生演奏で体験できる貴重なキューブリック・ワールド!
隣人たちとふれる画面と音の臨場感!

 『2001年宇宙の旅』が、オーケストラと合唱の生演奏がついて、しかも映画館と変わらないスペック、美しい映像で、公開される。会場は、おそらくこうした映像と音響をともに体験できるという意味ではもっとも適しているオーチャードホール。

 スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』は、SF映画の古典であると同時に、ただSFというにとどまらず、ヒト、知性、テクノロジー、といったことをめぐって問い掛けをした作品として知られている。監督が作家のアーサー・C・クラークと話し合いをしながらつくっていったというのも重要で、映画が公開された1968年に、小説も上梓された。

【参考動画】映画「2001年宇宙の旅」予告編

 

 映画のストーリー、内容だけではない。その特殊撮影や音響についても画期的だった。奇怪なクリーチャーのかわりにあらわれるのは光であり色であり、無重量状態のさまであり、シュルレアリスティックなモノの配置だ。そしてそれとともにひびく音響は、映像と相乗的に体験するものの身体にむかってくるものとしてある。

 音楽はまた、映画のために書き下ろされたオリジナルのものではなかった。誰もがそれとなく知っているクラシック曲があり、他方、何がおこっているのかよくわからなかったり、ただただ不穏さを、不可解さを聴覚的・皮膚感覚として訴えかけ、増幅してくる「現代音楽」があった。リヒャルト・シュトラウス《ツァラトゥストラはこう語った》、ヨハン・シュトラウス《美しき青きドナウ》、ハチャトリアン《ガイーヌ~アダージョ》が前者。後者としてはジェルジ・リゲティ《レクィエム~キリエ》《ルクス・エテルナ》《アトモスフェール》。

 単に楽曲がつかわれているだけではなく、その映像との結びつきこそが、この映画の名作たるゆえんだ。争っているヒトザルたちと同時にひびく音のざわつき。投げあげた棍棒がスローモーションで落下して葉巻型の宇宙船に変わる、そして宇宙ステーションがみえる、宇宙船どうしのランデヴー、そのときのワルツの浮遊感。ボーマン船長の表情とヘルメットに映る光と色とコーラスの声。

 近年、大きなスクリーンでオーケストラを伴った名作映画の上映が年に何回かおこなわれている。この公演もそのひとつといえるかもしれないが、『2001年宇宙の旅』という名作で、オーケストラと合唱というダブルの構えで、その場で聴けるというのはこれまでほとんどなかった。そこにはまた、録音ではなく、クラシック/現代音楽をライヴのオーケストラと合唱で体験するということも大きい。だから、そう、視覚的にも聴覚的にも、手近なiPhoneやiPad、あるいはちょっと大きくなって家庭用のモニターとは違った大きさと質感に、あらためてふれてみる稀有な機会であるはずだ。

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