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〈後世まで聴かれるようなアルバムにしたい〉と普通のことを考えて

――Alfred Beach Sandal北里(彰久)さんがヴォーカル参加した“Slow Banana”はceroの『Obscure Ride』の曲とも繋げられそうなムードやビート感がありますが、あのアルバムが一つモデルにしたような、コンテンポラリーなブラック・ミュージックに興味はありますか? 

「あー、興味はあるけど、自分がやっていこうというのはない。ceroは好きだけど、自分の作ってる音楽をceroに近付けていくという感覚はまったくなくて、ただのファン」

ceroの2015年作『Obscure Ride』収録曲“Summer Soul”

 

――ふんふん。

「“Slow Banana”はもともとインストだった。”Kids”は〈アルバムの最後を良い歌で締めたい〉というのがあったので制作初期からザットン(北里)に頼んでたけど、アルバムの全体像が見えてきて曲順を決めはじめた頃に、このあたりでもう1曲ヴォーカル曲があってもいいかなと。でも新たなヴォーカリストに頼んでビーサンが薄まるのは違うなと思って、ザットンにもう1曲頼んでみた。本人はザットンと呼ばれてると知らないだろうけど(笑)」

 

――そもそも北里さんに“Kids”でヴォーカルをお願いした理由は?

磯部(涼)くんがビーサンのYouTubeのリンクをツイートしてて、それで知ったんだけど、最初は単純に歌声に惹き付けられた。曲は忘れちゃったけど何だかトロピカリズモ的というかブラジルっぽいひねくれ方してるなーと。でもそれと同時に、エッジのないスマートな曲を歌ってもすごく良さそうだなーとも感じて。で、その後に間部(功夫)くん(VIDEOTAPEMUSIC)がMVを作った、北里くんがヴォーカル参加したZycosの”NEWS”を聴いて〈彼ならやれる! 竜王を倒してくれる!〉と思った。とにかく歌い回しというかリズム感が好みだなと。それから間部くんを介してコンタクトを取って、ソウルフルなループとリズムボックスで作った簡単なデモを送ってたどたどしくイメージを伝えたところ〈こーいうのわりと得意だと思います〉という自信のあるメールが返ってきた」

Alfred Beach Sandalの2011年作『One Day Calypso』収録曲“キャンピングカーイズ
デッド”

 

 Zycosの2013年作『Give it to me』収録曲“NEWS”

 

――今回はfelicityからの初リリースですが、felicityを選んだ理由は?

「僕はもともとトラットリアが大好きで、(トラットリアを運営したのちfelicityを立ち上げた)櫻木(景)さんは憧れであり、音楽的にも信頼できる理解者。いまレーベルで展開しているアーティストもすごく筋が通っているし、インディー・レーベルだからプロモーションにすごくお金をかけられるわけじゃないけど、しっかりとした土台の上で出したかったというのはあった」

――高橋さんがトラットリアからリリースされていたもので特に好きだった作品は?

「なんだろ? 高校時代の元カノがフリッパーズ・ギターを教えてくれたんだけど、そこから小山田(圭吾)くんを知ってトラットリアを追うようになった。いろいろカタログを集めましたよ。アーティストもそうだけど、時代の節々に重要なコンピをリリースしてて、特に『Llama Ranch Compilation』(99年)はすごかった。タヒチ80の“Heartbeat”のデモ・ヴァージョンやLuminous Orange、アメリカのミンティ・フレッシュというレーベルから出てたジム・ルイーズの嫁がやってるニニアン・ホーイックランド・オブ・ループスあたりが一緒に収録されてて。サンプリング、コラージュ、ヒップホップ、サイケ、ノイズシューゲイザービーチ・ボーイズ、みたいなものが網羅されてた『Fantasma』のネタばらしのような作品。流石だなと」

『Llama Ranch Compilation』に収録されたニニアン・ホーイック“Scottish Rite Temple Stomp”

 

――felicityからのリリースはスムースに決まったんですか?

「櫻木さんがアルバムを聴いて、〈これは出したほうがいい、僕らは有能なアーティストのCDをリリースするのが仕事〉みたいなことを言ってくれた。それが一番大きかった。なので、完成した時点でもう満足してるところもある」

――HALFBYとしてのリリースはないものの、音楽の作り手としてはちゃんと仕事して生計を立ててたことが、今作のリラクシンなムードに繋がっているのかもしれませんね。

「4年間アーティストとしての危機感はあったけど、もともと成り上がり精神のないほうだから、人に与えられた課題をこなしてた結果がいまなだけ。無理なくマイペース。八方美人で業界にしがみつくのは苦しいでしょ」

――ハハハ(笑)。でも時間をかけただけの素晴らしいアルバムになって良かったですよ。

「今作は音楽に対してもっとも実直だったのかなーと。これまでは自分がアーティストなんて自覚がなくて、ニーズがあるなら……くらいの無責任でライトな気持ちだったけど、今後HALFBYとして活動を続けるなら〈後世まで聴かれるようなアルバムにしたい〉と普通のことを考えた。キーボートを弾いたりストリングスのアレンジを考えたりコーラスを録ったり、今回初めてやったことはいっぱいあるよ。だから、ほぼほぼ童貞です。そういう意味でこれは処女作みたい」

――活動13年目の(笑)。さっきはDJと創作がシンクロしてないと言われましたけど、ラウンジ感はありつつも、どの曲もビートはしっかり立ってるし、DJでもかけられそうですけどね

「いまはDJというより、Dorianが(ローランドの)909でやってるようなライヴがいいなーとなんとなく思ってる。自分の曲をライヴ用にリエディットして、そのほうが自分の理想に近いしDJ的感覚も活かせるというか。ライヴするならエレピくらいは弾かないとね。まあデカい音さえ出せたら、あとはスターウォーズのフィギュアで遊ぶ俺を見てもらうというのでもいいかもね」