Photo by Frank Stewart for Jazz at Lincoln Center

 

奇跡のライヴから60年 初出インタヴュー収録のコンプリート盤ついに完成!

 モダンファン、スイングファンを問わず、愛聴盤のひとつとして名前が挙がることの多い名盤に、何と、時代のドキュメントとも言っていい、コンサートの完全録音音源、さらにコンサート終了直後の臨場感溢れるエロール・ガーナーをはじめ関係者へのインタヴューが加えられた、まさに“時代”を記憶するコンサートを詰め込んだ黄金期のジャズ玉手箱の発売だ。

ERROLL GARNER コンサート・バイ・ザ・シー 完全版 Sony Music Japan International(2015)

 もう、だいぶ前になるがドゴール空港からパリ市内へのタクシーを拾うと運転手は粋な小柄な中年の女性で、何と車内にはガーナーの小さな写真がたくさん貼ってあった。カセット(!!)レコーダーからはガーナーの演奏が流れ出てきた。セーヌの流れのむこうに見えてきたパリはガーナーの《ビハインド・ザ・ビート》の演奏がよく似合った。バリが似合う、もっとも人気のあるピアニスト、の一人である理由は、このビートが持つ、余裕と優雅さのせいだろう。スピード感溢れるニューヨークや東京とも違うヨーロッパの空気、そして、アメリカなら本作が録音された西海岸の温暖な気候、この作品はそんな風土を伝え、まるでライヴ会場に紛れ込んだ気持ちで過ごせるアルバムだ。

 収録された作品は、今ではいづれもジャズファンお馴染みの曲だが、当時、ガーナーが取り採り上げてその後ボピュラーな存在になったものもある。さらにオリジナル発売の形も大切にしたいファンにはオリジナルの収録順のディスクも用意。そして、ガーナーの肉声を含めたメンバー3人の初出のインタヴューまでが詰め込まれた。ベテランファンには思い出をさらに膨らませるアイテムとして、初めての方にはガーナーの唯一無二のビートに初めて出会える作品としてこの上ない完全盤での発売だ。

 後年の調査発掘によって多くのコンプリート作品が発表される中、コンサート終了から時を待たずして発売された本盤の臨場感が感じられるインタヴューはジャズの生々しさを伝えてくる!