いずれも『The Entertainer』のマッシヴな緊張感とは感触をやや異にするものだったからだ。同年12月には両A面のいずれもバラードで固めた『ふれあうだけで ~Always with you~/IT’S THE RIGHT TIME』を発表しているが、特にCMソングとして評判を呼んだ“ふれあうだけで ~Always with you~”は、通例と違って楽曲制作にタッチせず、ひとりのシンガーとして〈声〉だけを起用されたもの。表現のアウトプットがシンガー/ダンサー/コレオグラファー/ソングライターといった各要素のトータル・パッケージであることが常な大知にとっては珍しい試みでもあった。

 「最初から曲があって〈この曲を歌ってください〉というケースは初めてでしたね。曲は王道のラヴ・バラードで、『The Entertainer』ではそこも自分なりに振り切っていたつもりではあったんですけど、また違う方向の曲でもあったし、自分が声だけで何を提示できるかというチャレンジでもありました。やってみてすごい新鮮でしたね」。

 そうした経験も踏まえつつ、そこからアルバムの輪郭を見定めるきっかけとなったのは、今年6月のシングル“music”だったという。そこでは極めてポップでフランクなUTAのアレンジに乗せて、音楽の効能がポジティヴに歌われている。

 「リリースは今年だけど曲だけは去年からあって、ストレートにハッピーなことをやりたいね、っていうのはその頃から固まってきたものですね。それとはまた別の話で、年末に事務所主催のイヴェントで後輩というか若いアーティストのライヴを観たんですけど、本当にピュアで音楽してるって感じたんですよ。純粋に音を楽しんで、みんなを盛り上げよう、しっかり表現しようっていう。もちろん自分も音楽に対する初期衝動って忘れてないつもりですけど、改めて自分ももっとそうありたいなって思ったんですね。で、そう思えた時の気持ちが凄い心地良かったというか、前向きな気持ちが連鎖していく瞬間っていうのはいいなって改めて思って、そうなった時に、何となくそういう音楽っていま必要だな、もっとあったほうがいいな、って、考えが凄くシンプルになったんです。ソロ・デビューして10年ということで昔の自分と向き合ったことも関係あるでしょうし、いろんなことが重なっていまの気分になったのかもしれないです」。