Page 3 / 3 1ページ目から読む

~互いのバンドのミュージック・ビデオを鑑賞しながらトーク・セッション~

Yasei Collective “radiotooth”

芹澤「このコード進行変わってるよね」

別所「これは拓郎が作ってきたんですよ」

芹澤「絶対ポップで終わらせないよね」

別所「俺的に〈コード進行オブ・ザ・イヤー〉なんですよ(笑)。拓郎は音楽理論に詳しいわけではないんですけど、飛び抜けていいものを作ってくるんです」

芹澤「すっごいヘンだもんね。ちょっとインテリっぽいところがある、ヤセイは。インテリというかインテリジェンスを感じる、(曲の)流れとか。でもそのインテリジェンスをイヤらしく出さないからいいよね。育ちの良さが出てるなと思う時があるよ。俺らはたまに育ちの悪さが出ちゃうから(笑)」

別所「ハハハハハ(笑)」

芹澤「この曲は従来のヤセイよりもアプローチがシンプルだよね」

別所「そうかもしれません」

芹澤「NY感がある」

別所「ありますか、ハハハ(笑)」

芹澤「リズムの独特のつんのめり感が最近のアメリカの流行というか、むしろスタンダードになりつつある、ハイエイタス・カイヨーテとかあのへんの匂いも感じるよね」

※ハイエイタス・カイヨーテはオーストラリア・メルボルン出身のバンド

ハイエイタス・カイヨーテの2015年作『Choose Your Weapon』収録曲“Breathing Underwater”

 

別所「ハイエイタス・カイヨーテはすごい好きですね」

芹澤「ヤセイがそのあたりの音楽の影響下にあるということを、みんなよくわかってないかもね」

別所「でもいまではもういろんな人がやってるから……」

芹澤「いろんな人がやっているなかで、ドンズバで近いのはヤセイだと思うよ」

別所「そう思ってくれるのは嬉しいですね」

芹澤「スキルもあってセンスもあって、ちゃんとできているバンド。表層を掬ったようなものはいっぱいあるんだけど、日本人でここまであのへんの音楽と共振していて、なおかつオリジナリティーを持って表現できているのはヤセイくらいじゃないかな。この曲を聴いて思ったけど」

別所「その評価はすごい嬉しいな」

芹澤「昔よりそっちに近くなった」

別所「やっぱりニーボディとの交流も大きいかもしれません」

※ニーボディについてはヤセイブログでもたびたび取り上げられているので、以下もチェックを!
★日本にいたら嫉妬して友達になれない! ハイエンドなミュージシャンから絶大な信頼を得るドラマー、ネイト・ウッド
★インプロヴィゼーションはどこまで進化するのか? ニーボディの提示する新しい音楽的コミュニケーション

芹澤「そうだね、ニーボディは直接的にあるよね」

別所「ニーボディはハイエイタス・カイヨーテ周辺とも仲良いし、近いものを感じてる部分はあるかもしれない」

ニーボディの2014年のライヴ映像

 

芹澤「俺らからしたら、そこがいまいちばんカッコイイ音楽じゃん、彼らがやっているものが」

別所「そうですね」

芹澤「そういうなかで、〈そう、これこれ!〉という音楽ができているのがヤセイだと思う」

別所「そう言ってもらえると嬉しいですね。芹澤さんが言うなら間違いないや」


SPECIAL OTHERS “neon”

