先日、Mikikiで初シングル“Stronger Every Day”のリリース・パーティーをレポートした、Mono Creationの第3弾アーティストであるピアニスト/コンポーザー、Stella.J.C。このスタイリッシュなR&Bチューンで彼女をバックアップしたのはquasimodeでお馴染み、ジャズ・ピアニストとして八面六臂の活躍を続ける平戸祐介、気鋭のギタリストにしてマルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサーの関口シンゴ、そして、ジャズとポップスの間を軽やかに行き来し、日本でも根強い人気を誇るオランダ人シンガー、ウーター・へメルと実に豪華だ。

先述のリリース・パーティーではこのメンバーが一同に会して初共演を果たし、特にStellaとウーターは初対面ながら息の合ったプレイを見せ、会場を大いに盛り上げた。そのパーティーの翌日、われわれはStellaに加え、関口とウーターにインタヴューを実施。3人の出会いとそれぞれの音楽観、今後の展望を語ってくれた。

※リリース・パーティーのレポートはこちら

Stella.J.C Stronger Every Day Mono Creation(2015)

 

ステージ上では抜群の存在感を発揮するStella J.Cは、実際に会ってみると、小柄で華奢で、大きな瞳が印象的。細かいプロフィールについては謎に包まれている彼女だが、まず訊いてみたかったのは、彼女の音楽的なバックボーンのこと。

Stella「そうですね、ベースにあるのはクラシックです。ジャズやR&B、ブラック・ミュージック全般は好きで聴いていたんですけど、ジャズに関しては今年の4月にFM長崎の平戸さんの番組『Radio Mono Creation』でアシスタントをするようになって、さらに興味が増して。それまではジャズといったら本当に王道の曲を聴くだけ、という感じでしたから。たとえばビル・エヴァンスだったり、ジョン・コルトレーンとか……。あとはソウライヴなども聴いていましたけど」

そんなStellaのデビューに当たって、ギターとアレンジを担当したのが関口シンゴ。今年3月にソロ・アルバム『Brilliant』を発表、そこでウーターと初共演を果たした彼の参加は、平戸との関わりから実現した。

関口シンゴの2015年作『Brilliant』収録曲、ウーター・ヘメルが参加した“Who You Gonna Hold Tight”

 

関口「平戸さんのことはもちろんquasimodeの頃から知っていたんですが、一緒に演るタイミングがなかったんですよね。それが、何かのギグで会った時に、〈FM長崎で『Radio Mono Creation』っていう番組をやってるから今度スタジオに遊びにおいで〉と誘われて。それで、アコギとコーヒーを持って(笑)、行ったんです。そしたら、どうも僕が最初のゲストだったみたいで(笑)……その日は平戸さんとセッションしたんですが、アシスタントのStellaさんとも今度一緒にやりたいよね、という話になって、それが今回の話に繋がりました」

それにしても、今回のプロジェクトに先んじての関口&ウーターの共演はどうやって実現したのだろう?

関口「ウーターのことはもちろん昔から知っていました。ウーターの『Lohengrin』(2011年)のジャケットは、ボーダーのTシャツを着て帽子を被ったバストアップの写真じゃないですか。あれが、ある時iTunesを開いたらバナーにバーン!と出てきて。(当時)偶然僕も同じようなアーティスト写真を使っていたんです! そこから意識しはじめちゃって。その後、『Brilliant』を出す時にビクターの方から話があって、さらにちょうどウーターが来日するというタイミングもあったので、アルバム収録曲へのゲスト参加をお願いできることになったんです。すごく偶然を感じました。曲を送った時は〈気に入ってくれるといいな〉という一心でしたね」

ウーター・へメルの2011年作『Lohengrin』収録曲“Little Boy Lost”

 

ウーター「そんな話、初めて聞いたよ。セレンディピティー(思わぬものを偶然発見する才能)だね(笑)! 彼とは最初、音楽出版社が主催するギグで会ったんだ。いわゆる、ネクタイを絞めた業界人が集まるような、ビジネス用のギグだよ(苦笑)。だから、特にセッションするとか、そういう感じじゃなかった。その程度の間柄だったから、曲を2曲送ってもらうことになったんだけど、なんだかブラインド・デートみたいな感じだったね。で、そのなかから“Who You Gonna Hold Tight”を選んだんだ。こういう仕事って必ず締め切りがタイトだし、待たせると彼にストレスがかかるのもよくわかるので(笑)、すぐに歌詞を書いたよ。飛行機の中でね! 1~2週間後には歌を入れて送り返したんじゃないかな。その後、僕が5月にBillboard Live TOKYOでやったギグにシンゴがスペシャル・ゲストで出てくれて、友達になったんだ」

関口「あのギグは夢のような感じでしたね。彼のバンドがとにかく素晴らしいんです」

ウーター「実は、誰かとのコラボっていうのは2009年以来していなかったんだ。その時でさえ、参加したのはquasimodeのアルバムなんだけどね(笑)。オランダにはジャズの豊穣な歴史や文化があるんだけど、いまはシーンが盛んという感じではないんだよね。ネガティヴに考えたくはないけど、オランダには昔は3000店舗ものレコード店があったのに、いまじゃ30店舗くらい。ジョヴァンカみたいないいアーティストもいるし、ライヴにはお客さんも入るんだけど……だから、日本にはとても感謝している。日本のアーティストと共演するのは楽しいよ。会話でコミュニケーションを取るのは難しい時もあるけれど、音楽をやるのはとても簡単なんだ」

