僕も初期のbirdさんの音楽はカッコイイと思っていたから、いまの僕の興味とも対象が近いし、その方向で行ってもいいんだなって(冨田)

――僕は〈JTNC〉で〈プログラミングした機械の音を、ドラマーが叩き直した音〉がおもしろいと言ってきたんですけど、冨田さんは〈プログラミングした機械の音をドラマーが叩き直した音を、もう一度機械で打ちこんでみる〉ということを今回やっていて、〈あ、もう覆しやがった(笑)〉みたいな感じですよね。 

冨田「そこね、自分でも〈なんだろう〉と思いながらやりますけどね(笑)。僕はわりと打ち込みで生っぽいドラムの音をずっとやってきたけど、それはもちろん、好きなドラマーの(演奏の)ニュアンスを出したいからやるわけじゃないですか」

MISIAの2000年のシングル“Everything”。誰もが知るミリオン・ヒットであると同時に、冨田の〈生ドラムっぽい打ち込み〉の代表例として挙げられる一曲

 

冨田「それで、打ち込みっぽいのを生で叩いて格好良いドラマーが好きになったから、そうするとその感じをやりたくなるわけじゃん(笑)。だからと言って〈音だけ生っぽくして、完全に機械の打ち込みでやればいいじゃん〉っていうとそうじゃなくて、そうすると全然その感じにならないの。いくらマーク・ジュリアナがサブディヴィジョン(楽曲を構成する主要な音符の最小単位)が変わるときに、人間が叩くとどうしてもズレるの嫌だって言ってもね、ズレないようにただ機械で打ち込んだら、全然カッコ良くわけ。やっぱり、それは人間が(機械のように)やることによって新たなグルーヴになっているんだよね。そう思っちゃったからにはしょうがないんで、(自分が打ち込むものも)そういう感じにしたいって思うんだよね」

――実は、マーク・ジュリアナみたいなジャズ・ドラマーが打ち込みのような音をドラムで叩くようになって、最初に浮かんだのは昔の冨田さんなんです。ヴェクトルは逆なんですけどね。ドラムが生演奏っぽいのにクレジットを見たら、全部の楽器が冨田ラボだと書いてあって、音はバンドなのに、これは全部打ち込みなのか、打ち込みの進化ってすごいなって思っていたんですけど、その人が2015年に、進化したドラマーのリズムをまた打ち込むなんて……みたいな。

冨田「マーク・ジュリアナが好きとか言い出してからも、自分の作品になかなか反映しなかったのは、なんか順番っていうか、経緯がおかしくないかって思ったのもありますよ。プログラミングで生っぽくやるときに、プログラミングのドラムを模したような生演奏のミュージシャンが好きになったからと言って、またそれをプログラミングでやるのはどうなんだってのは、やっぱり自分でも思うわけ(笑)。だけど、なんだろう、ジュリアナたちのスタイルも市民権を得て安心したというか、時が解決してくれた感はあるね。好きで効果的に思うアプローチはやらざるを得ないし、やらない理由はないという結論」

 

冨田「だから、それを僕はまたプログラミングでやるわけだけども、経緯はともかく、やりながら再確認できたこともありましたね。リズムに対しての歌の在り方とか、さっき話したスクウェアと4ビートのスウィングの乗り方もそうだし、ウワモノとベースとか、いろんなものの関係とかにしても、結局は機械を経過しようが、それによって人間がグルーヴに対してどういう解釈をして演奏するようになったのかとかね。そこに至る経緯も興味深いんだけど、重要なのは僕らはその結果を聴いて興奮させられてるんだってところだよね。あと自分に関しては人間が何に反応して、どう考えて、何をやるのかにしか興味ないんだなって思いました。だから人間がそういった(打ち込みの)リズムも視野に入れて演奏するようになって以降の価値観がないと、たぶんこういったことはやらなかったよなという気はしますしね」

