Page 2 / 3 1ページ目から読む

この3人は曲の佇まいが共通している(VIDEOTAPEMUSIC)

VIDEOTAPEMUSIC 世界各国の夜 KAKUBARHYTHM(2015)

――エマさん、TUCKERさんは『世界各国の夜』をどう聴きました?

TUCKER「またさらにアップデートした感ありますよね。クォリティーが上がってるし、有機的な要素がかなり増えた」

VIDEO「鍵盤と向き合いはじめたというのが、有機的な要素なのかもしれないですね」

TUCKER「ライヴ向けのバンド編成の曲とかもあるしね」

エマーソン「ずいぶん生演奏でアレンジされてる比重がすごく大きくなったなと」

VIDEO「ですね。スティール・ギターやホーン、パーカッションを入れてライヴをする機会が増えたので、それをフィードバックしていったらああいう比重になったという面はあります」

エマーソン「今年の8月の頭に恵比寿LIQUIDROOM(〈LIQUIDROOM 11th ANNIVERSARY ~カクバリズムの夏祭り~ "Summer's Here"〉)で観たライヴの印象が大きくて。あれはバンドでやってて、すごく生演奏な感じだったので、すごく前進してるなっていう感じがありました」

【参考動画】VIDEOTAPEMUSICの2015年作『世界各国の夜』収録曲“Kung-Fu Mambo”の
〈LIQUIDROOM 11th ANNIVERSARY ~カクバリズムの夏祭り~ "Summer's Here"〉でのライヴ映像

 

――VIDEOくんはエマさんやTUCKERさんの作品はどういうふうに聴いてました?

VIDEO「鍵盤を扱う先輩として学ぶことも多いですし、2人とも楽器そのものへの愛着をすごく感じますね」

――VIDEOくんの新作、エマさんの『遠近に』、そしてTUCKERの『TUCKER Plays 19 Post Cards』もそうなんですけど、三者三様にエキゾ的な表現を自分なりに解釈しているというのは下敷きにありますよね。日常と知らない世界が繋がってるという感覚が通底してるというか。

VIDEO「そうですね」

TUCKER「例えば、エマさんはわりとレゲエ寄りのアプローチが多いじゃないですか。ぼくもレゲエは聴きますけど、日本の人に本場のレゲエを直訳されても困るなっていうのがあるんですよ。逆にエマさんみたいに自分なりの解釈で翻訳されてておもしろくなってると、僕は〈へえ、レゲエってこういう感じなんだ〉って逆にわかるんですよ」

VIDEO「それは2人ともありますよね。翻訳の仕方がおもしろい」

――直訳と翻訳の違いって表現はおもしろいですね。

TUCKER「あまりに直訳すぎると、日本でそれ聴いても本場とあまりに距離が遠すぎてわかんないというところがあるじゃないですか。でもエマさんの演奏を知って、エマさんなりに翻訳されてるレゲエを聴いて、それを入り口に昔のルーツ・レゲエを聴くようになったりする。そういう体験が結構おもしろいなと思ってて」

――扉を開けてくれる存在というか。

TUCKER「演奏してる人を見て初めて〈こういう楽しみ方なんだ〉ってことがわかったりしますしね」

 

エマーソン北村

62517日生まれのキーボード・プレイヤー。80年代末に参加したJAGATARAMUTE BEAT以降、幅広い知識とテクニックに基づいた〈音楽力〉で、シンガー・ソングライターからロック・バンド、クラブ・ミュージックなどさまざまなアーティストと共演。古いキーボードとリズム・ボックスだけで演奏するソロ活動(通称エマソロ)では、レゲエ/ロックステディを出発点に、さまざまな音楽のエッセンスを凝縮した独特の柔らかいグルーヴを奏でる。カヴァーを中心に90年より音源を発表。20147月、オリジナル中心の作品としては初となるソロ・アルバム『遠近(おちこち)に』(bubblingnotes)をリリース。201511月には、その『遠近に』からの3曲にダブ・ヴァージョンや新ミックス、未発表曲をカップリングして、7インチ・シングル3枚をリリース予定。

 

――エマさんはいまTUCKERさんが言ってたようなことって意識してきたんですか?

エマーソン「そうですね。いろんな道筋があると思うんですよ。基本的には、エキゾ、ラウンジイージー・リスニング……、いろんな呼び方はあると思うんですけど、そういうのが好きな人って濃い人が多いんですよ。イケイケな音楽が一方にあるなかでそういうのに着目する人って、なんかコアなものがある(笑)」

――つまり、エマさん自身がそういう性質の持ち主でもあった、と?

エマーソン「そうですね。いまTUCKERが言ってくれたことを自分なりに翻訳すると、レゲエやってる友達は多いし、好きな音楽もレゲエが多かったけれど、どうしても自分がその色になりきらないときに、〈やっぱなあ、結局子供のときにイージー・リスニングとかを聴いてきたから、レゲエ一色にならないんだろうなあ〉って思ったりはしてました(笑)」

VIDEO「もともとイージー・リスニングが好きだったんですか?」

エマーソン「まあ、世代的にはみんな普通に聴いてたんですよ。70年代まではTV、ラジオからもそういうのが流れてくるんで」

TUCKER「でもね、変なものやあんまり主流にならないものを並べて聴いて、うわべだけでキャッチして提示するっていうのは結構簡単なんですよ。でも、エマさんの演奏を聴くと、そういうんじゃないんですよね。もっと愛があって、もっと深い。余分なものが削ぎ落とされたシンプルさで出来てる」

VIDEO「音楽の核の中心まで見てる感じですよね」

【参考動画】エマーソン北村の2014年作『遠近に』の予告編

 

――両方からエマさん論が出てますが、ご本人としてはどうですか?

