ソロ・アイドルの新たなる希望、武藤彩未のバックグラウンドにある名曲たちを紹介します(前編)

 こちらのインタヴューをご覧になっていただければわかるように、武藤彩未がソロ活動をスタートするにあたって80年代アイドルを標榜するプロジェクトの方向性が選ばれたのは、純然たる武藤本人の嗜好によるもの。96年生まれの彼女が子供の頃から聴き親しんできた音楽を、そうした歌い手たちと近い年齢になった彼女が敬意と憧れを込めて純粋に表現しているというわけです。会場限定リリースのカヴァー集が『DNA1980』と題されているのも決してハッタリではないのです。

 とはいえ、彼女と同世代や20代のリスナーにとっては生まれる前の話でもあるでしょうし、仮に30代以上であっても、〈当時の雰囲気〉などは懐かしい共通認識ではないことのほうが多いでしょう。そんなわけで、ここでは武藤彩未がカヴァー音源で取り上げた楽曲のオリジナルが聴ける作品を中心に、80年代から現代に至るまでの間に一時代を築いてきたソロ・アイドルの系譜を簡単に紹介しておきましょう。懐かしさを覚えることはなければ、それだけ新鮮な何かが感じられるはずですよ!! *bounce編集部

 

武藤彩未も取り上げた“青い珊瑚礁”を含むファースト・アルバムにして名盤。三浦徳子×小田裕一郎のコンビで詞曲を固めた南国風味のコンセプト作品になっていて、デビュー曲“裸足の季節”に顕著な剥き出しのヴォーカルが統一感のある夏世界を駆け巡る。ストリングスを多用した大村雅朗や信田かずおらのアレンジはいま聴いても快い西海岸マナー。 *出嶌

 

三浦徳子作詞の“大きな森の小さなお家”(80年)でデビュー。“スマイル・フォー・ミー”がヒットした頃は、あどけないルックスと裏腹な〈発育の良さ〉も注目を集めたが、竹内まりや、来生たかお、尾崎亜美、林哲司といった作家陣との邂逅を経て歌い手としても急成長。そのスリリングさは80年代アイドル随一であり、音楽的素養の高さは愛娘にも。 *久保田

 

伊藤つかさ つかさ 徳間ジャパン(1981)

タグ アイドル

子役出身で「3年B組金八先生」の第2シリーズ(80年)で人気を博した彼女が14歳でリリースしたこの初作は、女性ソロ・アーティストによるオリコン1位アルバムの最年少記録を現在も保持している。いわゆる〈聖子ちゃんカット〉で微笑むポートレートそのままに、危うい歌唱も親しみやすさを担保するものとして響いた。素朴なメルヘンが詰まった一枚。 *出嶌

 

甘えたキャンディー・ヴォイスという声のキャラが確立される直前、大人っぽくあろうとするアーリー聖子のロウな歌唱が楽しめる最後のアルバム。武藤彩未が取り上げた金字塔“チェリーブラッサム”など、デビュー時から成長を描いてきた三浦の詞も〈変化〉を直接的なテーマに据えており、その集大成として“夏の扉”が開くのも出来過ぎ。これも名盤。 *出嶌

 

早見優 Thank YU 30th Anniversary Single Best ユニバーサル(2012)

タグ アイドル

グアム~ハワイ育ちの帰国子女。健康的なキャラクターとリズム感を活かし、三浦徳子/筒美京平コンビの“夏色のナンシー”(83年)を筆頭に、ヒット曲を量産。リック・スプリングフィールド作の“STAND UP”(85年)、レディ・リリー“Get Out Of My Life”の日本語カヴァー“ハートは戻らない”(87年)など、トレンドの移り変わりにも軽やかに乗って。 *久保田

 

“ゆ・れ・て湘南”“恋はサマー・フィーリング”“夏のフォトグラフ”――バスケットボールで鳴らしたスポーティーなプロポーションと快活さが魅力の彼女には、夏を彩る爽やかなポップスが似合う。武藤彩未もカヴァー盤で取り上げていた“涙のペーパームーン”(作曲は小田裕一郎)は珍しい路線で、夢見がちな少女を健気に演じた名曲。 *久保田

 

ファースト・ヒット“少女A”では〈いわゆる普通の17歳だわ〉と歌ってはいるものの、普通じゃない歌唱力と存在感。他のアイドルよりも際立っていた早熟なキャラクターと、作品を重ねていくごとに深まっていく歌への情念が、やがて彼女を孤高の歌姫に。その世界観に憧れ、ステージでカヴァーに挑んだ武藤彩未も見上げた17歳で。 *久保田

 

堀ちえみ Lonely Universe + シングルコレクション ポニーキャニオン(1985)

タグ アイドル

ドラマ出演も多かったせいか、声量こそつたないものの、感情をひたむきに歌のなかへと込めていく様が彼女の歌の魅力。音頭とデジタル・サンプリングを融合させた“Wa・ショイ!”なんてぶっ飛んだ曲もありましたが、森雪之丞の詞曲による“とまどいの週末”(82年)やベンチャーズ調“リ・ボ・ン”のような哀愁歌謡が彼女には似合っていました。 *久保田

 

前島亜美も取り上げた“センチメンタル・ジャーニー”(81年)でデビューした彼女。湯川れい子の奇抜な詞と鼻にかかった地声の歌が合致した同曲ほか、筒美京平(作曲)と鷺巣詩郎(編曲)作のオールディーズ路線は格別だが、等身大の女性像を押し出す尾崎亜美のナンバーも出色。デビュー30周年を記念したこの自選ベストでもその深化は確認できる。 *出嶌

 

溌剌とした明るさや健康美ではなく、憂いと熱情を帯びた文系の存在感を纏って85年に歌手デビューしてきたのが彼女。本人の詩で始まるこのセカンド・アルバムにはヒットした“情熱”を収録。現行CDのボートラでは、森雪之丞が作詞/玉置浩二が作曲した代表曲のひとつで、武藤彩未もカヴァーした“悲しみよこんにちは”など初期の名曲群が一望できる。 *出嶌