インディー・ポップ×ブラック・ミュージック
ダフト・パンクやファレル、ロバート・グラスパーにディアンジェロ——近年の世界的な話題作の影響もあってか、〈ブラック・ミュージック〉というワードが頻繁に見られるようになった2015年の邦楽シーン。なかでもインディー・ロック界隈は、ジャズ、ファンク、ソウル、ネオ・ソウル、ディスコ~ブギーあたりを採り入れたサウンドの爛熟期を迎えたと言っていいだろう。そうした要素を含むポップス、とりわけ〈シティー・ポップ〉は近年の日本のトレンドであったが、その意味するところが徐々に多様化し、アーティストの形態も〈ソロ〉がメインだったところから〈バンド〉での表現が増加。そこで影響力がもっとも大きかったのは2013年末のシングルから進路を変えたceroのアルバムだろうが、時流に関わらず長年スタイリッシュなブラック志向を露呈してきたペトロールズの『Renaissance』も、今年を代表するファンク作品と断言したい出来だった。さらに新人のアルバムとしては、LUCKY TAPESの『The SHOW』を皮切りに、SuchmosやAwesome City Club、ORESAMAらがフレッシュな感覚を提示。ソロ・サイドでも年初の入江陽『仕事』に始まり、老成した17歳=シンリズムの初作や年末に滑り込んだ星野源の最新作と、通年で良作が届けられていた印象だ。
なお、そうした面々(特に新世代)が影響源のひとつとして挙げていたのは、90年代~2000年代初頭に〈日本のR&B〉とも括られていたような作品群。当時のシーンを賑わせていたアーティストたちも翻って今様の作品を残しており、数作前より耳聡くmabanuaとの制作を継続しているCharaや、冨田ラボとbirdのタッグ作、そしてAzumiの初オリジナル作『CARNIVAL』あたりはドンピシャのサウンドを楽しめるだろう。こちらも併せてチェックしてほしい。 *土田
Faded Audio
前年に本格始動したFaded Audioは、主にインターネットで活躍してきた新世代クリエイターのフィジカル作品を送り出す新進のレーベル。この1年間でThe Wedding Mistakes、KOSMO KATらを送り出し、ライアン・ヘムズワース作品にも参加したTomgggのミニ・アルバム『Butter Sugar Cream』ではお菓子の箱を模した限定盤でパッケージへのこだわりも見せていた。さらにUSからシーパンクの象徴たるウルトラデーモンの新作を届け、長らく待たれていたHyperJuiceの初フィジカル作『Lights』も投下。攻めのラインナップを含め、今後も注目すべきでしょう! *北野
日本のラウド・ロック
日本のラウド・ロック……といっても、ここ数年に続いて猛烈な勢いをキープしているのは、特にメタルコア/スクリーモ勢だろう。エレクトロニクスとの融合=ダンス要素も宿したサウンドで評価を得るFear, and Loathing in Las VegasやCrossfaithらが話題作を発表するなかで、そのスタイルにいち早く着手していたFACTの解散は大きなトピック。〈自身にとって新鮮なサウンド〉を求めて活動してきた彼らだが、その終焉間近に送り出した『KTHEAT』が(トリプル・ギター編成になったことも大きな要因ではあろうが)バンド・アンサンブルにより重きを置いた作風だったことも興味深い。また、そうした方向性で注目を高めたのが、〈2015年の100枚〉にも選出されているHER NAME IN BLOODのメジャー作品や、ハードコアを出自とする筋肉質なサウンドで浮上したCrystal Lakeの『THE SIGN』(CUBE)。彼らはそのリリースと前後していずれも海外進出も果たしており、加えて日本では大きな足場を築いているONE OK ROCKも世界デビューを飾るなど、新たに国外へ飛び出すアクトも立て続けに登場した。
また、Aldiousらを牽引役として引き続き百花繚乱の女性メタル/ハード・ロック周辺では、Raglaiaの『Creation』やMardelasの諸作など、人気バンドの元メンバーを擁するニューフェイスが次々と。メイド服を纏ったBAND-MAIDら変わり種も知名度を上げ、ヴィジュアル面も含めた多様化はますます進みそう。 *土田
ハウスのいろいろ
前年のカイザやロビン・シュルツのようにメインストリームでもそのサウンドを響かせたディープ・ハウスはもちろん、フューチャー・ハウス勢の台頭を受けつつもダッチ勢のプログレ・ハウスも幅を利かせたEDMシーンの状況、そしてUK地下シーンではDJハウスが初のアルバム『Burnin' Up』を発表するなど、幅広いフィールドで改めて〈ハウス〉がキーになる局面の多かった2015年。デヴィッド・ゾウイの全英1位ヒット“House Every Weekend”やカイゴ“Firestone”といったビッグ・チューンは、CDだと『Tropical House』のようなコンピでしか聴けないものの、そこでも掲げられた〈トロピカル・ハウス〉は、オミー“Cheerleader”のフェリックス・イエンによるリミックスが世界中でNo.1となってすでに浸透済み。南国っぽさを意識した柔らかくメロディアスなサウンドは、ジャスティン・ビーバーが会心の“What Do You Mean?”で採り入れ、ジェイソン・デルーロ『Everything Is 4』でも聴くことができた。 *出嶌
男性ダンス&ヴォーカル・グループ
まだ大きなひとつの動きには見えにくいものの、着々と層を厚くしてきた日本の男性ダンス&ヴォーカル・グループが、2015年は一気に表舞台に出てきたように思える。すでに数年のキャリアを誇る超特急やDISH//らEBiDANの各グループに、実力派のDa-iCE、X4や名古屋発のBOYS AND MEN、さらに“XXX”(ソニー)でデビューしたばかりのXOXなど、アイドル性や音楽性などもさまざまで、それぞれに魅力を蓄えており、ファン層もイケメン好きからダンス女子まで多様。先行した女性アイドルやK-Popのメソッドも導入し、音楽的にもいっそうおもしろいことになっていきそうだ。 *出嶌