――歌の在り方という話が出ましたけど、例えば、グラスパーがやっていることって、ヴォーカリストが歌いやすくなさそうだなっていうイメージがあって。でも、今回のアルバムは〈ザ・歌もの〉という感じがして、歌いづらくもなさそうな印象もありました。

bird「そう、歌いやすいんですよ。例えば“Lush”は、私にとってはデビューをした頃の感じを思わせる音楽なんです。私が初めてレコーディングをした“甘く甘くささやいて”という曲があるんですけど(筆者注:99年のデビュー・シングル“SOULS”のカップリング曲。ソウルクエリアンズのサウンドをJ-Pop化したような、アルバム未収録の隠れた名曲)、それは訛っているスタイルの曲で、それまでそういうものを歌ったことがなかったんです。普通に歌うと〈もっと後ろで歌って〉とMonday満ちるさんに言われて、〈え、遅くない?〉くらいの勢いで、レイドバックするリズムを後ろで取って歌っていくことをすごく勉強したんです。最初はすごく違和感があったんですけど、そういう歌い方ができるようになると遊べるんですよね、いろいろ。例えば、歌は後ろに行くんだけど、リズムはずっとそのままでいたり、そういう(演奏との)駆け引きみたいなものをライヴでも楽しめるのもあって、〈あ、こういうの好きかも〉って思ってたんです。それからしばらくそういう曲を歌っていなかったので、“Lush”が来た時に、冨田さんの仮歌がすごい後ろになってて、〈冨田さん、レイドバックして歌ってる!〉と思って(笑)。コーラスも含めて、アプローチもすごい好きな感じだったので、これは楽しく歌えそうだなって思いましたね」

――birdさんの初アルバムも同じ99年に出たわけですけど、その頃ってちょうどエリカ・バドゥみたいなネオ・ソウルがヒットしてましたよね。

bird「そうですね。ディアンジェロとか、ああいう人たちがすごく後ろで歌うっていうか、引っ掛けてくるみたいな。ディアンジェロとか引っ掛けすぎですけど。どこまで立たないでいられるかみたいな」

冨田「ビハインド・ザ・ビート競争だね(笑)」

bird「それまではずっとバンドで70sソウルとかを歌っていたので、そういうのはあまり聴いたことがなかったんです。大沢(伸一)さんと出会ってから、そのあたりを教えてもらって聴きはじめたら、すごい後ろで歌っている感じがあって、しかも、(打ち込みではなくて)生演奏だったから、おもしろくて好きになって、そこからいろいろ聴くようになりましたね」

birdの99年作『bird』収録曲“君の音が聴こえる場所へ

 

――じゃあ当時から、そのへんのネオ・ソウルは聴いていたんですね。

bird「そう、やっぱりリズムも含めてよく聴いてましたね。特にエリカ・バドゥが好きでした。コモンもそうだし、ルーツもライヴを観に行ったり。それまでラップとかも全然触れていなかったんですけど、最初のアルバムでも自分でラップをやらなくちゃいけない曲(“REALIZE”)もあったので、実際にラップを聴いたりやったりしてみると、リズム感が養われるっていうのを実感して。その頃は吸収する期間でしたね。嫌いなものだったら、馴染んでこなかったんだろうけど、自分の好きなソウルとかジャズと形は変われども繋がっているから、スッと入れたのかも」 

エリカ・バドゥの2000年作『Mama's Gun』収録曲“Didn't Cha Know”

 

――グラスパーの『Black Radio』でエリカが歌ってたりもするわけですけど、彼女やディアンジェロを手掛けていたソウルクエリアンズがヒップホップを生演奏で表現していたサウンドが、birdさんの身体には当時からすでに入っていたんですね。

