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カート・コバーンからドゥーム・メタルまで―メルヴィンズから広がるUSアンダーグラウンドの重厚深遠なミュージック・ツリー

2015年秋の〈HCW〉総力特集:第3回

カート・コバーンからドゥーム・メタルまで―メルヴィンズから広がるUSアンダーグラウンドの重厚深遠なミュージック・ツリー

インディー・ロックの祭典として愛される〈Hostess Club Weekender(以下HCW)〉の第11回が、11月22日(日)、23日(月・祝)に東京・新木場スタジオコーストで開催されるにあたり、Mikikiではこの〈HCW〉を総力特集。ヘッドライナーを務めるメルヴィンズのキャリアを総括した第2回に続いて、この第3回ではUSインディーオルタナティヴ・ロックに造詣の深い音楽ライターの天井潤之介氏に、メルヴィンズの影響力と交友関係を解説してもらった。彼らとカート・コバーンとの交流は有名なエピソードだが、そこからさらに事実関係を掘り下げることで、メルヴィンズの重要性とUSアンダーグラウンド・シーンに果たした功績への理解も深まるはずだ。 *Mikiki編集部

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★第1回〈出演8アクトの見どころ&キャリア徹底解説編〉はこちら
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東のソニック・ユーススワンズに対して、西のメルヴィンズ。あるいは、クロームミート・パペッツと双璧をなす米西海岸アンダーグラウンドの巨魁――いずれにせよ、その膨大なディスコグラフィーが伝える重厚深遠な音楽性、併せてその影響力や波及力の大きさにおいて、メルヴィンズという存在の重要性はいくら強調しても強調しすぎることはないはず。そして、そのバンドの内外に複雑に入り組んだ人脈の相関図を見渡せば、70年代末~80年代初頭のオリジナル・ハードコアを起点としたUSロックのオルタナティヴな縮図がそこには浮かび上がるだろう。

83年のバンド結成から現在までの30年強の間、ツアー限定などのサポート・メンバーも含めると総勢20名近くの人数が出入りし、変遷を重ねてきたメルヴィンズのラインナップ。試しに歴代メンバーの肩書きに並ぶ固有名詞を拾い集めるだけでも、メルヴィンズがUSロックにもたらした遺産を物語る錚々たるミュージック・ツリーが出来そうだが、なかでも唯一不動のメンバーのバズ・オズボーンをはじめとする結成初期のメンツが、カート・コバーンがニルヴァーナ以前に地元ワシントンで始めた短命のパンク・バンド、フィーカル・マターで演奏を共にしていたエピソードは有名だろう。また、初代ベーシストのマット・ラーキングリーン・リヴァーマーク・アームらとマッドハニーを結成するなど、ブラック・フラッグミドル・クラスらに続く米西海岸発のオリジナル・ハードコアに属したメルヴィンズが、グランジの契機にも深く関与していたという事実は改めて重要だ。

フィーカル・マターの85年のデモ音源“Spank Thru”。カートとメルヴィンズのデイル・クローヴァー、バズ・オズボーンが参加

 

もっとも、当時から地を這いずるこってりとヘヴィーなサウンドで鳴らしたメルヴィンズは、それこそドキュメンタリー映画「アメリカン・ハードコア」(2006年)でイアン・マッケイが〈本心を表現したかったら32秒で伝える〉と説いたオリジナル・ハードコアのスタイルとはそもそも異なる代物。それで言うならむしろ、サーストン・ムーアが〈77年以前のロック=ハード・ロックやヘヴィー・メタルの記憶を掘り起こしたところ〉と指摘したグランジの音楽的意義こそメルヴィンズも共有するスタイルであり、後にアースサンO)))ハーヴェイ・ミルクなどを渡り歩くスローンズジョー・プレストンをベーシストに擁した90年代初頭のラインナップは全キャリアを通じても1、2を争う最強の布陣に違いない。同編成が残した唯一のオリジナル・アルバム『Lysol』(92年)は、スラッジドローンの教典的な作品として今も高い評価を受ける名盤だ。また、カート・コバーンの参加も話題を呼んだアトランティックからのメジャー・デビュー作『Houdini』(93年)には、スワンズやニューロシスブルータル・トゥースなどの制作にも関わったビリー・アンダーソンがクレジットされていることにも留意したい。

