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柳樂氏とのツーショット

 

更新されるジャズとオーケストラの可能性
新作『Time River』で辿りついた境地

――ラップトップでも音楽は作れるし、エフェクトも進化しているけど、いま一番刺激的で新しいことができる楽器がオーケストラなんじゃないかと思うんですよね。〈JTNC3〉でラージ・アンサンブルの特集を組むことにしたのも、それが理由で。

「おー、挑発的ですね!」

挾間美帆 Time River Verve/ユニバーサル(2015)

※試聴はこちら


――挟間さんの音楽も、そういう感じで聴かれたらいいなと思っていて。新作の『Time River』はその感覚がさらに進んでいますよね。曲でいうと“オルタネイト・ユニヴァース、ワズ・ザット・リアル?”は特にそういう面白さを感じました。

「あの曲がオーケストレーション的には一番チャレンジングだったかも知れないです。同じ一つの和音があるんですけど、それを全員が交換しながら弾いているんですよ。だから絶対に同じ和音が鳴っているはずなんですけど、その一拍一拍というか一つ一つで演奏している、担当している音が全員違う。サウンド的には楽器の役割が回るように出来ていて。それって誰か一人が音を外した時点でアウトだし、タイミングも合ってないと成立しないので、すごいチャレンジだったけどやってみたかったんですよね。成功したらどういうエフェクトになるかなと思って」

――すごいエフェクティヴだし、音響的にも面白い。あとは1曲目“The Urban legend”のドラムスの音も現代的でビックリしました。

「スネアの上に小さいシンバルを置いて鳴らすと、ああいう風になるんですよね。ちょっとエレクトロっぽいというか機械的な音になるけど、あれは生の音なんですよ」

【参考動画】『Time River』収録曲“The Urban Legend”
MVのアニメーションを手掛けたジェームス・フランシス(James Francis:過去の作品一覧はこちら)は、
ウィアードコア(Weirdcore)が制作したテーム・インパラ“Cause I'm A Man”のMVにも携わっている

 

――挟間さんのバンドであるm_unitは編成も特殊ですが、個人的にはヴィブラフォンが入っているところがすごく好きです。ストリングスやホーンの持続音のスムースさと対極にある打楽器を入れているところも、挟間さんのサウンドの特徴になっているような気がして。

「私が管弦楽団のためにオーケストレーションをするとき、グロッケンをはじめとするマレット・パーカッション、ハープやティンパニはほぼ最後に書くんですよ。スパイスになると同時に、譜面をピシャっと引き締めてくれる役割だと思っています。m_unitにとってヴィブラフォンはまさにその役目ですね。スムースな部分に豊潤さや色彩を足してくれるだけでなく、アクセントにもなりうるし、倍音を増長してくれる役割もあります」

――“月ヲ見テ君ヲ思フ”はどんなイメージで書かれた曲ですか? アルバムでは、この曲にギル・ゴールドスタインも参加していますよね。

「実はもともと20歳くらいのときに、米田裕也さんが率いるカルテット・グループのために書いた曲だったんですよ。空を見るのがとても好きで、月や星や空や地平線に関する曲が若い頃は多かったんです。自分でいま考えても〈なんでこんなスムーズなメロディーにこんな和音をつけられたんだろう?〉と思うくらい、自然に出来た曲で(笑)。自分のいつもの作曲プロセスと違う形ですんなり生まれた曲だったので、なにかと大切にするようになっていたんです。なので、『Journey to Journey』には居場所がないと思って、保留にしていたんですね(笑)。それでギルからある日、〈僕の書いたアコーディオン・コンチェルトのヴィデオ、よかったら観てね〉とメールが届いたんです(動画はこちら)。これを観たときにピンと来ました。彼の優しい音、創る世界観に、やっと大切にしていた曲を捧げるときが来た!と思いました。それでm_unitとギルの為に再編曲したんです。

――僕はギル・ゴールドスタインの『Infinite Love』(93)というアルバムがすごく好きです。

「私は彼のプロデュース/アレンジしたマイケル・ブレッカーの『Wide Angles』がバイブルですね」
※『Infinite Love』
ブラジル・インストの名手が参加した人気作で、矢野顕子の愛聴盤としても有名(
試聴はこちら)。

【参考動画】挾間美帆“月ヲ見テ君ヲ思フ”のパフォーマンス動画

 

【参考音源】マイケル・ブレッカーの2003年作『Wide Angles』収録曲“Cool Day In Hell”
ギル・ゴールドスタインは80年代にギル・エヴァンスの元で編曲を学び、
パット・メセニーやジャコ・パストリアス等と共演経験をもつアレンジャー/鍵盤奏者

 

――8曲目のタイトル曲“Time River”ではジョシュア・レッドマンがゲスト参加しているのもトピックかなと。

「前から〈東京JAZZ〉のステージをテレビで観たりして、〈すごい人だなぁ〉とは思っていて。留学中に、ジェームス・ファームのライヴで初めてジョシュアの生演奏を観ることができました。あとはSFジャズ・コレクティヴのCDも愛聴盤なんです」