冨田「birdさんがそこを経験しているから、今回みたいな曲も、最初から〈もっと後ろに〉とか言わなかったでしょ。言わなくても全然その感じになっていた。最初に“Lush”を送った時に〈どう思うかな〉って実は心配だったんだよね(笑)。ドラムはヨレヨレだしさ」

bird「すごいびっくりして、鳥肌立っちゃって。〈これ歌えるんだ!〉って」

冨田「ビハインド・ザ・ビートにして歌うとカッコイイとか、気持ちいいとか、そういうのを意識的にやっていた時期があったのは大きいですね」

bird「当時はそういうものをすごく吸収して、その後もいろんな方とコラボレーションをしてきましたけど、リズムのことって本当に勉強になるんですよ。いろんな方のいろんなリズムがありますから。そこでどういうふうに歌でアプローチしていくのか。アレンジが変われば同じ曲でもグルーヴは変わるし、歌い方も変わるっていうのは15年間やってきてすごく勉強になりましたね。今回も冨田さんには私の長所をどんどん引き出してもらいたかったし、挑戦してみたい気持ちも強かったので、〈リズム〉というキーワードは私にとってすごく楽しいし、チャレンジしたくなるものだったんですよね」

 

――〈birdの音楽はリズムが重要〉というイメージは昔からあったと思うんですよ。ネオ・ソウルに2ステップ、ブラジル音楽に、最近はファンクやブーガルーもやっている。J-Popではあるけれど、そのなかでいろんなリズムを15年かけて一つずつ消化しながら、自分の歌を深めている感じがするんですよね。

bird「何年か前にUKのベイカー・ブラザーズとコラボしたことがあって、その時にリーダーのクリス・ペドリーが歌入れを一緒にやってくれたんですけど、彼らの音楽もいままでにないリズムだったんです。すごくスナップしているというか、普通に歌うとベタっとしちゃう。日本語だからというのも関係あるみたいで、そこで原曲のグルーヴに日本語で乗せていくということを、2人で一緒にギターとベースを弾いて、体感しながら身体に入れていったんです。そういうリズムの奥深い部分ってすごくおもしろいと思いますね」

birdをフィーチャーしたベイカー・ブラザーズの2010年の楽曲“Soul Shine”

 

――実は『Lush』を聴いて、デビュー作の頃のbirdが戻ってきたように感じたんですよ。ブラック・ミュージックのフィーリングが戻ってきたというか。

冨田「それはすごい嬉しいですね。(birdのほうを見て)作っている途中でさ、〈全体的にブラック・ミュージックに寄せてもいい?〉みたいな話をしたのを覚えてる? 確か、曲を半分くらい作った時に言ったんだよね。(制作の)最後の3か月は曲を作りつつ出来たら送って、詞を次の歌入れまでに書いてみたいな感じで続けていたから、曲調をどうしようかなって考えた時に、もっとシティー・ポップみたいな曲にしても良かったんだけど、僕も実は初期のbirdさんの音楽はカッコイイと思っていたから、巡り巡っていまの僕の興味とも対象が近いし、その方向で行ってもいいんだなって話をしたんだよね」

――ブラック・ミュージック色が濃いトラックではないけど、ヴォーカルがソウルを通過してきた感じが強いから、トータルとしていいバランスなんですよね。

冨田「birdさんがグルーヴに関しても意識的な部分があることは重要なんだよね。それは最近の音楽の構造だと特に重要になっていて、ドラムがドタバタ訛っていたりとかするなかで、ヴォーカルがクリック(メトロノーム)の役割みたいになることがあるんだよね。ヴォーカルだけ通底したグルーヴを持っていれば、(リズムが)前後に行ったり来たりしようが、それで成立するところもあって、そのへんに関してはbirdさんはグルーヴがずっと通底しているので、だから(オケは)安心して訛れるってところもあるよね。あのオケを解釈して、普通に歌ものとして歌えるっていうところがbirdさんの素晴らしさ。オケを聴きすぎて変になっちゃう人もいるから」

bird「たぶん、〈何小節でこうなって……〉とか考えすぎちゃうと歌えないと思います。ラテンの音楽もリズムの取り方がすごいので、4分から入ったりする曲も結構あってミュージシャンは迷うんですよ。だけど、歌い手さんってわりとそのへんは感覚で捉えているので、さっと入れることが多いんですよね。だから、リズムをある程度自分なりにキープしていると楽しいですよね。というか、それができる歌い手だとミュージシャンも遊べるので楽しいと思う。たまにミュージシャンが遊びすぎて、音がないときとか〈あれ、コードがない。誰か弾いてよ(笑)〉みたいなときもありますけど」