メルヴィンズの93年作『Houdini』収録曲、キッスのカヴァー“Going Blind”。同曲の録音とミックスを担ったビリー・アンダーソンは、後にスリープやOMにも携わっている

 

一方、プライマスキッスジーン・シモンズ)との共演、さらには〈Ozzfest〉への出演などを通じて同時代のヘヴィー・ロック・シーンにも存在感を示した90年代以降のメルヴィンズ。後に交流を深めていくトゥールとの出会いもこの頃のことで、片や、97年の『Honky』にはライオット・ガールの一角を担ったベイブス・イン・トイランドキャット・ベランドがゲスト・ヴォーカリストとして参加しているのも興味深い。なかでも特筆すべき作品が、2000年の12作目『The Crybaby』だろう。トゥールの面々を筆頭にジーザス・リザードデヴィッド・ヨウフィータスラウンジ・リザーズエリク・サンコヘルメットヘンリー・ボグダンハンク・ウィリアムズ3世ら音楽性を越えて集ったゲスト・ミュージシャンの顔ぶれは、メルヴィンズのキャリアの奥行きというか懐の深さのようなものを象徴していると言えよう。

メルヴィンズの97年作『Honky』収録曲“They All Must Be Slaughtered”。ゲスト参加しているキャット・ベランドは、ベイブス・イン・トイランド結成以前にL7のジェニファー・フィンチやホールのコートニー・ラヴとバンドを組んでいた
デヴィッド・ヨウをフィーチャーした、メルヴィンズの2000年作『The Crybaby』収録曲“Dry Drunk”。同作にはジーザス・リザード“Blockbuster”のカヴァーも収録

 

そして、同じく『The Crybaby』にゲストとして参加したフェイス・ノー・モアマイク・パットンは、メルヴィンズ最大の盟友と呼ぶに相応しい。パットンは主宰するレーベル、イピキャックを介して『The Crybaby』を含む3部作(共に99年作の『The Maggot』『The Bootlicker』)以降のリリースに携わる傍ら、オズボーンとはファントマスを結成して活動。2002年にはファントマス・メルヴィンズ・ビッグ・バンド名義のライヴ・アルバム『Millennium Monsterwork 2000』もあり、また3部作以降(~2005年)の作品では、パットンがジョン・ステイナーバトルス)らと率いたトマホークケヴィン・ラットマニスがベーシストに起用されているのもポイントだ。

ファントマス・メルヴィンズ・ビッグ・バンドの2002年作『Millennium Monsterwork 2000』収録曲“Night Goat”

 

加えてもうひとり、盟友の一翼を担う人物がデッド・ケネディーズのリーダーであるジェロ・ビアフラだろう。言うまでもなく、メルヴィンズにとってデッド・ケネディーズは西海岸オリジナル・ハードコアの偉大なる先達であり、2004年のビアフラとのコラボ・アルバム『Never Breathe What You Can't See』にはトゥールのギタリストであるアダム・ジョーンズも参加。そんなメルヴィンズがパットンやビアフラと結ぶトライアングルには、それこそイペキャックやリプライズのレーベル・カタログに並ぶポスト・メタルグラインドコアドゥーム・メタル勢(アイシスニューロシスマストドンボーレン&ディア・クラブ・オブ・ゴアなど)まで内包してUSアンダーグラウンドに深く根を張る〈ハードコア〉起源の巨大な樹形図が姿を覗かせるようだ。

ジェロ・ビアフラ・ウィズ・メルヴィンズ『Never Breathe What You Can't See』収録曲“Islamic Bomb”
2005年のメルヴィンズのトリビュート盤『We Reach: The Music Of The Melvins』収録曲、アイシスとアゴラフォビック・ノーズブリードによる“Boris”のカヴァー

 

ビアフラとの〈Never Breathe~〉と同じ2004年に発表された、元SPKスロッビング・グリッスルとも繋がる鬼才ラストモードことブライアン・ウィリアムスとの共作盤『Pigs Of The Roman Empire』は、この前年に再始動したアースやサンO)))らが後押ししたスラッジ/ドローンの再評価を経て、昨今のニュー・インダストリアルに至る現行の文脈からも再考に値する一枚。加えて、この前後からサポート・ベーシストを務めるデヴィッド・スコット・ストーンの交遊録――パットンやビアフラをはじめアンワウンドロカストフガジジョー・ラリーノー・エイジ灰野敬二など――は、メルヴィンズが置かれた評価の背景を把握する際の補助線として興味深い。

