バスルームからアイをこめて

 だいたいのことは終わってしまうけれど、かといって始まらなければいいと思うことはありません。昨年7月のBiS解散にあたってコショージメグミが進路として発表したのは、サクライケンタによる新ユニットへの参加でした。サクライケンタといえば、いずこねこのプロジェクトが各方面で高評価を得ながらも終了したタイミング。そんな2つの終わりの行き先としても期待を集めながら始まったのが、このMaison book girlでした。

 昨秋にお披露目され、今年に入って3月に初音源となる『white』と『black』の2作を会場限定リリース。同月の主催イヴェント〈SOLITUDE HOTEL B1〉から現在の編成になり、さまざまなライヴ/イヴェント出演や〈MOOSIC LAB 2015〉で上映された映画「マイカット」(監督:小根山悠里香)への出演など、半年かけて多様な経験を積んできた(写真左から)井上唯和田輪、コショージメグミ、矢川葵の4人組。このたび登場した待望のファースト・アルバム『bath room』は、彼女たちにとって初めての全国流通盤でもあります。

Maison book girl bath room ekoms(2015)

 全編のサウンド・プロデュースはもちろんサクライケンタで、彼の明確なヴィジョンや心の移ろいがメンバーの存在を借りてポツンと佇む一つの少女像を描き出しているように思えるのは、〈girls〉ではないネーミングからもそれとなく感じ取れるかもしれません。ともかく、歯切れの良い7拍子のクラップに導かれた“bath room”から、変拍子を多用して〈現代音楽×アイドル・ポップ〉とも評されたアレンジの妙と、青みを帯びた世界観が耳から入り込んでくるような彼らしさは全開。文字にすると小難しく思えるかもしれませんが、言うなればそれは、ジョニー・グリーンウッドの弾く“Electric Counterpoint”のような親しみやすさ。そこに駆け足で続くキャッチーな“my cut”ともども先述の『white』に収録されていた曲ながら、いずれも新たに作り込まれたヴァージョンで収録されています。さらにワルツからシャッフルへの転換でカタルシスをそそる“最後の様な彼女の曲”ではコショージメグミが作詞を担当し、朦朧とした詩情を不思議な音空間に注いでいるのも大きな聴きどころでしょう。

 ハイライトとなるのは、アルバムの中腹に置かれた“snow irony”。先日MV公開もされたこの曲はキャッチーなリフレインを伴って軽快に響いてくるナンバーですが、“rainy irony”への返歌と取れる〈そんな世界さえ愛すの?〉というフレーズを挙げる必要もなく、ここで脳裏をサッとよぎる猫の影に心がフッとざわめくという人は多いでしょう。それに続く“film noir”と“last scene”は『black』が初出だったもので、もちろんこちらもチューンナップ仕様。一方で、そこに挟まった“Remove”は心地良いギターがナイーヴな歌唱とエモーショナルに溶け合う、雨上がりの曇り空のようなナンバーで何とも言えず素晴らしい出来映えです。そしてラストに置かれた“water”は、とめどない水音とピアノの調べに乗せて4人が朗読するもの。いろいろなものがあっけなく排水口に吸い込まれていくような儚さや所在なさこそ、このMaison book girlとサクライケンタが表現する世界に通底するものに違いありません。

 透明なのか濁っているのか、奇数なのか偶数なのか。ネガティヴ/ポジティヴという安直な二元論を越えて、言葉にしづらいリリシズムと聴後感にうっとりと浸される『bath room』――ここからのMaison book girlにまた注目していきたくなる、そんな傑作です。