――birdさんの音楽は、そうやっていろんなリズムに挑戦しながら15年の間にサウンドはすごく変わっているんだけど、一貫して〈ポップス〉なんですよね。『Lush』もそうですけど、どれだけ攻めたトラックでも、birdさんが歌えば、街のどこで流れていても大丈夫なポップスになりますよね。

冨田「歌が通底したグルーヴを、その曲にもっとも相応しいグルーヴを出し続けているからっていうのもあると思うね。それは重要ですよね。こういう構造のトラックだとね」

――そういえば、ハイエイタス・カイヨーテネイ・パームも、バックの演奏はズレてたりするのに通底したグルーヴがあって、あれが音楽をフレンドリーにしてますよね。

冨田「ネイ・パームって、本人の意識とかはわかんないんだけど、バックの演奏をあまり聴いてないんじゃないかって気がする。だから通底していられるのかなって印象を持ちましたね。歌はパルスとしてのドラムよりもっと広い範囲でのリズムの基準として聴いちゃうからね、無自覚で。彼女は曲を作って自分で歌う人でしょ。だから、リズムの微細な訛りとかは関係ないっていう。でもそれも大事なんだよ。あまり聴きすぎちゃうとダメなんだよね」

bird「本来の歌ってところに行かなくなっちゃうんで。気にしちゃうと身動きが取れなくなっちゃうから」

ハイエイタス・カイヨーテの2015年作『Choose Your Weapon』収録曲“Jekyll”のパフォーマンス映像

 

冨田「スポットを正しく捉えていれば、細かいところを聴きすぎちゃダメなんだよね。特に4ビートの時もそうで、さっき話したスウィング上でのスクウェアな〈タタタタタ〉ってところも同じなんだけど、それが大事だから。あとは、おもしろいと思うポイントを要所要所で共有できたのも大きくて。birdさんが歌ってくれた後で解釈が違うとかそういうことがなかったので」

――狙いが共有されていた感じがありますね。

冨田「ゲストの人とかがいたら、もっと(制作に)時間がかかったかもしれないね。共有できない人が来て、その人と共有できるまでディレクションしてそこに辿り着くまでに。特にリズムっていうものが、それまで積み重ねてきたものと違うヴェクトルで演奏しなければならないってことになると、これはちょっと厄介なんですよ」

――すぐに共有できるbirdさんがいたからというのもあって、ディアンジェロやグラスパー、マーク・ジュリアナのサウンドの要素が入っているけど、ポップスであるまま、どこにもない音楽に最終的になってしまった感じがありますね。

冨田「birdさんのキャリアがあって、僕のなかでブラック・ミュージックに寄ってもいいって考えがなければ、このアルバムの成り立ちにはならなかったし。僕のいまの興味の対象について、birdさんもおもしろいと思ってくれなかったらこうはならなかったでしょうからね」

――あとは〈JTNC3〉の鼎談で、冨田さんは〈ジャズ・ミュージシャンはおもしろいことをやっているけど、音色がダサいものもある〉って話をしていたじゃないですか。この『Lush』では、それへの答えを見せてくれている気もしていて。“道”のようにネオ・ソウルっぽい音もありますけど、“Lush”みたいな意外な音色のものもあって、いろんな選択肢もあるんだなと思えて新鮮でした。