デビュー曲から図らずも(?)共演が実現してしまったStellaとウーター、そして2人を繋いだ関口。彼らは今回の共演について、またお互いについて、どう感じたのだろうか。

Stella「ウーターのアルバムは、実は学生の時から聴いていたんです。当時はよくCDショップで何かいいアルバムはないかな、と直感に頼ってCDを選ぶことをしていたんですが、ある時手に取ったのがウーターの『Hemel』(2007年)。聴いてみたら素晴らしくて、大好きになったんですよね。それが、今年になって平戸さんのラジオでアシスタントをやりはじめたら、関口さんが来てくださって、ウーターとやってると聞いてびっくり。それで、関口さんを介して近付けていただいた、という感じです」

ウーター・へメルの2007年作『Hemel』収録曲“Breezy”

 

ウーター「僕はStellaのデモを聴いて、いいなあと思ったよ。トンカテンコ~ン、トンカテンコ~ン(と歌う)っていうループがあって、全体にライトタッチなグルーヴ感があって……で、彼女のことはまったく知らなかったから最初はびっくりしたけれど、〈やるよ〉と答えたんだ。ヴォイシングもいい感じだし、ちょっと90sのヴァイブも感じられた。僕はニュー・ラディカルズとかを聴いて育ったから、そういうのが好きなんだよ! それで、アムステルダムの家で歌入れをした。すごく高いコードでエナジーを注入してみたりもして。で、すぐに送り返したってわけ。現代的なやり方だよね(笑)! だから、彼女とは今回のショウケースが初対面なんだ」

ニュー・ラディカルズの98年作『Maybe You've Been Brainwashed Too』収録曲"You Get What You Give"

 

関口「彼女の演奏を聴いたのは、ウーター同様、僕も今回のショウケースのリハーサルと本番が初めて(笑)。でも、僕にはないクラシックのフィーリングがすごく感じられておもしろいな、と思いました。曲作りに関しては、彼女から5曲くらいを送ってもらって、そこから1曲を選んで僕が構築したという感じ。1曲、短いループにすごくグッとくるものがあったので、それを基礎にして音の抜き差しをやっていきました。彼女はヴォイシングの選び方にしても、僕にはない感覚で選ぶ。今後は自分が培ってきたクラシック的なフィーリングを活かしながら、自分ならではの個性にしていけたらすごくおもしろいと思います」

Stella「私としては、もう少し自分の演奏をジャズのフィーリングのほうに寄せていきたいとは思っているんですけどね。どうしてもクラシックの手癖が残ってしまっていて(笑)。でも今後の活動に向けて、いろいろ研究しながらやっていきたいと思います。来年の初旬にはアルバムを出したいと思っていて、半年くらい前からそれをめざして動きはじめていて。ヴァリエーションに富んだポップなアルバムにしていきたいです」

それにしても、R&B、ポップス、そしてジャズなどのジャンルを軽やかに超えて新しい音をクリエイトするアーティストたちの自由な交流には今後も期待が高まるばかり。

関口「ジャズやポップスというのも、割合の問題なのかなと思ってるんです。僕が昔やっていたvusikというプロジェクトはジャズに根差したものだったけれど、新しいソロ・アルバムではジャズのフィーリングも持ち込みつつポップな音楽をやっています。僕と比べたらおこがましいかもしれないけれど、ウーターももともとジャズのフィーリングを持っていながら、シンセも入れているし、最近はどんどんポップな方向に行っている。アルバムを聴いて、すごく共感できるんです。Stellaさんも元はクラシックだけど、ソウルフルなリフとかには僕やウーターとリンクする部分があると思いますね」

vusikのライヴ映像

 

ウーター「うん、確かにそうだ。ジャンルは大事だとは思わないし、そういうのは音楽業界の人間にとって便利なだけ。ただ、僕はライヴではインプロヴィゼーションを大事にしているし、ループ・ミュージックはやらない。そういう意味ではジャズがベースだと言えるね。そういえば、先日亡くなったマーク・マーフィーは素晴らしいジャズ・シンガーだったけれど、彼がアムステルダム音楽院で行ったワークショップに参加した僕が歌ったのが、1920年代に書かれた曲“Begin The Beguine”だったんだよね。彼には〈なんでこんなオールド・ファッションな曲を歌うんだ? もっとポップな曲を歌いなよ〉と言われた。でも、好きな歌を歌うのがシンガーだから、と言ったら、彼もわかってくれたよ。でも、(自分の音楽を)ジャジー・ポップと言われるのもどうかなと思う。ジャジー・コード、シャッフル&ビート、スウィング……そういうのが入ってるとジャジー・ポップと定義されちゃうけれど、僕はコードを大事にしているし、そういう意味ではポップ・シンガーだね。というわけで、いまは一生懸命締め切りを意識しながら新作を作っているから、たぶん数か月後には出るはず(笑)。期待して待っててね!」

アーティ・ショウによる“Begin The Beguine ”