テイム・インパラやディアハンターの最新作がリリースされるなど、欧米を中心としたインディー・シーンでは今年もまだまだ勢いの衰えないサイケ・ロック勢。しかし、その波は欧米だけのものではなく、ここ日本にもちらほらと到達していて……そんな考えのなかで想起されるのが、都内を中心にメキメキと頭角を現してきたこの3ピース・バンド、Tempalayだ。ループを基調としたミニマルな楽曲構成に、チルウェイヴを通過した世代特有の浮遊感や逃避感覚を擁しながらも、あくまで軸にあるのは心地良く鳴り響く歌メロであり、ほとんどの楽曲が3分ほどで完結するというポップネス。こういった点も、欧米のサイケ・ロック勢に通ずるポイントであると言えよう。

 「日本で売れるような音楽となると、どうせダサいものをやらなくちゃダメなんだろうなって思ってたので、このバンドを組んだ時も、正直売れないだろうなって思ってたんです」(小原綾斗)。

 「日本はハナから無理だろうということで、最初は海外のインディー・レーベルをピックアップして、片っぱしからデモ音源を送りつけるっていう活動をしていました」(竹内祐也)。

 こう語る通り、彼らは主にDIY精神溢れるローファイなUSインディー・アクトからの影響を公言する。そのなかでもっとも影響を受けたのは、今年もアルバム『Multi-Love』をリリースしたポートランドを拠点とするアンノウン・モータル・オーケストラだそうで、確かにそのくぐもった音質やヴィンテージな質感、抑揚の抑えられたテンションなど、至るところから彼らとの共通項を感じ取れる。しかし、掴みどころのない抽象的なイメージが特徴的な日本語詞や、それを巧みにメロディーに組み込む手法やセンス、そして前述の通り感情を押さえつけているかのような平坦なグルーヴ感などは、どこかミツメやゆらゆら帝国あたりを彷彿とさせる。

 「冷めているように見えるかもしれないけど、そういうスタイルのほうが自分たちの演奏の魅力がより惹き立つなって考えた結果、こういうふうになったっていうだけなんだと思います。正直言って、常に〈俺らクッソイカしてるでしょ!〉って思いながら演奏してます」(藤本夏樹)。

Tempalay 『from JAPAN』 Pヴァイン(2016)

 このように、みずからのことを客観的な視点で分析できている点も非常に今日的な感覚だ。そんな彼らがついにファースト・アルバム『from JAPAN』を上梓する。独特の空気感はそのままに、より洗練されたプロダクションが光る本作は、エンジニアにASIAN KUNG-FU GENERATION『崩壊アンプリファー』などの仕事で知られる岩田純也、マスタリングにゆらゆら帝国やギターウルフなどを手掛ける中村宗一郎を迎えながらも、プロデュース的な部分はあくまでも自分たちだけで舵を取り、完成させたのだという。まさに〈シーサイ・ポップ〉という形容が相応しいローファイかつトロピカルな音作りはさらなる進化を遂げ、チープなシンセなどの上音が揺らめく極彩色のサイケデリアを演出する今作は、彼らのこれまでの活動の集大成でもあり、まだまだ荒削りな部分も散見されるが、それも込みで今後への期待をよりいっそう高めてくれる作品でもある。

 「ぶっちゃけ来年の〈SXSW〉への出演が決まってからつけました(笑)」(小原)という大胆不敵なタイトルも相まり、まさに名刺代わりとなったこのアルバムを携えて、2016年の彼らはどこまで飛び立っていくのだろうか。日本のリスナーに知ってもらうのももちろん重要なことだが、同時にすでに出演が決定している〈SXSW〉で、彼らが世界から発見されることも強く願っている。ここ日本から、またひとつ世界へと飛び立つバンドが誕生したことに盛大な拍手を。

 


Tempalay
小原綾斗(ギター/ヴォーカル)、竹内祐也(ベース)、藤本夏樹(ドラムス)から成る、東京/埼玉を中心に活動する3人組バンド。2014年に結成。ライヴ活動を通じて口コミで認知を広め、2015年は〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の〈ROOKIE A GO-GO〉枠や〈りんご音楽祭〉といった大型フェスのステージも経験。同年9月には初のEP『Instant Hawaii』を送り出し、そのリリース・パーティーへカナダからホームシェイクを招いたことも話題に。さらには来春に開催される〈SXSW 2016〉への出演も決定するなど海外を視野に入れた動きも徐々に増加していくなか、ファースト・アルバム『from JAPAN』(Pヴァイン)をリリース。