パンクは途切れることなく続いているものだけど、そのなかでもこれからの2年はまた特別な2年間になるんじゃないかな

――KiliKiliVillaのメディアに対するスタンスは、ほかのレーベルとは一線を画している気がしたのですが、何か具体的な方針はあるんですか? 〈ちょっと隠れたところから発信したい〉みたいな温度感も感じたので、正直今回の取材はどうなのかな?っていう懸念もあったんです。

安孫子「いやいや、全然ありがたいですよ! これはレーベルっていうより僕個人の意見ですけど、正直〈うわ、あの媒体にそういう感じで載ってるのダサっ!〉って思っちゃうタイプなんです。興味があれば検索したら情報が出てくる時代だし、実際に何かのハードルをクリアしないと昂揚感は生まれないと思ってて」

――昂揚感ですか。

安孫子「自分がそれを求めていたんだという意思で、何かのきっかけで多少のハードルを超えたもののほうがより大事なものになるというか。宅イチローくんっていう、KiliKiliVilla周辺のアーティストも多く取り上げてくれるAnorak citylightsというブログをやってる子がいるんです。普通にサラリーマンしてるんだけど、ある日〈何かやりたいんです〉みたいなDMが来て、話したら同じような音楽を聴いてきて、同じような体験をしてるんだなっていうのがわかって意気投合して。そういうもので十分だなと思う」

――露出に関してもレーベルのスタンスを崩さずに、自分たちと身近な人たちとのネットワークで展開していくということですね。

安孫子「でもこの1年、ある程度〈こういう感じでできたらいいな〉と思っていたことがほぼイメージ通りに仕込めている手応えがあるなかで、そこだけでやっていくんじゃなくて、そろそろ別の間口もあったほうが良いなと思ってきてはいます。正直ちょっと慎重な部分はあるけど、基本的には単純に興味を持っていただけているならありがたい話でしかないなと」

与田「実はCAR10のリリース以来、各媒体さんから取材の依頼は結構いただいてるんです。でも、あまりにもビジネスの話ばかりが前面に出てくることに少し違和感があったのは正直なところで。編集サイドのパーソナリティーや方針を話してもらったうえでの話ならまだ理解できるんですが、いきなりビジネスの話をされてしまうケースがあれだけ多いと、〈う~ん〉と思い留まっちゃって。自分たちで発信しているのは、取り上げてくれる場所がないから発信しなきゃいけないと思ってやっているんです」

安孫子「本当に興味を持ってもらってる人たちと話したほうが楽しいし。今日みたいにごくあたりまえの感じでやれるのが嬉しいです」

――恐縮です……。

与田「非常に期待してます(笑)。Mikikiさんは媒体としてオールジャンルで扱っているじゃないですか。ジャンルごとの書き手がもう少しパーソナリティーが出てくるともっと人が集まるようになるのかなと。入り口としては大きいし、レヴューもプレス・リリースそのままじゃないオリジナルの文章を掲載するのはいま難しいですよね。でもいま自分から音楽を追いかけて聴いてる人って、ひとつのジャンルで終わるわけじゃないと思うから、そういう部分ではMikikiさんのような間口の広さがあればおもしろさは出せるんじゃないかな」

安孫子「アンダーグラウンドなものも、こうやって取り上げていただいて本当にありがとうございます」

与田「例えばAmazonのカスタマーレヴューがすごくおもしろかったりするじゃないですか。ああいうおもしろさと、しっかりとした内容の読み物を組み合わせたものが出来る可能性がある気がするんですよね。書き手のリアルな思いをぶつけてほしい」

――ありがたいお言葉の数々……精進します!

安孫子「そういえば以前、船越さんが担当した記事で新宿MARZの星原さんの記事があったじゃないですか※参考記事:新宿MARZ/人気DJパーティー〈New Action!〉の星原喜一郎が語る、インディー・シーンの現場秘話と新潮流

――はい。

安孫子「あれを引用リツイートで拡散したんですけど、実はそれまでに2~3時間悩んだんです。2点引っ掛かった部分がありまして」

――そうだったんですか……。

安孫子「せっかくの機会だし、お話しておかないとなと思って。最初は夜の移動中にバタバタしながら記事をさらっと読ませていただいて、レーベルを話題のひとつにしていただいてありがたいなーくらいに思っていたのですが、家に帰ってからまた読んだら〈あ、これはダメだ〉と。先方に悪意はないわけですから言い方はちょっと悩みました。でもこれは読み手に非常に不本意な印象を持たれてしまう可能性があったので、対応させていただきました。ひとつは、パンクのシーンがまた盛り上がってきてるという話のなかで、船越さんからの〈昔から連綿と続くシーンとは違うんですか?〉という質問に対して星原さんが〈はい、違います〉と回答してたんです。そこがすごく引っ掛かって」