エマーソン「余分なものがないというのは、また別のファクターですよね。バンドを主にやってきてるからだと思うんですよ。バンドのキーボードという意識がどこかにあるので、音数が少なくなっているのかな」

TUCKER「リヴァーブとか全然ないですよね。〈素材、ドンドンドン!〉みたいな」

VIDEO「そうですよね。料理でいえば、素材の味のまま食べさせてくれる、みたいな」

――僕はエマさんがオルガンで細かいラインを弾くときの指の動き方が好きなんですよ。あれも包丁で素材を細かく刻むことが美味しさの素であることと通じてるように思えます。

TUCKER「作ってるまな板が目の前にある感ですよね。台所というか、音を作ってる現場がエマさん自身の近くにある感じ」

VIDEO「それ、わかります。あとこの3人は、曲の佇まいみたいなものは共通してるのかなと思いますね。ちょっとした小鉢みたいな料理をポンと出す感じというか」

TUCKER「なかなか小鉢には出会えないよね。自分が客席にいるときでも、小鉢が見たいなと思うんですよ」

エマーソン「わかる」

VIDEO「カレー、ラーメン、みたいなのが多い(笑)」

TUCKER「何にも主張してない音楽のほうが僕は気になるんですよ。アーティスト名が最初に来るんじゃなくて、音が最初に来て〈なんだこれ?〉って思う。そういうのってあんまりないから」

VIDEO「石柱のようにトンと存在しているような音楽ですよね」

TUCKER「のっぺらぼうみたいな音楽のほうがヴェールに包まれてる部分が多いので、僕は気になるんです」

 

TUCKER

エレクトーンを武器に即興性を掛け合わせ、リズム・ボックスやギター、ベースなどを一人で駆使するオリジナルなスタイルを持つパフォーマー。国内以外でも数多くの海外公演を行う。90年代からエレクトーン奏者として活動。これまでに3枚のソロ・アルバムとDVDを発表、201332日にKAKUBARHYTHMよりエマーソン北村とのスプリット7インチ・シングル“SPECIAL PREISETS”をリリース

 

――正体不明で主張のない音楽のようでいて、聴き手に解釈させるイマジネーションの余地はとても大きくある。そこもこの3人には共通している要素だとも思いますけどね。

エマーソン「やっぱりそれは、3人とも鍵盤演奏だけでもないし、音源を作ることだけでもない、トータルで何を作るかということを意識しているからじゃないですか? だから、ライヴの空気感というのがすごく独特なものになる」

VIDEO「TUCKERさんにしても、エマさんにしても、自分の音楽と自分自身への空間への溶け込ませ方みたいなのが、すごいなと思いますね」

TUCKER「VIDEOくんもそういう方向性でしょ?」

VIDEO「僕もそういうことを考えるので、お二人のやってることを見て勉強させてもらってます。〈その空間の中で自分の音楽にとって一番ベストな感じはなんだろう?〉ってことはいつも考えますね。ただ〈ステージでライヴやって、お客さんが観て〉みたいなだけではない方法を常に探っていて」

TUCKER「自分の存在感を消すとかね」

VIDEO「そういうこと、やっぱり考えますか?」

TUCKER「結構難しいんですよ。いかに気にしないでいてもらうかというのは」

エマーソン「それについてTUCKERはいつも一番言いますよね」

TUCKER「恵比寿のTime Out Café & Dinerでやってるラウンジ・イヴェント〈TUCKER'S MUSIC LOUNGE〉のコンセプトは誰にも気にしないでもらうってことでしたからね。そのためにいろいろ工夫してます。お客さんのほうに僕が向いてること自体がプレッシャーかもしれないと思って、最近はもう壁に向かって演奏するっていうのを最近は試していて(笑)。お客さんが拍手しなくちゃいけないみたいなのもなくしたい。なんか、作品をメッセージとしてこっちから提示してなくても、音楽ってあっていいと思うんですよ」 

【参考動画】〈TUCKER'S MUSIC LOUNGE〉の予告編映像

 

――誰にも気にされない状況で、パッと見たらエレクトーンが燃えてるみたいな?

TUCKER「いや、そのときは燃えてちゃちょっとヤバいと思うけど(笑)」

VIDEO「どれが正解とかじゃなくて、いろんな聴かれ方があっていいんじゃないかってことですよね」

TUCKER「そうです。ライヴハウスとかに行くと〈もう逃げられない〉みたいな状況あるでしょ。〈おーい! 出てきたぞ! ライヴやるぜ!〉って出てきて、お客がライヴを聴く。そういう一個のパターンしかない。踊りと生活がちゃんと一緒になってる国の人たちって、みんな勝手に場を楽しんでるんですよね。勝手に踊ってるし、勝手に飯食ってる。演奏者としてはそういうほうが心地良かったりする場合もあったりするし。お祭りとか行くとホッとするのは、みんな勝手に飲んでて、おもしろければ拍手もする、そういうほんわかした感じがあるからなんですよ。そんな状況を僕はなんとか作ろうとして、難しいなって思ったりもしてて」

エマーソン「僕らはそういうことをいろいろぐっちゃぐちゃと考えるタイプなんだと思う(笑)」

TUCKERの2011年作『TUCKER Plays 19Post Cards』収録曲“yellow rice flower”のライヴ映像