【〈NEWWW〉でのライヴ】
――ちなみに〈NEWWW〉でのライヴって何回目くらいだったんですか?
川上「あれはサポートを入れた4人体制では2回目」
桜木「サポートに小林うてなって人が入ってくれて」
――元鬼の右腕の小林うてなさんですよね。
川上「みんな鬼の右腕知ってるんだなぁ」
北澤「あれは最高でしょ。当時すごく話題でしたよね(※鬼の右腕は2013年に解散)」
――うてなさんとはどういった経緯で出会ったんですか?
桜木「僕の友達が、D.A.N.の音源をうてなに聴かせてたみたいで」
川上「北澤さんに聴かせてくれたのもその子だから」
北澤「彼女はキーになってますね(笑)」
桜木「僕は、うてなを蓮沼執太フィルのメンバーとして観ていたんです。大きなホールにライヴを観に行って、3列目に座って〈うてなさんすごい素敵だな〉って。そしたら知らない間に距離が近くなってて、気付いたら年越しと正月を一緒に過ごしてた(笑)」
市川「今回のEPを録ってくれた葛西敏彦さんって方と、うてなと僕らで年末に飲んで一緒に初日の出を見たんです(笑)」
川上「今年一年みんなで頑張ろうって」
桜木「でもそのときは、いまみたいにがっつりサポートで入る話はしてなかったよね」
川上「最初は葛西さんとの仲介役といった感じで」
市川「最近になって、ライヴで大悟がシンセやらギターで負担が増えすぎていっぱいいっぱいになってきたので、さすがにサポートが必要だなと話していたんです。そのときに一番尊敬できて、近いところにいてフラットに話せるのがうてなだったから、お願いしました」
――それで〈NEWWW〉が2回目だったと。3人だけだとそれ以前にどれくらいライヴをこなしていたんですか?
川上「〈NEWWW〉でまだ10回もやっていないかな」
――あの日の雰囲気って、まだD.A.N.を知っているお客さんが少なかったけど、曲が終わるごとに〈これはヤバいぞ〉みたいなザワザワ感が増していって……最後には完全に呑み込まれたオーディエンスの歓声に包まれるという、ちょっと特別なライヴだったと思うんです。
川上「演奏している側の感覚としては、〈わりと静かだな〉って感覚もあったんですが、後から〈どうだった〉って訊いたら〈凄かったよ〉って声が返ってきて」
――当日はチケットも完売してたし、満員のオーディエンスが真剣に聴き入ってる感じがありました。
川上「結果的にすごい夜だったんだな、と」
――では本人たちからすると、あまり手応えはなかった?
川上「いや、僕は〈どうだったんだろう?〉って部分が気になっただけで。反応は良いんだろうな、というのはなんとなくわかっていたんですが……」
桜木「僕はめちゃくちゃ良かったですね」
市川「僕もけっこう入り込んで演奏できていた気がします」
桜木「あと、エンジニアの葛西さんがPAをやってくれて、VJのみっちぇさんや照明の大西さんもいたし。自分たちの仲間で一丸となってやれたから、その集大成を出せたことに自分で感動しました(笑)」
川上「あの日に照準を合わせて準備していたので、かなりエモい日でした(笑)。そのときにできることは全部やれた感じがあったし」
【レーベル活動とDIY精神】
――先ほど少し話に出ましたが、北澤さんとの出会いはデモ音源がきっかけだったんですか?
