ナンセンスが美に呑み込まれた瞬間に巻き起こる感動――ブラック・メタルを元に〈アンチとしてのJ-Pop〉を鳴らす、謎の〈ブルータル・オーケストラ〉の正体は?

アンチとしてのJ-Pop

 〈ブルータル・オーケストラ〉を自称するVampilliaは、ブラック・メタルからJ-Popまでを貫通する音楽性と、怪しく謎めいた存在感で異彩を放ってきた大阪発のグループだ。メンバーは吉田達也や元・相対性理論の真部脩一を含む10名以上から成るが、編成は流動的でライヴの度にメンバーも異なる。そのライヴも、突飛でシアトリカルなパフォーマンスが観客を混乱させるところもあった。つまりは実相が見えづらい集団なのだ。そこで2枚のアルバムがリリースされる好機にリーダーであるstartracks for streetdreams(以下同)に話を訊いた……のだが、リーダーといっても彼は演奏に参加するわけではない。

 「ステージにはいませんけど、音楽的な決定権は僕にあって、細かく指示を出しながらメンバーが作ったものを詰めていきますね。だから、普通のバンドでいうとプロデューサーに近いんですけど、プロデューサーではない。メンバーであり、リーダーです」。

  2005年の結成以降、メンバーの入れ替わりは激しいが、音楽的な方向性は一貫している。「いまで言うエクスペリメンタル・ロックとブラック・メタルを混ぜて、それに久石譲や坂本龍一的なメロディーが加わる」というイメージを当初から持っていたそうで、その根底にはヒップホップの発想があるという。

 「バンドがアルバムでゲストを呼ぶと他力本願みたいに思われることもあるだろうけど、ヒップホップってそういう偏見がないじゃないですか。トラックメイカーはあたりまえのようにラッパーを呼んで曲を作るし、ラッパーも欲しいと思ったトラックを他者に依頼する。そういう自由さがいいと思うから、僕らもバンドという意識が薄いんです。そもそも、Vampilliaを始めたときはメンバーの半数以上が楽器初心者だったんですけど、でも、素人のほうが発想は自由だと思うんですよ」。

Vampillia 『my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness』 Virgin Babylon(2014)

 今回リリースされるのは、ビョークの制作チームらと共にアイスランドで録音された初フル作『my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness』と、BiSや戸川純、ツジコノリコらをヴォーカルに迎えた日本編集盤『the divine move』。前者はストリングスやピアノが織り成す透徹したサウンドスケープが特徴で、ボン・イヴェールのように楽器をミルフィーユ状に重ねてゆく方法論が採用されている。一方、後者は真部が歌詞と歌メロを担当するプロジェクト=〈bombs〉シリーズを含み、ポップで親しみやすい作品に仕上がった。

「日本編集盤のほうは、いまあるものとは違う、新しいJ-Popを作りたかった。そもそも、ヒップホップだって最初に出てきたときは、アメリカでチャートの1位になるような音楽ではなかったと思うんです。それがいつの間にかメインストリームになっていた。今回のファースト・アルバムのタイトルを取った、僕の好きなカニエ・ウェストもそうだと思う。なので、いまあるものに対する〈アンチとしてのJ-Pop〉ということは考えましたね」。

Vampillia 『the divine move』 Virgin Babylon(2014)

 確かに、ラッパーをフィーチャーするように複数のヴォーカリストを迎え、童謡的なメロディーがポスト・ロック以降の空気と溶け合う『the divine move』は、既存のJ-Popに対するカウンターといった趣だ。〈bombs〉シリーズは今後もその中核を担うことだろう。