【Click here for English translation】

 (C)kohske / shinchosha . gangsta. committee

 

映像の持つエモさを増幅するトラックを

 一員であるヒップホップ・グループ、SHAKKAZOMBIEのリリースは長らく空いているものの、近年はプロデューサーやエンジニアとして、LEF!!! CREW!!!柳田久美子THA BLUE HERBtha BOSSNATURE DANGER GANGなど数々の作品に関わっているトラックメイカーのTSUTCHIE。そんな彼が、現在も国内外で熱烈に聴き継がれている2004年のアニメ「サムライチャンプルー」のサウンドトラックから10年以上を経て、人気TVアニメ「GANGSTA.」の音楽を担当。2枚組のアルバム『GANGSTA. Original Soundtrack "SIGNS"』を発表する。

TSUTCHIE GANGSTA. Original Soundtrack "SIGNS" ランティス(2015)

  「トラックは常に作り続けていて、ソロ作を発表するタイミングを図っているなか、2013年の年末に『GANGSTA.』の音楽制作の話をいただいたんです。監督の村瀬修功さんは『サムライチャンプルー』の制作スタッフでもあって、以前から知り合いだったこと。そして、原作漫画の作者、コースケ先生がクラブ・ミュージックを含む幅広い音楽を聴かれていて、音の世界観に関してもイメージをお持ちだったようで、そんな流れから声をかけていただいたという。今回は原作に忠実な作品ということもあり、〈このシーンにこういう音楽が欲しい〉という事細かなリクエストもあったので、原作を読み込んだうえでリクエストに応えるアイデアを考えていきました」。

 犯罪都市を舞台にスリリングなストーリーが展開するアニメのハードボイルドなタッチに対して、時に激しく、時にメロウに、ジャジーにと紡ぎ出されるビートは場面に合わせて多種多様だが、一貫した緊張感やストイシズムが映像と見事に響き合っている。

 「映像と音のリンクに関して言えば、トラックにラップを乗せるように、トラックに絵を乗せる感覚で作りました。自分の印象として、『GANGSTA.』は基本的にエモい作品なんですね。そこに自分の曲が乗った時に増幅されたエモさで泣きそうになる瞬間が多々あったし、自分も基本的にはエモい人間、エモい音楽が好きなんですよ。そして、そういう音楽を作るには、素晴らしい映像に負けないものを作らないと。だから、ナメたことはできないし、その一瞬一瞬に反応してもらえる曲を作ろうと制作に臨みましたね」。

 作りたい曲や気分に合わせて、エイブルトン・ライヴとプロトゥールス、ロジックという3つの制作ソフトを使い分けたという本作は、数曲で実際のプレイヤーを起用しているものの、そのほとんどはストックしてあった生音の素材と打ち込みを併用。2枚組に収録された全32曲は、もちろんビート・ミュージックとしても楽しめる。だが、その一音一音が徹底的に吟味されたトラックは、ジャンルを超えた音楽として普遍的な感情を喚起させるところに、収斂を重ねた音楽家、TSUTCHIEの凄みが感じられる。

 「例えば、実際にホーンを吹く時は出せる音域が決まっていたり、指の限界で出せるフレーズにも限界がある。打ち込みではそういった制約や限界を無視して自由にできるところに利点があるんですけど、楽器演奏者が言うところの音楽的な知識は自分にとって未知の領域だし、その点を勉強し続けていて。50歳までの目標として、ジャズのアルバムを作りたいんですよ。トラックメイカーのマッドリブが楽器を叩いたり弾いたりしながら、彼なりのジャズを生み出したイエスタデイズ・ニュー・クインテットのような例もありますけど、自分はそこまで叩けないし、弾けないので、自分が得意とする打ち込みを活かして自分の考えるジャズを形にしてみたい。今回の作品では、その取っ掛かりとなるアイデアも形にできたのが、自分にとっては大きな収穫でしたね」。