北澤「さっき話していた子にSoundCloudを教えてもらったんです。でもその前、昨年8月の〈NEWWW〉の第1回目にYogee New WavesとAwesome City Clubと一緒にAun beatz(ラッパーの呂布がMCを務め、桜木と市川が所属するヒップホップ・バンド)が出ていて、そこで2人のことは見ているんですが、そのときは話はしなかった。その後に下北沢GARAGEでまたAun beatzを観る機会があって〈カッコいいな〉と思って」
川上「そのころに、ちょいちょい〈D.A.N.ってバンドやってます〉という話はしていましたね」
市川「当時から北澤さんは〈D.A.N.いいね〉と言ってくれていて」
北澤「SoundCloudはそのころに聴いたんです。そしたらめちゃくちゃ良くて。そこから、彼らが自主制作で作っていたZineと5曲入りのCDがセットになったデモをもらって。〈自分たちで作る〉という姿勢だったり、アートワークなんかも〈センスいいな〉と思いましたね。初めてライヴを観たのは……」
川上「去年の12月ですね」
北澤「Yogeeと一緒にやったライヴだ。あの日がまだ3~4回目くらい?」
一同「そうですね」
――そこから〈一緒に作品をリリースしよう〉というところまで進むのには、何かきっかけがあったんですか?
北澤「僕のなかでは〈一緒にやりたい〉って気持ちは自然とあったので……何度か会って話しました」
川上「僕らも最初は〈自主でリリースしたい〉って話を軽くしてたけど、ちょうどいい落としどころを見つけたというか」
北澤「自分がやってるRomanの新人として、Yogee New Wavesとnever young beachに続く新人として出したかった気持ちもあるけど、彼らは〈自分たちでやっていきたい〉というポリシーを持っていて」
――そのあたりを詳しく訊きたかったのですが、今回のデビューEP『EP』は北澤さんのRomanを擁するBAYON PRODUCTIONと、D.A.N.の自主レーベルであるSuper Shy Without Beerとの共同リリースですよね。なぜこの形になったのかな?という部分と、そもそもSuper Shy Without Beerはどんな活動してきたのかを知りたくて。
川上「活動はまったくしてないですね。将来的には何かやりたいけど、今回のEP以外ではまだ何も動いてなくて」
桜木「いま実質的には活動していないですが、自分たちの意志表明という形でスタートさせました」
川上「自主でやりたいけど、いまは方法が分からないから学ばないといけない」
桜木「自分たちで考えて自分たちで行動する姿勢は持つよ、っていう意志表明です」
北澤「基本的にメンバーはみんなしっかりと考えを持っているので、僕はすごくやりやすいですね。〈どうなりたいか〉みたいなヴィジョンをメンバーで持ちつつ、セルフ・プロデュースで生きていく術がないと、いまの時代を生き残っていくのは厳しいから」
桜木「〈音楽家だから〉とか関係なくて、絵描きでも映画監督でも、いまのクリエイターはそうあるべきだと思う」
川上「Super Shy Without Beerの話に戻すと、いまはとりあえずD.A.N.の存在をしっかり浸透させる作業が重要だと思っているので、そこをクリアしてからじゃないと(D.A.N.以外のレーベル活動は)厳しいかもしれないですね」
市川「いまは北澤さんに助けてもらいながら、それを見ながら勉強しています」
【『EP』を経て向かう世界】
――初の全国流通盤となるEP『EP』が今年7月にリリースされたわけですが、自分たちの手応えや周囲の反応はどうですか?
北澤「いいですよ(笑)」
市川「でも、もう次を更新したいという気持ちもありつつ……」
桜木「自分が聴きたかったものが作れたと思う」
――EPはダークでアンセミックなD.A.N.ワールドが花開く“Ghana”から始まりますが……そもそもなんでガーナなんですか?
桜木「名付け親って誰だっけ?」
川上「俺の記憶では……俺かな(笑)。最初は〈バスキア〉って呼んでいたんです。でも〈バスキアじゃさすがにダサい〉ってなって、Yogeeの“Hello Ethiopia”とかみたいに国名を使ったら面白いかなと。〈じゃあアフリカあたりの国の名前でいいじゃん〉という流れから“Ghana”にしました。サッカー強いんですよ」
――Yogeeが関係してたんですね。
市川「曲のサウンドもどことなく土着的だし〈ガーナっぽいね〉って(笑)」
――なるほど(笑)。でも真面目な話、何かが地中で蠢いているかのような市川さんのベースラインはヤバいと思いました。かなり練って作ったのでは?
