自分の書くメロディーすら驚かせたい! 超絶技巧でとことん遊ぶ鉄壁のトリオが、あまりの楽しさで大人も子供も美しくブッ飛ぶエンターテイメント作品を完成!!

 青鼻の天才ピアノ・マジシャンことH ZETT M率いるスーパー・トリオ、H ZETTRIOにとって、2015年は実り多き年だった。2月から始まった8か月連続の配信リリースを皮切りに、春と秋に2度のツアー、夏はフェス、さらに海を渡って韓国へも初上陸。6月にはクラシック専用ホールで行った公開レコーディングの音源を限定で高音質配信したかと思えば、約2年ぶりのアルバム『Beautiful Flight』も完成させてしまったのだから、まさに大豊作の1年だ。

 「今年はライヴをたくさんやったことでトリオに慣れてきたというか、自由さがどんどん増えてきてると思います。フェスは特に燃えますね。(自分たちを)知らない人の前でやるほうが楽しいんですよ。どんな人が〈いいね〉と言ってくれるか全然わかんないし、〈こんな人が喜んでくれるんだ〉という発見があるので」(H ZETT M、ピアノ)。

H ZETTRIO Beautiful Flight apart.(2015)

 新作『Beautiful Flight』は、高い評価と支持を受けた前回の『★★★』におけるジャズ志向の超絶技巧アンサンブル+親しみやすいグッド・メロディーというスタイルを踏襲しつつ、さらに全方位へと進化させたもの。すべて生音で一発録りの臨場感と共に、3人の息遣いまでが伝わってくる素晴らしい音像だ。

 「H ZETTRIOをやり始めてから得意技みたいになっちゃったのが、テンポをチェンジするということなんですけど。ライヴでは3人の呼吸でテンポが速くなったり遅くなったりして、それが曲作りにも繋がってると思います。“Wow Wow Wow”とかはそうですね。あと、僕は転調が好きなんですけど、“あの夏のオリエンタル”という曲は転調が特に上手くいったかなと思ってます。曲作りは、曲を喜ばせたいというか、曲自体が喜ぶことを追求してる感じがあるんですよね。〈このメロディーで、次にここに転調したら、この最初のメロディーが驚くだろうな〉みたいな。それで躍動感が曲に生まれると、聴いてる人もそれを感じて、自然とワクワクしてくれるんじゃないかな?と思うので」。

 本作のもうひとつの楽しみと言えば、3人のヴォーカル(?)が増えたこと。語り、ラップ、掛け声など何でもありで、ステージ上で観客を盛り上げるシーンが目に浮かぶ。

 「掛け声とかを入れると肩の力が抜けるというか、〈ここでは自由にやっていいんだ〉という意識が伝わると、お客さんも楽になれると思うので。“Trio, Trio, Trio!!!”のラップは、僕が仮で書いたものです。本当は二人にも書いてほしかったんですけど、やる気がなかったみたいで(笑)。でも“MESHI”のKOUさん(H ZETT KOU、ドラムス)のラップは、完全にお任せしたんですよ。KOUさんがマイクの前で何を言うのか楽しみにしていて、そしたらいきなり〈朝起きて、メシ食って〉とか言い出したんで、そのまま採用(笑)。最初はすごくカッコ良くなるイメージをしてたんですけど、楽しい曲になっちゃいましたね」。

 そんなエピソードからもわかるように、長年近しいところでメシを食ってきたH ZETT NIRE(ベース)、H ZETT KOUとのアンサンブルは、柔軟にして鉄壁。さらにH ZETTRIOとして活動を始めてからも、自身のなかで確かな成長を感じているとH ZETT Mは言う。

 「最近思うのは、精神を解放すると同時に演奏もちゃんとしようということですね。音楽で遊ぶことが基本なんですけど、きちんとフレーズを弾いたうえでそこに遊びが合体すると、本当にすごいものが生まれると思うので。子供が聴いたら楽しくて、大人が聴いても〈やっぱりすごいね〉と思ってもらうために、演奏もしっかり伝えたいなと思ってます。いろんな人にいい音を届けたいという意識が、日に日に高まってきてますね」。

 年末には今年3度目のツアーを行い、新たな年へ向かうH ZETTRIOの未来は明るい。聴く者すべてに笑顔と興奮を運ぶその音楽は、インスト音楽の枠を超えてゆく大きなチカラを持っている。