冨田「作ってても新鮮だったね。あの鼎談といろいろ繋がっているなと思っていただけましたよね(笑)?  自分では繋がっていると思っていて、鼎談をした時期もちょうどこのアルバムのミックス、最終段階の頃だったかな。いま流行ってるからそれを真似しようって感じじゃなくて、消化したうえで提示できたかなと思っていて」

――そういえば、トピックはリズムでそこの部分の情報量はやっぱり多いじゃないですか。それで、その他の部分のメロディーはすごくシンプルになっていたり、音数も絞っていたり、いろいろ削ってあったり。個人的に、いまは音楽の情報量がコントロールされているものに新しさを感じるというか、それが必須条件のような気がしていて。

冨田「僕は音楽を説明するときに〈情報量〉という言葉を日本で一番使っているつもりなんだよね。〈時間軸に沿って、情報量のコントロールをすることこそがプロデュースだ〉みたいな考え方があって、やってる側の意識としては情報量を整理して、情報量の増減でストーリーを作っているつもりですね。メロディー・ラインの跳躍とか、リズムのトピックとか、ハーモニーとか、歌の表情とか、楽器の演奏やフレーズとか、いろんなものがいろんな情報を持つんですけど、情報量ってそれぞれのリスナーにとって全然違うじゃないですか。ジャズのリスナーにとっては、ある1フレーズがすごく馴染みの良い〈あ、あのフレーズが出た〉とときめくような情報だったとしても、ポップスのリスナーにとっては関係なかったりする。そういったことも考えながら、情報量の操作とか整理でストーリーを作るっていうのが僕の考え方なんですよ。今回もリズムやビートにトピックがあるときにはコード・チェンジまで複雑になっちゃうと、情報が多すぎるなって思うから、ああいったメロディーやサウンドになったような気がしているんですけどね」

――音の量と、そこに詰まっている情報量って必ずしも比例しないじゃないですか。少なすぎるとそこに〈無音という情報〉が詰まりすぎてしまうみたいな。『Lush』は詰まっているところには詰まっていて、そのぶん、落としてあるところは落としてあって、ポップスってこうやって作るんだなと思いましたね。

冨田「ポップスの作り方であるのは間違いなくて、いくら僕が大のジャズ・ファンで、ジャズのイディオムを取り込んで作ろうが、作り方としては完全にポップスを意識しているというのは自分でも思っていますね。例えば、グラスパーの『Black Radio』(2012年)が、ポップスと位置付けてもいいくらいヒットしたとしても、あれはポップスの作り方ではないんですよ。ポップスはポピュラーだから、売れればポップスだ、みたいな言い方もあるけど、そうではないんです。〈ポップスの作り方とは何ぞや?〉とかいうと膨大な話になってしまうけど、でも意識として自分は完全にポップスの作り方だなって思うし。birdさんもポップスだと思って歌っていますよね?」

bird「思ってますね。一番最初に冨田さんにお話した時にも、音数が少ないチャレンジしているようなトラックでも、最終的にはポップな仕上がりのアルバムにしたいって話をしたんです。そうしたら、それはいろんなやり方で、(最終的に)ポップスになるからそれでやっていこうって言われて。私もいろんな種類の音楽を歌ってきていますけど、物作りとしてはポップスという意識でやっていますね」

――birdさんの場合は声の力で、何を歌ってもポップになるというのはありますけど。それを意識的にやっているかどうかは、全然違いますよね。

bird「それは大きいんじゃないですかね。私はライヴをすることも多いので、その時に聴いてくれている人との接点としてのポップスっていうキーワードがないと、置き去りになっちゃう人もいるだろうし、一緒に楽しむために、そこの部分は置いておきたいですよね」