――あぁ……そこは僕の勉強不足に拠るところが大きいです。これは本当に申し訳ありませんでした。

安孫子「パンクって世代も国も地域も越えてずっと楽しまれているもので、われわれを夢中にさせるとても素晴らしい音楽、文化、歴史、価値観などあらゆる物事を含んでいるものです。その歴史が続いてて、いまや10代から50代くらいまでの人たちが楽しめるひとつのキーワードなんですよね。僕たちも〈そことは別です〉、なんてまったく思っていなくて、むしろいままで数え切れない影響を受けてきたし、その歴史のなかで2014年からレーベルとして参加しているんだという、そういう意識をすごく大事にしてる。だから〈連綿と続くシーンとは違うもの〉と捉えられちゃうと本意ではないな、と感じたんです」

――はい、すごくよく理解できました。

安孫子「もうひとつは、〈次のブーム〉というニュアンスの紹介のされ方について。パンクほどこういう物言いは相応しくない。ずっと途切れることなく続いています。〈現場にいないから知らないだろうけど、ブームになり得るほど(ライヴに)そんなに人は入ってないしなぁ〉って(笑)。ずっと続いてきたカルチャーだから、ブームだとかブームじゃないとか、僕らはそういった括りとは関係ない楽しみ方をしたいと思っているんです」

――よくわかりました。こういった場で本音で話してていただいて……ありがたいお話です。

安孫子「僕も、失礼のないように、かつ自分の意志もしっかり出るような文章で書かなきゃいけないなと思ってたんですが……なんだかすいませんね(笑)」

――いえいえ、本当に感謝しています。確かにコンピにも若いバンドだけじゃなくて、LINKなど上の世代のバンドの曲もちゃんと収録されてますもんね。

安孫子「文脈のごくごく一端にしか過ぎないのですが、そういう時間軸のストーリーがあるものにもしたいという意識があって。しかし現時点では複雑になりすぎないよう、そのコンビネーションはいろいろ考えました。とはいえ、あのコンピの焦点は〈いま〉で、2014年~2015年の空気をわれわれなりの意味付けをしたうえで提示するのがテーマ。〈これが現行のパンクのひとつの形〉と言えるものを見つけたかったんです」

――その芯の部分はしっかり出ているように思います。

安孫子「偏りすぎず、しかしながらファンジンを含めきちんと一本筋が通ったものにしたくて、less than TV谷ぐち(順)さんやSnuffy Smiles栄森(陽一)さんという大先輩方にも寄稿をお願いしました」

――音は全然違うけど、チェリー・レッドの名作『Pillows And Prayers』のように、レーベルの美学を一枚のコンピで示そうとしているのかな、と思ったりもして。

安孫子「そうですね。パンクの筋と、パンクと呼んでいい音の幅という部分は意識しましたね。オルタナティヴな意味付けひとつでHomecomingsもパンクに聴こえちゃうとか、そういうことをしたかった。Hi,how are you?もパンクに聴こえる(笑)」

Hi,how are you?の原田晃行による、2015年のRECORD STORE DAYのパフォーマンス動画。『While We're Dead.:The First Year』にも収録されている“それはそれとして”も演奏している

 

――確かに(笑)。

安孫子「パンクを起点と考える歴史そのものを大事にしたかった。いまとなってはその波及の仕方は本当に広範囲だと思います。コテコテで他ジャンルに否定的すぎる人や、またはよくメディアで見かけるスポーティーでオラついたテンションのバンドがパンクだという理解のされ方とか。いまだにそんな感じがあると思うんです。多くのいろいろな特徴を持ったコミュニティーが存在しながら国内外を行き来して、それぞれが変化していくことを、パンクは根こそぎ楽しめるものだと思う。僕自身も2005年~2006年くらいに〈いよいよ本当にパンクに飽きたな〉と思っていたのが、まさかこの歳になってティーンエイジャーに戻ったかのようにドキドキすることになるなんてビックリだし、まだまだずっとこの先も楽しんでいきたいですね」

――最終的には未来への希望が見えるお話になって良かったです。といったあたりで、KiliKiliVillaの今後の展開を教えていただけますでしょうか。

安孫子「とりあえず(9月にリリースされた)killerpassのファースト・アルバム『まわりたくなんかない』は、独特すぎる新しい意味合いも内包した素晴らしい作品です。また、2016年はより意味深い年になるんじゃないかと勝手に思っていて。われわれ周辺に限らず、世の中全体の空気の高まりがそんなことを予感させます。いろいろな布石が2015年にたくさん打たれている気がしますね」

killerpassの2015年作『まわりたくなんかない』収録曲“アイランドインザサン”

