ナタリー・プラス、ソーク、フロー・モリッシー……と、才能豊かな女性シンガー・ソングライターが次々とデビューを飾った2015年だが、個人的に桁違いの衝撃だったのがコートニー・バーネットだ。彼女が今年3月にリリースしたファースト・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』は、ローファイからアンタイ・フォーク、サイケ、パンク、はたまたグランジをも鮮やかに横断する骨太なサウンドのみならず、ストリーツことマイク・スキナーにも肉迫するウィットに富んだ言葉遊び――何より圧倒的なオリジナリティーに貫かれた歌詞で、世界中のリスナー/評論家を夢中にさせたものだ。

去る10月末、そんなコートニーの初来日公演が東京・大阪の2会場でついに実現した。それも、ブラーのオープニング・アクトとしてアメリカのハリウッド・ボウルと、NYの聖地マディソン・スクエア・ガーデン(以下MSG)という大舞台を踏んだ直後となる絶好のタイミング。旧知の仲であるリズム隊、ボーンズ・スローン(ベース)とデイヴ・マディー(ドラムス/パーカッション)を引き連れ、脂の乗り切ったパフォーマンスでフロアを沸かせまくった。代表曲“Avant Gardener”で幕開けした序盤こそスロースターター気味だったが、6曲目“Canned Tomatoes (Whole)”でブルーのテレキャスターをぐわんぐわん掻き鳴らしはじめてからはもう独壇場。シンガロングでオーディエンスをひとつにした“Elevator Operator”、シューゲイザー並みの轟音とストロボライトを浴びた“Kim's Caravan”、そして〈今年一番のロックソング〉と呼びたくなる“Pedestrian At Best”……と、彼女の立ち振る舞いに、リフに、言葉に、シビれっぱなしの90分だった。

開演前のSEではビートルズ、CCR、ジミ・ヘンドリックス、ローリング・ストーンズ、さらにニルヴァーナといったベタなヒット・ナンバーが多数流されていたが、大袈裟でもなんでもなく、コートニー・バーネットの奏でる音楽もそうした〈ロックの王道〉に位置付けられるポテンシャルを秘めていることは間違いない。終演後のフロアとSNSで飛び交った賞賛の嵐は、彼女が2010年代のリアルであることの証左だ。ジャパン・ツアーの後は地元のオーストラリアに戻って28歳の誕生日を迎えたそうで、今月末にはドイツ〜UKツアーも控えている多忙なコートニーをキャッチ。東京公演(10月30日)の翌日、ハロウィンの異常な熱気に包まれた渋谷にて行ったインタヴューでは、彼女の〈飾らない魅力〉に迫ってみることにした。

COURTNEY BARNETT 『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』 Milk!/TRAFFIC(2015)

 

“Pedestrian At Best”のライブ映像 

――改めて、初めての日本、初めての東京はいかがですか?

「ずーっと来たいと思っていた国だったから、何もかもがエキサイティングだわ! 叔母が日本に住んでいたこともあって、彼女から日本の話を聞かされていたしね。いろんな場所を歩いて、ショッピングして、食事して……すごく漫喫している」

――ライヴで着ていた葛飾北斎のTシャツもナイスでしたね。あれは大阪で買われたのですか?

※「神奈川沖浪裏」のプリント。2013年作『The Double EP: A Sea Of Split Peas』のアートワークはこのパロディーと思われる

「ううん、誰かが楽屋に持ってきてくれたんだって。すごく素敵なギフトよね(笑)」

2013年作『The Double EP: A Sea of Split Peas』

――さて、来日の直前にはブラーのハリウッド・ボウル公演と、MSG公演をサポートしていましたね。フェスを除くとあれだけ大きなキャパの会場でプレイしたのは初めてだったかと思うのですが、最初にオファーをもらったときはどんな気持ちでしたか?

「最高の気分だった。出演が決まったのは数か月前だったんだけど、(会場の)巨大さを実感したのは初めて現地に訪れたときだったかな。去年ブルース・スプリングスティーンがオーストラリアでやった公演とか、他にもアリーナ公演はいくつか行ったことがあるけど、やっぱりその2つのヴェニューには圧倒されたわ」

――どちらもコンサートを行う場所として象徴的なヴェニューですが、2つの公演をやり遂げてどんな手応えを感じましたか。

「めちゃくちゃ緊張したけど、結果的には最高のショーだったと思う。オーディエンスも私たちのことを気に入ってくれたみたいだしね!」

2015年10月23日、MSGでのパフォーマンス映像

――その少し前、10月18日にはメルボルンでパティ・スミスの『Horses』(75年)をカヴァーするコンサートを行いましたね。この日のステージはどんな想いで臨みましたか?

「親しいミュージシャンたちと一緒にプレイしたんだけど、やっぱりいつものライヴとは全然違ったわね。ギターを持たずに歌うことってめったにないし、パティ・スミスの曲を演奏するという責任がある以上、それなりの心構えが必要でしょ? 自分にとってもすごく良い経験になった。残念ながらパティ本人の(『Horses』再現)ライヴはまだ観られてないのよね……」

――ちなみに、あなたにとってパティ・スミスはどんな存在なんでしょう?

「実は、彼女のことを知ったのは20代前半の頃だったの。音楽はもちろん『ジャスト・キッズ』(2010年に出版されたパティ・スミスの回想録)も素晴らしかったし、アーティストとして、いち個人として、ミュージシャンとして、そしてソングライターとしても共感を抱く人物で、私の人生に大きなインパクトを与えた人であることは間違いないわ。具体的にどんな部分が……というのは上手く言えないんだけど」