根強く支持を集めている日本のスカ・シーンだが、歌モノにこだわったバンドというと意外にも数が少ない。そんななかでTHE MICETEETHに続く存在として注目されているのが、このCubetoneだ。2013年にリリースされたファースト・アルバム『Ones in town』が好評を集めた彼らだったが、直後にメンバーが脱退するなど波乱もあった。

 「一度は8人だったメンバーが4人になって。CDを出してこれから勢いをつけてやっていこう!って以前に、バンドを立て直すことから始まっちゃったので。でも、活動休止しようとは思わなかった」(オオホリマサキ)。

Cubetone Cinema paradiso TOWER RECORDS(2015)

 新メンバーを迎え、ライヴやスタジオ・セッションを重ねてじっくりとアンサンブルを深めてきた彼らが、2年半ぶりとなるセカンド・アルバム『Cinema paradiso』を完成させた。

 「以前はデモの段階からほとんど僕が作り込んでいたけど、いまはある程度出来た時点で、メンバー全員がアイデアを出し合ってアレンジを固めていく感じですね」(オオホリ)。

 ジャマイカ音楽を基軸にしながら、カリプソやラテン、サンバスウィング・ジャズなどを消化し、ポップな肌触りに昇華していくのが彼らのサウンドの魅力だ。

 「僕らもスカは好きなんですけど、普通の人が思い描くスカ・バンドの音とは全然違うと思う。そこに個性を感じてもらえるのかもしれないですね」(オオホリ)。

 「みんなルーツ・ミュージックが好きでありながら、J-Popも好きで。そういういろんな要素を盛り込めたサウンドになったと思います。それに僕も含めてメンバーみんなが、いまの尖った音よりは古くて温かみのある音を指向していて。そこもバンドの音として一貫性を生んでいる要因なのかもしれない」(森ちゃん)。

 「僕はもともとスウィングのバンドをやってたんですけど、“BUMPKIN's jaiv”のアレンジは結構こだわりました。田舎者が都会をめざして生活していくみたいなイメージを表現できたらいいなと試行錯誤して」(矢野佑樹)。

 「スカって荒削りのサウンドだったり、ライヴ感を重視したりするのも良さだとは思うんですけど、ウチらはアレンジの部分で良い意味でも悪い意味でもキチッとしてて隙がない感じはあるかも。お弁当で言うところの幕の内弁当みたいな(笑)?」(美波)。

 「そう言うと、〈じゃあ本当のスカは何なんだ?〉ってことになっちゃうんだけど(笑)。でも、例えば弁当には弁当、牛丼には牛丼の美味しさがありますからね」(オオホリ)。

 本作に通底するテーマは〈映画〉。曲ごとにストーリーや主人公を意識しながら、曲作りを進めていったという。

 「前作は自分が感じたことや経験を歌詞にすることが多かったけど、今回は未来への希望や願いを物語にしてみたり、曲から連想するイメージを膨らませていったり、あとは実際にある映画の脇役のサブストーリーを勝手に考えてみたり……いろんなアプローチで詞を作っていきました」(美波)。

 ロックステディ調の“泡のため息”は、オオホリのロマンティシズムが炸裂する妄想を、美波が小粋なリリックに仕立てた1曲。

 「男の一人暮らしのシャワールームにある石けんが主人公なんです。その男の子のことが好きだけど、喋れないし気持ちを伝えられない。そんな自分をすり減らして、相手を綺麗にしていくっていう献身的な愛をイメージした曲で……っていう長文のメールを美波に送りました(笑)」(オオホリ)。

 「歌詞を書いていて思うのは、お客さんがライヴで一緒に歌ってくれて、自分の人生に置き換えて消化してくれるのが嬉しいんです。Cubetoneの歌を自分自身のシネマに重ねて、新しい色に生まれ変わらせてくれたらいいなって思います」(美波)。 

 

Cubetone
美波(ヴォーカル)、オオホリマサキ(ベース)、沖野正典(キーボード)、ヒラノマコト(ギター)、森ちゃん(ドラムス)、ケンケン(トランペット)、矢野佑樹(テナー・サックス)、マナティ(アルト・サックス)から成る8人組のスカ・バンド。2009年に東京で結成され、翌年に初音源となるEP 『Coconuts』を自主リリースする。2011年には自主イヴェント〈Ska way that〉をスタートするなど精力的にライヴ活動を展開し、2013年1月に発表したファースト・アルバム『Ones in town』が〈タワレコメン〉に選ばれて注目を集める。2014年には〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出演。このたびセカンド・アルバム『Cinema paradiso』(TOWER RECORDS)をリリース。