ピアノを愛する人すべてに…

 小学5年で独ニュルンベルクに渡り、中学の3年間は英国に留学。そこでピアノを学び、数多のコンクールに優勝して13歳でオーケストラとの共演も果たす。

 「帰国すると周りのみんなが少し真面目過ぎるような気がしてちょっと戸惑いました。英国では何でも自由に弾けたし、楽しむことが演奏の基本だったから…」

 国立音大を卒業と同時にオペラユニット〈レジェンド〉のメンバー(専属ピアニスト)として活躍。

 「歌の伴奏って、正確さだけでなく、いかにうまく歌い手の世界を作れるかにかかっていて奥が深いし凄くクリエイティヴな仕事だと思うんです。それをクラシックを始め、あらゆるジャンルから学びました」

大井健 Piano Love キング(2015)

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 そんなこれまでの経験が今回のデビュー盤に結集。例えば2013年に立ち上げた連弾ユニット〈鍵盤男子〉の相棒、中村匡宏との共作で書き下ろした《Piano Love》はまるでピアノ好きへの応援歌。このタイトル曲がアルバム全体のコンセプトを物語っている。

 「切なくてロマンティックなものから爽やかでポジティヴなイメージの楽曲まで、ジャンルにとらわれず、ピアノを愛する人すべてに贈るアルバムを目指した」

 王道クラシックからはドビュッシーの《月の光》やショパンのノクターン第1番などをセレクト。

 「ノクターンは有名な2番にしようかとも思ったけど、日本人が好きな《月の光》の世界観に合うと思って。どちらも日常生活の中でBGMとしても聴ける心地良さを持っている点も選曲理由として大きいですね」

 シンセを駆使した癒し系アレンジのホルスト《ジュピター》も素敵だが、バックに流れるストリングスの音色も涼しげなスティングの《Englishman In New York》やイーグルスの佳曲《デスペラード》など、歌心を感じさせるポップス曲のカヴァーも印象的。

 「特に《デスペラード》はプロデューサーの紹介で知り、自分でも好きになった曲。どちらもメロディックなところがピアノの音色にぴったりだと思います」

 ジャズのスタンダード曲としてもお馴染みのディズニー・ナンバー《いつか王子様が》では、鍵盤の貴公子の面目躍如たる佇まいに女性ならずともうっとり。

 「敢えてラフマニノフ風のクラシカルなアレンジに挑戦を。…王子様って柄ではないんですが(笑)」

 アルバムの最後を飾る《ヒマワリの旅》は話題の新垣隆による書き下ろし。まるでシューマンのように様々な音が押し寄せてくる展開に魅了される。

 「中村くんに書いて貰った《YAMA-YURI》もそうですが、同時代の作曲家の作品を紹介するのも演奏家の使命だと思うのです。ぜひ今後もご期待下さい!」

 ピアノ界にまたひとり、注目の逸材が登場した。

【参考動画】大井健と中村匡宏による〈鍵盤男子〉のパフォーマンス映像

 

LIVE INFORMATION
レジェンド ふるさと訪ねてコンサート 東京特別公演
○10/11(日)13:15開場/14:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
出演:レジェンド、大井健(p)、東京室内管弦楽団
www.takeshioi.com/