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現体制以降のバンドの歴史に見る、Plastic Treeにとっての〈音楽作品〉

 佐藤ケンケンの加入により、Plastic Treeが現編成となったのは2009年。同年に発表された10作目『ドナドナ』や、2010年のシングル“ムーンライト――――。”“みらいいろ”と黒夢のトリビュート盤『FUCK THE BORDER LINE』への参加を挿み、彼らは佐藤も詞/曲を担当した2011年作『アンモナイト』をもって、4人のメンバー全員がソングライティングを手掛けるという現在の制作スタイルへ移行している。そんなわけで、ここでは同作以降のバンドの動きを追ってみよう。

 2010年末、恒例の年末公演を控える時期に有村竜太朗がギラン・バレー症候群を発症。翌4月に発表されたフル作『アンモナイト』にはその闘病を機に歌詞が書き換えられた有村製の“さびしんぼう”も収録されているが、このナンバーは、当人が本文中で〈弾き語っちゃう曲〉と発言しているタイプのパーソナルな質感のもの。そうした曲もありつつ、本作にはマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン直系のシューゲイザーグランジ、さらには先の見えないプログレッシヴな展開のナンバーやメランコリックな浮遊感を轟音の中に溶け込ませた楽曲など、詞/曲が分業されたものも含めて、ここでも鮮烈なサウンドを提示している。

2011年作『アンモナイト』収録曲“Thirteenth Friday”

 

 その後、ディズニー曲のカヴァー集『V-ROCK DISNEY』への登板を経て、翌2012年にはメジャー・デビュー15周年イヤーに突入。この年のトピックとしては、4度目の日本武道館公演〈テント3〉の開催と、97年の初作『Hide and Seek』の楽曲の〈Rebuild〉作業が挙げられるだろう。これらの経験は年末に届けられたフル作『インク』にも如実に反映されており、武道館公演の見せ場のひとつであった長尺のインプロヴィゼーションは2パターンのインストへと結実し、アルバムの初回限定盤には『Hide and Seek』を丸ごと再構築した一枚も同梱。制作中は「15年前の初期衝動と向き合いつつ、それを超えていまの自分たちをきっちり見せていかなきゃならない」(長谷川)との意識があったという『インク』だが、〈自身の音楽性の核〉の再確認と更新作業は、2014年に結成20周年〈樹念〉で行われたツアーのファイナル公演における3作目『Parade』(2000年発表のもので、デビュー時のメンバーで制作された最終作)の再現ライヴにも継承されている。

2013年のシングル“瞳孔”

 

 作品の話に戻ると、4人は2013年のシングル“瞳孔”も含むミニ・アルバム『echo』を2014年3月に上梓。佐藤が初めて詞/曲を丸ごと手掛けた“雨音”も登場した同作は、有村いわく「各ソロの集合体みたいな印象もある」という仕上がりだ。楽曲を持ち込んだメンバーがそこでトライしたいことを突き詰めた結果の一枚だが、不思議と各曲が共鳴しており、それは全曲に漢字2文字の表題を付けることでより浮き彫りになっている。

 彼らの近作を振り返ってみて改めて思うのは、〈四者四様であること〉が〈バンド表現〉という受け皿の拡大に直結している点。核にある音楽的嗜好はストイックなほどに保ちつつヴァージョンアップされ続けるバンドの記録、それがPlastic Treeにとっての〈音楽作品〉であり、その最新版が『剥製』なのだ。