さらに、2000年代のディスコグラフィーを代表する16作目『(A) Senile Animal』(2006年)を機に(元トマホークのラットマニスと入れ替わりで)加入する、シアトルのストーナースラッジ・メタル・バンドのビッグ・ビジネスのメンバー、ジャレド・ウォーレンもまたKレーベルゴールド・スタンダード・ラボラトリーズ、そしてノー・エイジのディーン・スパントが主宰するポスト・プリゼント・ミディアムから作品を残している多作な人物だ。

メルヴィンズ&ラストモードの2004年作『Pigs Of The Roman Empire』収録曲“Pigs Of The Roman Empire”の後半部分

 

最後に、2010年代以降の目ぼしいトピックと近況について触れておく。

2012年作の『Freak Puke』でオズボーンとデイル・クローヴァーと共に通称〈メルヴィンズ・ライト〉なるトリオ編成を組んだトレヴァー・ダンは、ミスター・バングル~トマホークへの参加に加えてジョン・ゾーン周辺とも絡む筋金入りのパットン人脈。オリジナル・ドラマーのマイク・ディラードを呼び戻した〈メルヴィンズ1983〉制作の『Tres Cabrones』(2013年)に続く現時点での最新アルバム『Hold It In』(2014年)からは、バッドホール・サーファーズジェフ・ピンカスポール・リーリーがメンバーを務めているのは別掲の記事の通り。

メルヴィンズがバットホール・サファーズ“Graveyard”をカヴァーした、2013年のパフォーマンス映像。ベースはジェフ・ピンカス

 

一方、ガシュリー・スナブゲット・ハッスル(共に前述のストーンが関わる)、またクローヴァーがニューロシスやOMのメンツと立ち上げたシュラインビルダーなどメンバー関連の別プロジェクトも複数存在してきたメルヴィンズ周辺だが、この夏には、オーストラリアの音楽家/映像作家であるアダム・ハーディングの呼びかけでダイナソーJrベスト・コーストジーザス・リザードアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンウォーペイントのメンバー、さらにデヴィッド・リンチらと共に参加したプロジェクト、ダム・ナンバーズが話題を集めた。目下のところでは、西海岸パンク・シーンの後輩タイ・セガールレッド・クロスオフ!スティーヴン・マクドナルドと結成されたトリオ、ブロークン・バットも記憶に新しいだろう(両方共にメルヴィンズからはデイル・クローヴァーが参加)。

ダム・ナンバーズの2013年作『Dumb Numbers』

 

なお、メルヴィンズの作品としては、同郷ワシントンのノイズ・ロック・デュオ、ゴッドヘッドシロの片割れマイク・クンカとのコラボ・アルバムがサブ・ポップから2016年にリリースを予定。同じく来年に予定されているオリジナル・アルバムには、前出のジャレド・ウォーレンやスティーヴン・マクドナルドらに交えて、なんと元ニルヴァーナのクリス・ノヴォセリックがフィーチャーされているという。それはまるで、オリジナル・ハードコア~グランジ前夜を出発点としながら、多彩な人脈を通じてラインナップの新陳代謝を重ね、音楽性を深く押し広げてきた30余年のキャリアが一回りを迎えるような感慨も抱かせるが――ともあれ、今回の〈HCW〉のステージは、そうしたまさにメルヴィンズというUSロックの巨影の一端にでも触れることができる機会となるのではないだろうか。そうなることを期待したい。
 


 

 

Hostess Club Weekender
日時/会場:2015年11月22日(日)、23日(月・祝) 東京・新木場スタジオコースト
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈22日〉Melvins / Daughter / Christopher Owens / Dornik
〈23日〉Bloc Party / Mystery Jets / The Bohicas / Julia Holter
チケット:通常2日通し券/13,900円(税込/両日1D別)
通常1日券/8,500円(税込/両日1D別)
イープラス
チケットぴあ(Pコード:279-443)
ローソンチケット(Lコード:78690)
楽天チケット
http://ynos.tv/hostessclub/schedule/201511weekender/ticket

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