別所「(オープニングで)いい音してますね。レコーディングの時はラインの音も混ぜてますか?」

芹澤「最近はもう使ってない、全部アンプ」

別所「このヒャンヒャンヒャンヒャンて音(0分26秒頃から)は何を使ってるんですか?」

芹澤「ローズのオクターヴ」

別所「(もう一方のリフと)同時に弾いてるんですか?」

芹澤「そう! 結構難しいから練習した」

別所「へぇ~すげえ。(0分42秒頃から)これはメロトロン?」

芹澤「クラビ(ネット)の音にトレモロをかけて、フィルターをちょっといじってる」

別所「へぇー」

芹澤「ちなみに、このバッキング(1分頃から)は自分がどんな和声で弾いているのかをまったく理解せずにやってる。このキーすらわからない」

別所「ハハハハ(笑)。それでもちゃんと音楽になってるからすごい。ここ(2分15秒頃)は心に残るメロディーですね」

芹澤「やっぱりメロトロンで弾く時はメロディーを活かさないと。リズムには限界があるから、こういうアタックのない楽器だと」

別所「レコーディングの時、弾く音はあらかじめ練っていくんですか?」

芹澤「最近は考えてから弾いてる。じゃないと上手くいかなかった場合、悲惨なことになるから。これは一音一音、端から端まで全部考えた」

別所「へぇ~。構築されてる感があります」

芹澤「(3分9秒頃から)このあたりは祭囃子の笛の音をイメージしてる。アメリカでツアーする頃に作ったから、海外の人がキャッチして日本を感じられるようなフレーズを意識していて。オリエンタルな感じを」

※YouTubeで公開されているショート・ヴァージョンには含まれていないので音源で聴いてください

別所「すごくイイ感じですね。(5分45秒頃から)こうやって同じフレーズを繰り返してどんどん積み重ねていくのは、さっき芹澤さんが言っていたようなことですよね」

芹澤「ミニマル・ミュージックっていうかね。ライヒやエイフェックス・ツイン、あとアフロ・ミュージックの影響はデカい。繰り返しの気持ち良さ、〈1回目と8回目でこんなに感じ方変わるんだ〉みたいな」

エイフェックス・ツインの97年作『Come To Daddy』収録曲“Come To Daddy”

 

――スペアザが初期にポスト・ロックと言われていたのもその部分が大きかったんですかね。

芹澤「それはそうですね、ポスト・ロックと言われても納得できるくらい。マイス・パレードとか」

別所「しかも踊れるし」

芹澤「踊らせるというのはずっと考えてた。同じフレーズがどんどんフェイズしていくのは気持ち良いよね」

別所「トランス感というか」

芹澤「そのためにどんどん音を変えていかなきゃいけなくて、どんどんエフェクターが増えていくんだよね。ちょっとずつ音を変化させていくのに、1回使ったら1個はそれで終わりだから、その数だけ増えていく。同じフレーズを4パターン変化させるためには、4つのエフェクターが必要」

別所「それらのエフェクターがハマるかどうかの検証をひとつひとつしていくとなると、リハの時間を長く取らないと曲ができないですよね」

芹澤「そうだね。他のバンドよりもリハの時間はすごく長いと思う」

別所「やっぱり、そうしないとバンドじゃないと思うんですよね。ジャズメンの人たちを悪く言うつもりはないですけど、ジャズの人たちは全然リハをしないから、すごい技術を持つ人たちが集まっても、ガチッとなったバンドのあの感じは出ない」

芹澤「特有の感じがあるよね。ジャズの人たちは器用だし上手いから(リハをしなくても)形にできちゃうんだけど、俺らはあらかじめ集まってやらないと曲がダメになっちゃう」

別所「俺やマサナオももともとジャズが好きで、キャリアの初期はジャズの場所にいたけど、そこのいい部分を保ちつつ、〈バンド・シーン〉にいるということを意識して、そちら側にいるように常に心掛けている部分はありますね」

芹澤「別所はそうしているよね。アプローチが最初に会った頃よりバンドの鍵盤っぽくなってきた」

別所「やったー! バンドマンぽいですか(笑)?」

芹澤「バンドマンぽくなってきたね。最初はほんとプレイヤーだったもんね。フレーズも上品だったし」

別所「それは嬉しいっす」

芹澤「別所みたいにちゃんとプレイヤーとしてもできる奴が、バンドマンらしさを手に入れたら最強になるわけじゃん」

別所「その部分を学べたのは芹澤さんのおかげですから」

芹澤「逆に俺はプレイヤーの面を別所に学んでるから。それを総合するとどうなるか知ってる?」

別所「なんですか?」

芹澤「ヒイズミくんになるんだよ」

別所「ハハハ(笑)、そっか」

芹澤「あの人は両方持ってる。やっぱりいつまでもあの人には追いつけない。大スターだよね、ほんと。あの人はストリート・カルチャーとジャズのすごい部分を併せ持ってる。ヒイズミくんにクラシック弾かせたら物凄いらしいし。最高の技術に裏打ちされた、あのいい加減さ」