 

与田「来年の前半くらいまでで、ちょうど1年前にレーベルをスタートする際に声をかけた人たちがグルッと1周するんです。それとまだ仕込んでる段階だけど、11~12月には〈こんなこともやるんだ!〉っていう別フェイズの仕掛けも用意しています。音楽的な枠も広げられるかもしれない。まぁ基本はパンクという理念の枠には収まるだろうなと思いますが。当分はリリースが続く予定です」

安孫子「〈●●発、平均年齢38歳の●●●パンク・バンド〉という伏兵もいます(笑)」

――ヤバイ(笑)。それは楽しみですね。

安孫子「何だか堅苦しいことも喋ってしまいましたが、硬めから柔らかめまで(笑)、さまざまなおもしろいバンドさんを通して音楽を楽しんでいきたいです」

与田「来年のファンジン付きコンピのパート2も当然あるからね」

――おー!

与田「大変だったんだから、作るの(笑)」

――それは楽しみにしてます! では最後の質問です。パンクはまだ進化すると思いますか?

安孫子「進化しないと思ってたのに、どうやら2014年には進化してたという事実を目の当たりにしたので、これは〈します〉っていう回答でしょうね。想像もしない形で進化するんだろうな」

与田「個人的にはVenus Peterなんかが出てきた頃の雰囲気に近いと思ってるんだよね。あのときも、東京にはフリッパーズ・ギターを中心としたコミュニティーがあって、それと仲の良い関西のグループがいて、みんながそれぞれの地点でギター・ポップインディー・ダンスを自分たちのやり方で展開していて。当時は〈日本でこんなことができるのか〉と思っていたけど、いまの空気感とすごく似てるんだよね」

安孫子「当時からローカルのシーンはおもしろかったんですか?」

与田「地方のバンドのほうが元気が良くて偉そうだった(笑)。関西のバンドなんかみんなそうで。日本は2000年以降にインディーのあり方が硬直化したんだよね。ポップ・ミュージックとしては大きなマーケットがあるけど、インディーはそこから10年間変わらなかったというか。俺たちの好きなインディーやパンクの感じが10年間は消えてたような気がする。そこで〈もう何もないか〉と思いかけたところで、いまの流れに出会っちゃったから」

安孫子「なるほど~」

与田「日本って結局カルチャーが根付かないことが問題で、例えば渋谷系のような形でその時代のスタイルとしては昇華されるんだけど、そこからローカルのコミュニティーまで浸透して〈みんなバンドを続けました〉みたいな状況にはなってないじゃないですか。でもそろそろカルチャーが根付くような流れを作れるかもしれないと考えていて。空気感こそ当時と似ているけど、それがいまと昔の一番違うところかな」

安孫子「そう思いますね」

与田「インディーズ・ブームだろうがビート・パンクだろうが、いろんなインディーの波があったけど、全部ガーンと行った後に消えて次の波が来るパターンの繰り返しだった。そろそろ違う流れが来てもおかしくないぞと」

安孫子「昔からずっと辞めずに活動を続けている人たちも多くて。対バン形式のライヴだと、ヴェテランのハードコア・バンドと若手が一緒になることも普通というか。パンクのおもしろいところです」

与田「90年代にバンドを始めた人たちは、当時は一番下っ端だったわけじゃん。先輩が〈オラ!〉って理不尽な先輩風を吹かせているのを見て、下の世代に同じようなことはしなかったんだろうね」

安孫子「この間もそういう話になりました(笑)。90年代後半のバンドでヤンキー上がりの人と、そうじゃない人たちの残したもので真っ二つに分かれてる」

与田「縦社会になっちゃうと下が付いてこないけど、そうじゃない人たちが90年代の人たちから多い気がするね」

安孫子「あの、いいですか……やっぱり、パンクは進化しないですね(笑)」

――ここにきて(笑)。

安孫子「結局パンクはそのままの姿でい続けるんじゃないかな」

与田「それがまた熱を帯びて輝く瞬間があるってことだよね」

――その〈瞬間〉が今年から来年にかけて来ると。

安孫子「そんなの長く続くわけないんです。ただ、パンクはずっと続いていくものだけど、そのなかでもこれからの2年はまた特別な2年間になるんじゃないかなと思いますね。僕はくたばるまでずっとやります」