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ハリウッド・サウンド

 「スター・ウォーズ」の音楽は、後期ロマン派のワーグナー、R.シュトラウスを彷彿とさせる壮大なオーケストレーション、イギリス印象派のホルスト、ハリウッド・サウンドの生みの親とも言われるエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト、マックス・スタイナー等の影響を感じさせつつも、ジョン・ウィリアムズ独自の華麗なる音楽を形成し、映像と登場人物の心理を引き立てながら、観衆を「スター・ウォーズ」の世界へと誘導し深い感動を与えてくれる。20世紀初頭、中欧・東欧の多くのユダヤ人がアメリカへ移住し、ハリウッドの映画産業に参入したユダヤ人たちは、パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザーズ、MGM、ユニバーサル等、メジャー・スタジオを次々と創設していった。ドイツでナチスが台頭すると、迫害を逃れて多くの音楽家がアメリカへ亡命。スタジオに雇われた作曲家たちはヨーロッパの音楽を映画へ導入していくことになる。ハリウッド・サウンドとは、コルンゴルト、マックス・スタイナー、アルフレッド・ニューマンをはじめとする、アメリカへ亡命したユダヤ人作曲家たちが築き上げたものである。彼等の作風はハリウッド映画音楽の基礎となり、ジョン・ウィリアムズにも継承されている。ウィリアムズはユダヤ系ではないが、 ハリウッド映画業界・音楽界は現在でも圧倒的にユダヤ系が多い。例えば、ジェリー・ゴールドスミス、エルマー・バーンスタイン、ラロ・シフリン、ハワード・ショア、ジェームズ・ホーナー、トマス・ニューマン、ダニー・エルフマン、ジェームズ・ニュートン・ハワード等は皆ユダヤ系である。 

 

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オーケストレーション

 「スター・ウォーズ」のサウンドトラックは、全てジョン・ウィリアムズが指揮、1977年〈エピソード4/新たなる希望〉から2005年〈エピソード3/シスの復讐〉まではロンドン交響楽団が演奏、2015年〈フォースの覚醒〉はロサンゼルスのスタジオで録音された。「スター・ウォーズ」「E.T.」「ハリー・ポッター」「シンドラーのリスト」「インディ・ジョーンズ」等、演奏会用組曲のオーケストラ楽譜はHal Leonard社より出版されているので、映画音楽のオーケストレーションを学びたい人は必見である。

 演奏会用組曲は通常のオーケストラ編成だが、サウンドトラックでは金管楽器数が多く、よりパワフルな臨場感を生み出している。例えば、〈エピソード4/新たなる希望〉のサウンドトラックの金管はホルン8人、トランペット4人、トロンボーン3人、チューバ2人だが、演奏会用組曲はホルン4人、トランペット3人、ロンボーン3人、チューバ1人となっている。映画音楽ではホルン8人の使用は普通で、ハンス・ジマーのスコアでは、チューバも4人起用されたりする。

 ジョン・ウィリアムズ作品の多くのオーケストレーションを手がけてきたコンラッド・ホープ、著名なオーケストレーターで〈フォースの覚醒〉の指揮も務めたビル・ロスと筆者は知合いで、作・編曲する際の留意点を彼等から学んだ。楽器が一番美しく鳴る音域で書くこと、要素をいくつかに絞ること、聴き手が一度だけ聴いて音楽を享受できること、映像と登場人物の心理を引き立たせること……等、単純なようだが大切なポイントと言えよう。オーケストレーションは、分厚く聴こえても実際にはシンプルに構成されていることが多い。例えば、「スター・ウォーズ」のメインテーマでは、弦楽器が3オクターブのユニゾンでメロディーを歌い上げる中、金管楽器がブロックコードでハーモニーをサポート。ダース・ベイダーのテーマはトランペットとトロンボーンによるメロディーを中心に、弦楽器その他は3連音符でリズムを刻み、限られた要素で骨太に構成されている。