色が光り輝くデッサン画のような音の響き

 〈アルゼンチン音響派〉という、日本独自で名付けられたムーヴメントが脚光を浴びたのは、ちょうど15年前の2000年。これら全体の象徴となった作品がフアナ・モリーナの『Segundo』だ。金髪アップのジャケット写真で目を引いたこの作品は、奇妙な歌詞と浮遊感のあるメロディを、文字通り音響的なサウンドに乗せた異色作だった。当然のごとく、アレハンドロ・フラノフフェルナンド・カブサッキといった前衛ミュージシャンたちにスポットが当てられたが、意外なことにフォロワーというべき存在は少ない。個人的に〈第二のフアナ・モリーナ〉が現れたと思えたのが、2013年にデビューしたマリナ・ファヘスだった。

 1983年にブエノス・アイレスで生まれたマリナは、音楽家としてだけでなく画家としても活動し、アート・ホールやレコード・ショップにも携わるなどマルチな活躍ぶりを見せている。2年前のデビュー作『Madera Metal』では、前述の通りフアナ・モリーナを彷彿とさせるフォークトロニカを披露してくれた。それもそのはず、フアナの大傑作をサポートしたギタリストのフェルナンド・カブサッキが全面的にサポートしていたことが成功の要因といってもいいだろう。

MARINA FAGES Dibujo de Ray panai(2015)

 そして、この度届けられた新作『Dibujo De Rayo』も同じようなテイストだろうと思って聴き始めたところ、かなり印象が違って驚かされた。のっけからアグレッシヴなロック・サウンドに導かれ、ノイジーなギターが鳴り響く。前作同様にカブサッキなど音響派周りのミュージシャンが参加しているが、理由はそれだけではない。アルゼンチンの枠に収まらず、ブルックリンあたりのオルタナティヴなシーンを見据えつつ、世界に通じるアヴァンギャルド・ポップを構築しているのだ。もちろん、前作にあった詩情も忘れておらず、独特の浮遊感も健在。開かれた音響派とでもいうべき印象の作風は、アルゼンチン音楽の新たな指標になりそうな予感がしている。