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(C)Sayaka Ikemoto

 

●PREVIEW
没後20年の命日に、武満のギター曲&歌曲を聴く

 日本を代表する作曲家であった武満徹が亡くなったのが1996年2月20日。早いものでもう20年も前のことになる。2016年には武満没後20周年を記念して、様々な演奏会が開かれるのだろうが、その中でまずご紹介したいコンサートがある。武満の20回目の命日に行われるコンサートだ。東京文化会館小ホールで行われる「Music Program TOKYO プラチナ・コンサート第5回 荘村清志 ゲスト:小林沙羅」(2016年2月20日)。このプラチナ・コンサートは東京文化会館の小ホールの素晴らしい音響を活かして、工夫を凝らしたプログラミング、世界的な演奏家などを起用した贅沢なコンサート・シリーズである。2015年では、ジャズ界の伝説的ピアニスト・秋吉敏子が出演し、フランスのチェリスト、ゴーティエ・カプソン児玉桃によるデュオなどがこのシリーズの中で開催された。その第5回目が荘村&小林のコンサートとなる。

 武満徹は《ノヴェンバー・ステップス》(1967年)などの作品で、欧米で高い評価を得た。大規模な管弦楽曲も多いのだが、武満の残した作品の中で大きなウェイトを占めているのがギター曲である。そして、武満がギター曲を数多く書くきっかけを作ったのが、ギタリスト・荘村清志であった。

 荘村は1974年に自分のリサイタルのために武満に作品を依頼した。そして書き上げられたのが《フォリオス》。3つの楽章からなる作品で、その3番目の楽章の最後には武満が愛聴していたJ・S・バッハの《マタイ受難曲》の一節が引用されている。これ以降、武満は数多くのギター曲を書いた。またギターのために《ギターのための12の歌》という編曲作品も作っている。この「12の歌」の中にはビートルズ作品も入っているが、武満という作曲家の幅広い関心を教えてくれる作品集だ。

 さて、荘村の今回のリサイタルでは、《フォリオス》《すべては薄明のなかで》(1987)《エキノクス》(1993)《森の中で》(1995)という武満が作曲したギター曲が演奏される。すべての作品が武満らしい緻密な構成で書かれていて、演奏はかなり難しい。しかし、様々な音の連なりの中から、自然と武満の顔が浮かんでくるような、そんな温かみも持っている。特に《森の中で》は武満の人生最後の時期に書かれた作品だけに、そこに込められた想いも深いものがある。この《森の中で》は全3曲から構成されるが、その3曲まとめての初演を行ったのは荘村である。

 そして、武満作品の中で、彼の没後よく取り上げられるようになったのが「Songs」と呼ばれる歌である。これは武満の人生の様々な時期、機会に書かれた歌曲で、最初期の作品は1954年の《さようなら》。谷川俊太郎作詞の反戦歌として有名な《死んだ男の残したものは》は1965年に書かれた。その他《○と△の歌》《小さな空》《燃える秋》《翼》など、ショット社から出版されているSongsには現在20曲が収められている。武満自身が作詞した曲も多い。武満のSongsは本当に様々な編成、様々な歌手によって取り上げられているが、今回の「プラチナ・コンサート」ではソプラノの小林沙羅が荘村のギター伴奏で歌う。小林は東京芸大大学院を修了後、ウィーンで研鑽を積んだ。最近では井上道義指揮、野田秀樹演出で話題となったモーツァルト『フィガロの結婚』のスザンナを歌ったことでも注目を集めた。海外の作品だけでなく日本語の詩による歌曲もたくさん歌ってきており、彼女が武満作品でどんな歌を聴かせてくれるか、とても楽しみである。

 没後20年。武満徹の作品を聴く機会はいまだに多いと言えるだろう。そしてこれからも演奏され続けて行くだろう。もし、武満徹という作曲家をまだ知らないと言う人がいても、大丈夫。このコンサートで、武満が愛したふたつのジャンルであるギターと歌の作品群を聴けば、武満という作曲家の魅力がよくわかるはずである。武満への近づく第一歩として、このコンサートに参加してみよう。 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO
プラチナシリーズ第5回 荘村清志 ゲスト:小林沙羅 ~20年目の命日に贈るタケミツの愛のうた~

○2016/2/20(土)15:00 開演
会場:東京文化会館小ホール
出演:荘村清志(g)小林沙羅(S)*
曲目:武満 徹:フォリオス、すべては薄明のなかで、エキノクス、森のなかで、ソングスより「小さな空」「翼」* 他

http://www.t-bunka.jp/sponsership/spo_160220.html