――最近のジョシュアはすごくいいですよね。

「私にとってテナー・サックスの神様はマイケル・ブレッカーなんですよ。でも、彼は亡くなっているので。ちょうどこのアルバムの構想を練っていた時期に考えられると思ったのは、クリス・ポッターかジョシュアだった。それで最終的に勇気を出してジョシュアにお願いしてみたんです」

【参考動画】ジェイムス・ファームの2012年のパフォーマンス動画
ジョシュア・レッドマン、アーロン・パークス(ピアノ)、マット・ペンマン(ベース)、
エリック・ハーランド(ドラムス)による現代ジャズのスーパー・ユニット

 

――サム・ハリスの演奏も素晴らしいですね。ローガン・リチャードソン(気鋭のアルト・サックス奏者、パット・メセニージェイソン・モランが参加した新作『Shift』を10月にリリース予定)に先日インタヴューしたときも「ジェイソン・モランとやりたいけど、彼が無理なときはサムだ」と話していて、僕もずっと注目しているピアニストです。

「彼の演奏は、一言で言うと〈ミステリー〉。私も一応ピアノを弾く人間ではありますが、同じ楽器を弾いているとは到底思えない です、もちろん良い意味で。どうやったらあんなタッチで、あんな和音と、あんなリズム感がピアノという楽器から実現できるのか、全くわからないんです。予定調和をとんでもなく越えた演奏をいつも返してくるので、ときどきひっくり返りそうになります。アルバムの核である“Time River”という曲にはデュオの部分があって、ココの展開が曲の大きなカギを握るので、絶対にサムに頼みたい、と決めていました。ラッキーなことにジョシュアとサムは共演経験があったので話しやすかったですし、案の定で想像を越える、大きな波を持った演奏をしてくれました」

――アルバムの最後で、ア・パーフェクト・サークルトゥールメイナード・ジェームス・キーナンを中心に結成された、オルタナティヴ・メタル・バンド)の“Magdalena”を取り上げているのも気になって。

「高校のときにコピー・バンドでやった曲がカッコよかったんですよね。でも、昔の話だから曲名もバンド名も思い出せなくて。なので、(一緒にバンドを組んでいた)何年も連絡をとっていなかった友達の連絡先を聞き出して、わざわざLINEで訊いたんだけど結局わからなかった。それで実家に帰ってMDを探したら見つかったんですよ! そこからShazamで調べて……」

――いい話(笑)。

「〈出た!〉みたいな(笑)。さっきの友達に〈これだったよ~!〉って報告したら〈そういえばそんな事もしてたね……〉って返事がきて。どうやら当時、その子の友達のために私が耳コピをしてヴァイオリン用のパートを書いてあげてたらしいんですよ。とにかく見つかってよかったですけど、探すの大変でした(笑)。ちなみに、この曲が入っているアルバム(2000年作『Mer De Noms』)だと本当は1曲目の“The Hollow”が好きだったんです。でもその曲は短調で、『Time River』は短調の曲が多すぎるのでこの曲にしたんです」

【参考音源】ア・パーフェクト・サークル“Magdalena”

 

――ア・パーフェクト・サークルって、基本的に暗いというかダークな感じのバンドですもんね。挟間さんには〈ジャズとチェンバー〉だったり、コンテンポラリー・ミュージックっぽいイメージもありますが、このカヴァーみたいに敢えてベタな4ビートのスウィングを曲の一部に取り入れるところも面白くて。そういうのはどういう意図でやっています? 

「ジャズの要素を最大限に生かすのは自分の作曲家としてのコアな部分でもありますし、自然と〈スウィングしたい〉と思うので、特に意図とかはなくて。“Magdalena”に関しては、〈こんなふうに出来るな〉みたいなイメージは聴いたときから結構固まっていたんですよ。『Time River』の曲を作っている時点で、空いたところにこういう曲を足したいというのも考えていて、今回は一番最後にやたら明るい曲を入れようと決めていたんです。『Time River』の長い重い物語のあとに、明るさが欲しくて(笑)。なんかこう、サドメル(サド・ジョーンズ/メル・ルイス・ジャズ・オーケストラ)が締めに“The Little Pixie”を演奏するようなイメージです」

――なるほど。10月15日(木)にはBLUE NOTE TOKYOで『Time River』の発売記念ライヴが開催されますよね。

「NYからレコーディング・メンバー2人を呼び(サム・アニング、ジェイク・ゴールドバス)、各界の強者たちを集めた、まさにドリーム・バンドですので、立体的な音楽を生で体験していただける貴重な機会になると思います。私自身もとても楽しみにしていますし、多くの方にぜひ体感してほしいサウンドです!」

 



〈挾間美帆 m_unit ニュー・アルバム
『タイム・リヴァー』 発売記念ライヴ〉

日時/会場:2015年10月15日(木) BLUE NOTE TOKYO
開場/開演:
1stショウ17:30開場/19:00開演
2ndショウ20:45開場/21:30開演
ミュージック・チャージ: 6,800円

http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/miho-hazama/