別所「あー、そうなんですねー」

――でもジャズ側の人のほうがアバウトで、ロック側の人のほうがきっちり準備しているというのは、イメージとしては逆でした。それが技術を持ってるからこそのいい加減さ、というところなんですかね。まあロックの人に技術がないというわけではないですが……。

芹澤「いや、ロックの人のほうが技術はない、完全に。なかにはジャズメンに負けないくらいの技術を持ってる人はいるけど、でも大きく括ったら絶対ロックの人のほうが技術はない。技術を得ることでダメになるなんてことは絶対になくて、技術に溺れるからダメになる。それは心の問題。だからジャズメンに学ぶことはたくさんあって、つまり別所に学ぶところはたくさんある」

別所「いま名言が出ましたね、〈技術に溺れるからダメになる〉……見出しに使えるくらいの(笑)」

芹澤「ロックの奴は溺れるほどの技術がないんだから練習すればいいんだよって俺は思う。俺なんて溺れるほどの技術なんて全然持ってないから。でもそのかわり、技術では説明できないカッコ良くておもしろいフレーズは、技術力のある人よりも多く持ってる自信はある。だからその2つ(スキルとクリエイティヴィティー)が手に入れば鍵盤スターになる未来もあるんじゃないかな」

――ちなみに、お2人がいま注目している鍵盤奏者は誰ですか?

別所「いろいろいますけど、ジェイソン・リンドナーショーン・ウェイランド、あとブラッド・メルドーは説明のしようがないくらい。ショーン・ウェイランドはローズを使ってたり、最近はヴィンテージ・ヴァイブっていう、小っちゃめなんだけどローズみたいな音がする楽器を使ってるんです。ヤセイの音に近いところにいる人というとジェイソン・リンドナーかもしれませんね。アナログ・シンセとウーリッツァーという2つの主軸があるという部分で近いかも」

ジェイソン・リンドナー率いるナウVSナウの2010年のパフォーマンス映像。当時ドラムスを担当しているのはマーク・ジュリアナ

 

芹澤「いやー、服ダサいねー(笑)。服なんてかまってられないくらい音楽に没頭してるんだろうね」

別所「そうなんですよ」

芹澤「超カッコイイ。俺いまこういうのをやりたい」

別所「これは結構古い動画ですけどね」

芹澤「まあでも、そもそも新しいことをやってるわけじゃないもんね。ただただカッコイイことやってる人たちって感じだね」

別所「ファジーに聴こえて、実はちゃんと拍子が決まってるというのはわかってないとできないんですよ」

芹澤「そうだね。この人たちはこういうことをずっとやってきててさ、いま時代がそれをキャッチして、こういうリズムのおもしろいものを最先端って言ってるだけなんだろうね」

別所「そうですね。だいぶ前からYasei Collectiveの共通認識として知っておかなければならないものとしてシェアされていたんです。マーク・ジュリアナも日本でそこまで知られてない時から注目はしていたし、ロバート・グラスパーもこんなになる前からシェアしてた。いまはその影響が出すぎないように気を付けてるくらいです。みんなやってることだし」

――いまはceroもそのあたりからの影響を受けてますよね。

別所「そうですよね、受けてますよね」

芹澤「なるほど。俺も別所と被ってるところはあるんだけど、やっぱ最近はコリー・ヘンリーかな。スナーキー・パピーで弾いたりしている鍵盤奏者で。この人の“Afro Brooklyn”っていう曲があるんだけど、リフがカッコ良すぎて、この間の〈BASSMENT SESSION〉で、俺がこの曲のリフでやりたいと言ったくらい」

コリー・ヘンリーの2014年作『First Step』収録曲“Afro Brooklyn” ライヴ映像

 

別所「なんか聴いたことあると思った(笑)」

――カッコイイですね!

