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『哀歌 -aiuta-』を紡ぎ上げた〈ブルース〉――古今東西の縦糸と横糸

 US産のブルースと日本のブルース歌謡、その双方を収録した今回の『哀歌 -aiuta-』。ここではその収録曲を簡単に紹介しておこう。

 まずオープニングを飾る“St. Louis Blues”は、1914年にWC・ハンディが作曲したブルース進行のナンバーで、ベッシー・スミスが25年に吹き込んでいるジャズ・スタンダード

ベッシー・スミスによる1925年録音の“St. Louis Blues”

 

 〈本場〉の楽曲では、ボブ・ディランアニマルズの歌唱で知られるフォーク・ソング“The House Of The Rising Sun”、先立って他界したBB・キングの代表曲“The Thrill Is Gone”(69年)、そしてロバート・ジョンソンの定番“Sweet Home Chicago”(37年)を〈くまもと誘友大使〉ならではのオリジナル詞で披露した“Sweet Home Kumamoto”、アラン・ドロン主演映画「危険なささやき」(81年)などで使われたオスカー・ベントン版が有名な“Bensonhurst Blues”(73年)……と、一口に〈ブルース〉といっても中身は言葉以上に多彩だ。

ボブ・ディランの1962年作『Bob Dylan』収録曲“The House Of The Rising Sun”

 

ロバート・ジョンソンの1937年のシングル“Sweet Home Chicago” 

 

 つまり、〈ブルース/歌謡曲〉という単純な区分ではなく、シャンソン的な曲調で日本に〈ブルース〉を広く知らしめた淡谷のり子“別れのブルース”(37年)や二葉あき子の“フランチェスカの鐘”(48年)も含め、多様な視点や角度から多様な〈ブルース〉が選ばれたと言ったほうが近いだろう。

淡谷のり子の1937年のシングル“別れのブルース”

 

 さらに、藤圭子ヴァージョンの詞で披露した“夢は夜ひらく”、その藤も歌った矢吹健“あなたのブルース”(68年)は、いずれも八代自身にとっても再録音となるもの。特に藤本卓也の名曲がジャズ編成でディープに生まれ変わった後者には注目だ。

 なお、ストーンズ曲を歌うシャーリー・バッシーのようなノリが楽しいTHE BAWDIES提供の“Give You What You Want”、儚い哀感と共に〈夜の女〉を描いた横山剣らしい“ネオンテトラ”といった書き下ろしナンバーもカヴァー曲の流れに沿うもの。そして、中村中による“命のブルース”はとりわけ胸に迫る。