数ある落語のネタですが、なかには話の辻褄が合わないものや現代の感覚では違和感を覚えるものがあります。それらの違和感をいかに払拭し、どこまですっきりと整えて聴かせるかも落語家の腕の見せ所。おなじみのネタでもまだまだ工夫できるものがあるようで、当代馬生師による「井戸の茶碗」もこれまでの演出の不備を整えて語られています。誰も気がつかないような細やかな工夫の数々。豊富な知識と経験に裏打ちされた師匠の落語は、その技をことさら鼻に掛けない名人がつくる極上の一品のよう。聴くほどに味わいが増す一席です。