芹澤「NYフィーリングとアフロ・ミュージックがこんなふうにマッチしてることはなかなかないから。俺、このタイトルだけ見て音源買ったからね(笑)。カッコイイに決まってるだろうと思って。俺はすっごいアフロに影響受けてるから」

――アフロ・ミュージックは何かきっかけだったんですか?

芹澤「俺らのミドルネームを付けてもらったくらいだからトニー・アレンはもちろん、個人的にすごい好きでハマったのはアンティバラス。アンティバラスとは昔〈Organic Groove〉で共演して生で観て、やっぱりすごいなと。メッセージ性とかはよくわからないけど、音はすごい。洗練されたアフロ」

※スペアザのメンバーはそれぞれトニー・アレンが付けたミドルネームを持っており、芹澤は〈芹澤“REMI”優真〉である

アンティバラスの2012年のスタジオ・ライヴ映像

 

――別所さんはそのあたりは聴いてるんですか?

別所「あんまり聴いてきてないですね。だから芹澤さんに教えてもらったりして。例えばアフロビートだと、音楽的にちゃんと理解していないとできないと思うんですよ。そうじゃないとカッコ良くならない気がする」

芹澤「でもやってる人たちはきっとそんなに理解してないと思うよ。勘違いの繰り返しというか、レゲエはジャマイカ人がソウル・ミュージックをやりたくてやりはじめたら、なんかわからないけど裏打ちになっちゃった、みたいな。これが気持ちいいからいいやっていう感じ」

――アフロビートの場合だと、フェラ・クティジェイムズ・ブラウンに影響を受けて、あのテイストを採り入れたオリジナルな音楽をやろうとして、ああなったわけですしね。

芹澤「そうなんだよね、そうやって自分なりにしちゃうところがカッコイイ。だから演奏してて物凄く楽なの」

――通じるところがあるからじゃないですか、そういう感覚的な……。

芹澤「そう、俺もアバウトだからそういう音楽とリンクする(笑)。別所みたいにちゃんとしてないから、そういうところ」

――ハハハハ(笑)、向き不向きがあるってことですね。

芹澤「そうそう。だから俺が別所に教えられるのはいい加減さだな(笑)。真剣にいい加減なフレーズを弾くんだよ」

別所「おもしろいっすね」

芹澤「自分がどう思われるかより、それが音楽として成立していればいいやっていう気持ち。自意識が高くないというか。自意識の高くないカッコイイ音楽が俺のめざすところかな。気高さのない音楽というか」

――逆に別所さんは?

別所「さっき言ったことと同じですが、ジャズの要素も自分を作り上げてきた大切な部分なのでそこを残しつつ、バンド・シーンにフィットする存在になれるといいなと」

芹澤「別所はそこを全うするしかないよね。後ろから付いてきてる人もいないでしょ」

別所「まだ付いてきてもらえるほどのものじゃないんで(苦笑)、ただその先駆者になりたいという気持ちはありますね。いままでのシーンに乗っかってもしょうがないから。自分らが作っていくシーンというのは必ずあると思うので、ジャンルレスに、ボーダーレスにいろんな人と繋がって、どの人とセッションしても成立するような存在でありたいです」

 

Yasei Collectiveニュー・シングル“radiotooth” リリース・パーティー

日程:2016年1月30日(土)
会場:東京・代官山UNIT
開場/開演:16:30/17:00
チケット:前売3,000円/当日4,000円
ライヴ:Yasei Collective/FULLAROMOR
DJ:社長SOIL & "PIMP" SESSIONS)、仰木亮彦在日ファンク
オープニング・アクト:沖メイZa FeeDo
⇒そのほか詳細はこちら
 

※〈ヤセイの同業ハンティング〉記事一覧はこちら