市川「ガーナのベースラインは全部感覚で作ってますね」
――えっ(笑)!
桜木「レコーディングでベースを聴いてて〈感覚的にやってるんだろうな〉と思ったもんね」
川上「それと、“Ghana”はビートからできた曲なんです」
市川「ドラムのビートを聴きつつそれに合わせたら〈これはいける!〉って」
川上「“バスキア”って曲のギター・リフを乗せたら〈これも合うじゃん〉となったので、後は全体を整えて……」
市川「“Ghana”は特に感覚的に作りましたね。ライヴなんて毎回ベースラインが違うし。もうレコーディングしたヴァージョンは弾けない(笑)」
桜木「すごく良い意味で〈いい加減〉なんです(笑)」
――カッチリ作り込んだのだとばかり思っていました。
市川「曲によりますけどね」
――ちなみにオープニングの声のサンプリングは誰のものですか?
桜木「アレン・ギンズバーグって詩人のポエトリー・リーディングです。YouTubeで観ていたものが〈面白いリズムだな〉と思って、なんとなくサンプリングしてあったんです。それをセッションしているときにサンプラーから流したらうまく噛み合ったから採用しました」
――それで思い出したんですが、ototoyに掲載されたD.A.N.のインタヴューで、詩人の吉増剛造さんの名前が出てきたことに驚いて。D.A.N.は言葉に対するセンスが並のバンドと全然違うところにあるなと思ったんです。〈詩〉は意識しますか?
桜木「実は意識したのはすごく最近ですね。この曲を書いたときは吉増剛造さんのことも知らなくて。いまも詩作に関してはいろいろ冒険中です」
――いま読んでいる詩集や詩人はいますか?
桜木「高村光太郎や萩原朔太郎はちゃんと読み直したいなと思ってます」
――詩人にかぎらず好きな作家は?
桜木「実はめちゃくちゃ弱いんです(笑)。平野啓一郎さんだったり……あとは、どちらかというと社会学系の本を読んでるかな。でもたいした数を読んでいないから、正直に言うとコンプレックスです(笑)。でも、文学に浸っていないからこそ、言葉の繋がりやコンビネーションをデザイン的な視点で考えることもあって」
――具体例を挙げるとすれば?
桜木「“Ghana”の一行目の〈安心なライオンの背中に乗って〉とか。字面の面白さで歌詞書いてみたり。吉増剛造さんの作品も、言葉がデザインされていますよね」
――吉増さんって、70年代に高柳昌行さんのギターと一緒に朗読をしたり、最近でも大友良英さんと共演していた方だったから、吉増さんの名前が出てきたときに〈D.A.N.は音楽だけじゃなくていろんなアートフォームに興味があるのかな〉という妄想も湧いてきて。
桜木「たしかに、いろんな文化に興味がありますね。自分にはない感覚に出会えるから、そこは興味があります」
――なるほど。歌詞の話に戻すと、音に対する日本語の乗せ方だったり、言葉そのもののチョイスだったりがユニークで、ちょっと普通のバンドマンの書く歌詞とは違うなと感じたんです。ミュージシャンだと、最近の坂本慎太郎さんの作風には通じる部分があるのかな?とか。
桜木「坂本さんのことは、ものすごくリスペクトしてます。あとはキリンジ(KIRINJI)、宇多田ヒカルさんなんかは、日本語の歌ものとして参考にしていますね」
――言葉自体は簡単なワードを使っているけど、そこから生まれてくる余白や謎めいた部分が、曲を聴いていてイメージを膨らませるというか。
桜木「坂本さんの歌詞はまさに絶妙な言葉の並びだと思っていて。天性のものだと思います」
――じゃあ〈日本語で歌う〉ということにこだわりがある?