冨田「音数と情報量が比例しないっていう、そこはすごく重要でさ。例えばドラムとギターだけでbirdの声があって、あるメロディーがあったときにさ、それは一見情報量の少ない部分と捉えがちですよね。だけどbirdの歌声を堪能したいというリスナーにとっては大変高い情報量を持った部分なわけ。でもその後にベースやストリングスが入ってくるパートがあったとすると、音楽情報としては情報量の少ない部分で間違いないんだけどね。だけどポップスでは純粋な音楽情報だけでなく、メイン・ヴォイスの持つ情報量を理解していないとね、上手く機能させられないんだよ。メイン・ヴォイスの持つ情報量は、歌詞やその表情も含めた音楽情報以外にも、広げればアーティストのキャリアや時期、聴かれる環境によって増減もするから、birdさんの声を音楽情報のなかで終始一定に提供していればよいというものではないんだよね」

――なるほど。

冨田「歌ものである以上、総合的にbirdさんの声はもっとも大きな情報としてプレゼンテーションされてるんだけど、情報量としては他の音楽的、音響的要素との割合いが時間に沿って推移、変化していかないと、音楽的な満足は得られないからね。そういう差し引きで1曲のストーリーを作って、はたまた今度は10曲並んだ時にどういう情報量の推移で……みたいなことを考えるのがポップスかな。情報量の加減とかそういったことに意識的なのがポップスの作り方なのかなって気がしますけどね」

――これが新しいスタンダードになってしまいそうというか、真似したくなる人は出てきそうですね。バンドで真似しようとしていた人はこれまでもいたけど、プロデューサーでそういう人はいなかったから、そこのハードルはあるかもしれませんけど。

冨田「リズム的なことでいえば、アンダーグラウンド・ヒップホップの人たちとか、結構な訛りのものもあるけどね。あれはループでずっと訛っているけど、音楽的な構造としてはラップが乗る音楽の構造だから、なかなかポップス・ファンはそこに入れないってところもあったと思うから。ただ『Lush』に関しては普通の歌もののフリをしているので、普通の耳で聴いてもおもしろいと思う。(リズムが)突っかかるとか普通になっちゃえばいいし、こういう音楽がスタンダードになればいいよね」

――birdさんはこの新作を引っ提げて、来年2月にライヴも決まってますよね。冨田さんが音楽監督を務めるそうですが、このリズムを今度はまたドラマーが叩くわけですか?

冨田「この間、坂田(学)さんと、〈どうやってやりますかね〉って。具体的にマルチBPMと5連符のこととか、リズムがもたって云々みたいな話をしたんですけど。ドラムに関しては生演奏でいこうと思っているから、リズム的なトピックはなるべくなくさないようにして、生ドラムに置き換えて、そこにエレクトリックな要素も入れつつといった感じかな。ディアンジェロの(来日公演)時のクリス・デイヴのアプローチは参考になりましたね。ほとんど訛りはなくなってたんだけど(笑)納得させられちゃった」

――打ち込みのドラムを人間がトレースしたものを、今回冨田さんが打ち込んで、それをさらに人間が演奏するという。

冨田「終わらないアップデートですね(笑)」

 


 

bird“Lush”LIVE !
  【東京公演】
日時:会場/2月11日(木・祝) Billboard Live TOKYO
開場:開演/
1stステージ:15:30/16:30
2ndステージ:18:30/19:30
料金:サービスエリア/7,400円 カジュアルエリア/5,400円
※公演詳細はこちら 

【大阪公演】
日時:会場/3月3日(木) Billboard Live OSAKA
開場:開演/
1stステージ:17:30/18:30
2ndステージ:20:30/21:30
料金:サービスエリア/7,400円 カジュアルエリア/5,900円
※公演詳細はこちら  

バンド・メンバー ※1月21日追記 
bird(ヴォーカル&パフォーマンス)
冨田恵一/冨田ラボ(サウンド・プロデュース/キーボード)
坂田学(ドラムス)
鹿島達也(ベース)
樋口直彦(ギター)
Meg(バッキング・ヴォーカル)※3/3大阪
綿引京子(バッキング・ヴォーカル)※2/11東京
斉藤久美(バッキング・ヴォーカル)