ラディダディ、パーティーはお好き? ロジックを超えた感情と、テクニックを凌ぐ衝動の奇想天外なアンサンブル——そのループの果てに浮かぶ快楽とは?

 

この3人で作ること

 ポスト・ロック再評価の波が押し寄せるなか、彼らが4年ぶりに帰還した。ハードコア界隈の超人が集う、言わずと知れたスーパー・グループであり、2000年代半ばにマス・ロック・ブームの起爆剤にもなったバトルス。その待望の3作目『La Di Da Di』は、何と活動初期を思わせる全編インストゥルメンタルのアルバムだ。

BATTLES La Di Da Di Warp/BEAT(2015)

 振り返れば2011年の『Gloss Drop』は、バンドの頭脳にしてヴォーカルを担当していたタイヨンダイ・ブラクストンの脱退というピンチを逆手に取り、ゲイリー・ニューマンら多彩なゲスト・シンガーを迎えたポップでキャッチーな一枚だった。が、今作は構想段階から〈3人で作ること〉を決めていたとか。そこには原点回帰の意味もあったのだろうか?

 「何らかの意図があったわけじゃなく、3人で演って一番しっくりくるものにしたかったし、それを突き詰めたらインストになった……というのが正直なところだよ。もちろん、またヴォーカルを入れることも可能だったけどね」(イアン・ウィリアムズ、ギター/キーボード:以下同)。

 ソングライティングやアレンジはすべてメンバー全員で手掛け、共同プロデュース/エンジニアリングはキース・ソウザセス・マンチェスターの2人に依頼。そしてレコーディングはロードアイランドのマシーンズ・ウィズ・マグネッツ・スタジオに泊まり込んで行ったーーこのような工程は『Gloss Drop』と同じだが、「無限地獄のように終わりが見えなかった」と語る前作に比べ、今回はずいぶんリラックスして作業に臨めたらしい。

 「あと、このアルバムにはテクノロジーが大きく影響していると思うんだ。僕らの音楽はループをたくさん使うんだけど、やっぱり機材が進化すれば音も進化するわけで。ソングライティングにそこまで大きな変化はなくても、その時その時の状況によって細かいプロセスは変わるかな」。

 発表を前に公開された、シーケンサー・ソフトウェアを開発しているエイブルトン社の配信映像「The Art Of Repetition」でも、ループがバトルスの核になっていることは明かされているが、とりわけイアンが新たに導入した64のパッドから成るコントローラー〈Push〉は、今後ライヴにおいても大きな存在感を放ちそうだ。

 

まさかの組み合わせ

 それはさておき、当初『La Di Da Di』は「ミニマリズムを意識したサウンドをめざしていた」という。

 「でも、結局それは失敗に終わったんだけどね。というのも、ミニマリズムを僕らの音にはめようとすること自体、どうしても無理があった(苦笑)。だからそのぶん、音の余白を挿し込んでうまくバランスを取ったんだ。まあ、いちばん大事なのは自分たちが楽しく演奏できることに尽きるかな」。

 かくして完成した楽曲は、ロックのダイナミズムも、現代音楽的な実験精神も、クラブ・ミュージックの快楽性も呑み込んだ、バトルスにしか作り得ない強烈なものとなった。特にファースト・アルバム『Mirrored』(2007年)のインスト曲が好きなファンであれば、この出来に思わずガッツポーズが出るに違いない。

 信号音にも似たループとタメの効いたドラミング、妖しげな鈴の音がどこか異国の儀式をイメージさせる冒頭曲“The Yabba”での、ジャスト5分後の転調から暴れ馬の如く駆け抜けるアンサンブルはとにかく圧巻。以降も東洋的/ゲーム・ミュージック的なウワ音が耳に残る“FF Bada”、奇天烈な高速ギター・リフを軸にエメラルズ顔負けの音響アートを展開する“Summer Simmer”、キーボードのフレーズとフレーズの間にヘヴィーなベース音が詰め込まれて呼吸困難に陥りそうな“Non-Violence”、そして〈電子音のオペラ〉とでも形容したくなる壮大な“Megatouch”など、起伏に次ぐ起伏と多彩なアイデアでリスナーの予想をことごとく裏切ってくれる。その驚きの世界観は、デイヴ・コノプカ(ギター/ベース)が手掛けたアートワークとも共通するものであり……。

 「バラバラの食材が一緒になっていて、何とも不思議だよね。〈まさか!〉と言いたくなる組み合わせがあったり、パッと見は〈無茶苦茶だろ!〉と感じる繋がりがあったりさ。でも、これが僕らの音楽そのものだと思うんだ」。

 11月には、本作を引っ提げて久しぶりの来日公演も決定している。過去には1年で3度も日本に訪れたことがあり、前回は〈3.11〉直後にもかかわらず〈SonarSound Tokyo〉に出演したバトルス。この国への思い入れを最後に訊いてみた。

 「僕たちにとって日本は重要な国で、本当に大好きな場所なんだ。日本のファンは常にアーティストをリスペクトしてくれるし、音楽に対しての情熱が素晴らしいよね。今回も凄く楽しみにしているよ!」。

【参考動画】バトルスの2011年のライヴ映像