桜木「そういう意識を持ってやっていますね」
――葛西さんの録り音やミックス、特にコンプレッサーでの抑制の効かせ方が絶妙なドラムなんか特徴的ですが、D.A.N.の音楽性をうまく捉えてまとめているなと感じました。
川上「とってもいい感じでした」
――ドラム・セットはスタジオのものを使ったんですか?
川上「バスドラとタム類はスタジオに置いてあったもので、ほかは自分のものです。すごくちょうど良い仕上がりです」
桜木「葛西さんは若い頃にミニマル・テクノをよく聴いてたらしくて、そういう(クラブ・ミュージック寄りの)耳も持っていて」
川上「こっちから何も言わなくても〈分かってくれてる〉安心感がありました。〈こんなんじゃおもしろくないじゃーん〉とか言いながらミックスしてました」
桜木「これモノマネです(笑)」
――D.A.N.との関係性で言うと、葛西さんからのアドヴァイスをD.A.N.が消化していくような、いわゆる単なるアーティストとエンジニアの関係から一歩踏み込んだ関係なのでしょうか?
川上「そうかもしれないですね。僕らの抽象的なリクエストを、実際の音で〈こんなのどう?〉って提案してくれて、いつも〈あーそれだ!〉って。ちょうどいい距離感」
桜木「レコーディングやミックス、ライヴのPAの作業中でも常に僕らを俯瞰で見て、全体をコントロールしているというか。包容力を感じるし、いつも感謝しています」
市川「僕らが〈こうしたい〉という欲求を、すごく理解しつつ〈でもここが足りないんじゃない?〉と選択肢を出してくれるんです」
桜木「かといって押し付けるわけではなく、僕らを尊重してくれるし。レディオヘッドとナイジェル・ゴッドリッチだったり、中村宗一郎さんや石原洋さんとゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLEだったり、そんな関係性だと思います」
――『EP』に収録されている“Beach”のリミックスが、原曲の〈夜〉な雰囲気をディープに補強しながら踊れる仕上がりにもなっていて好きでした。リミキサーのShinozaki Soheiさんはどんなアーティストなんですか?
川上「D.A.N.が6人だったときのもうひとりのドラムです。彼も市川とダイゴと幼馴染みなんですが、ひとりでなんでもできちゃうタイプで」
桜木「僕と市川は小学校と中学校が一緒でした」
川上「Yogeeで昔ドラム叩いてた……」
――へぇ~! そこから繋がってるんですね。Yogeeとは昔からの付き合いなんですか?
川上「リミキサーの彼がYogeeを始めた後にD.A.N.がスタートして、そこでYogeeを辞めることになって」
桜木「でも健悟(角舘健悟:Yogee New Waves)と本格的に会いはじめたのは去年くらいかな」
北澤「そのへんのシーンは繋がってるんですよね」
――いま同世代で気になるアーティストはいますか?
川上「ライヴがすごく良かったのはSuchmos」
市川「never young beachかな」
桜木「never young beachはめちゃくちゃ尊敬してます。全然考えてない……と言うと語弊があるけど(笑)、常にすべてがシンプルで、それで成り立つのは本当にすごいと思った。僕らがシンプルになるときって、一度複雑に捉えたり、あーだこーだ言いながらやっとの思いで辿り着くんです。彼らはいきなりポーンと行っちゃてる感じがすごくて」
市川「自然に、生きるように音楽を作ってますよね」
――では最後に、今後の方向性だったりアイディアがあれば教えてください。
桜木「次に配信しようかと考えている曲は、『EP』でのイメージとは違って明るくて爽やか。フリーソウルみたいな。マーヴィン・ゲイや山下達郎さんとか、そういう音をD.A.N.の価値感で消化したらどうなるかという実験を試みています」
市川「良いと思った音楽はなんでも聴くので。配信ではEPにはなかったような、でもD.A.N.の芯はしっかり残っている音楽を提示したいですね」
川上「〈TAICOCLUB〉に出たいです(笑)」