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映画「ロイヤル・コンセルト・ヘボウ オーケストラがやって来る」 語り手として登場したRCOの首席奏者たちが語る映画の魅力

映画「ロイヤル・コンセルト・ヘボウ オーケストラがやって来る」 語り手として登場したRCOの首席奏者たちが語る映画の魅力

爆弾を落とすより音楽を。
聴衆の心に寄りそう、オーケストラのロードムービー

 ここ数年、ドキュメンタリー映画がおもしろい。そこに映し出されるのは著名な人物の生きざまからファッション業界の舞台裏、アートや音楽の現場まで多岐にわたる。オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)の創立125周年記念ワールドツアーに密着したこの公式記録映画も、そうした “舞台裏もの”のひとつと言っていいだろう。

マッコール(以下M)「しょっぱなから、僕たちの同僚(ヘルマン・リーケン/打楽器)がブルックナーの交響曲第7番におけるシンバルの効果について語りまくる。打楽器特有の“待機時間”については誰もが素朴な疑問をもったことがあるでしょう。最初にそこに切り込むなんて、おもしろいよね」

 こう語ってくれたのは、自身も語り手のひとりとして登場する首席フルート奏者のケルステン・マッコール。ドイツ出身で本国や神戸のフルートコンクールで受賞後、ザールブリュッケン放送響などを経てRCOに入団した。劇中では、ツアー先から子どもたちに電話するサッカー好きの父親の顔も見せている。

 

 11月のRCO来日ツアーの合間を縫ってインタビューに応じてくれたのはもうひとり、首席ファゴット奏者のグスターボ・ヌニェス・ロドリゲスだ。

ロドリゲス(以下R)「僕は、ブエノスアイレスのタクシー運転手が語ったロンリネス(孤独)が忘れられない。『クラシックは私の心を満たし、私を守ってくれる』と語る彼の話を聞いていると、自分自身が見えてくるような気がしたんだ」

 ロドリゲスはウルグアイ出身。エル・システマの音楽教育を受けRCOに入団した。劇中で、ブエノスアイレスのホテルの窓からはるか彼方に故郷を見つけ、オランダで暮らす家族に電話する横顔が忘れられない。仲がよさそうなふたりだが、どういう経緯で語り手を担うことになったのだろうか。

R「じつは、あんなふうにインタビューを受けたのは僕たちだけじゃないんだ。団員のほとんどがおなじように対話したと思う。エディ・ホニグマン監督は2年以上僕らに密着して、ありとあらゆる場面を撮った。2時間の映画に収まったのはほんの一部分なんだよ」

M「グスターボ(ロドリゲス)が選ばれたのは、ブエノスアイレスという最初の舞台が関係していたかもしれないね。彼女(ホニグマン監督)のなかにはとても美しい物語があって、情熱が渦巻いているようだった。さっきグスターボが話したタクシー運転手にしても、彼女は出会うまでずっと聞きこみをしていたんだ。タクシー一台一台を止めて、『あなたはクラシックが好きですか?』って聞くんだよ。その情熱には頭が下がった」

 

 彼らの言葉は、この映画を観た多くの人が感じるだろう魅力を言い当てていた。

 通常、オーケストラの公式記録映画では、ブエノスアイレスのタクシー運転手に聞きこみをしない。南アフリカのソウェトで音楽教師を探し当てたり、ロシア、サンクトペテルブルクで音楽好きの老人の家を訪ねたりもしない。音楽は演奏風景にあてられるもので、飛行機の中で眠る団員の安息だとか、貧しい街並みを包みこむような美しい響きを表現したりはしない。ホニグマン監督はそのすべてをひっくり返し、この映画を単なる“舞台裏もの”ではない深いメッセージをもった“ロードムービー”として描いたのである。

R「ただの公式記録なら他の人でよかった。RCOはあえて、アーティストであるエディ・ホニグマンを選んだのだと思う。彼女は暖かくも厳しいボスだったけど、僕らは撮影を楽しむことができました」

M「RCOは団員も若いし国籍も多彩で、新しいことに積極的です。首席指揮者マリス・ヤンソンスは今年で勇退しましたが、僕らはオーケストラの将来を、いつも楽しみにしているんです」

 

 映画はもちろん、そんなRCOの魅力もたっぷりと紹介してくれる。聴衆にとってオーケストラは、ひとりひとりの楽団員の顔が見えてくるとぐっと距離が近づくものだが、その素顔のとりあげ方や距離感が絶妙なのだ。センスの良さは、音楽の編集にも表れている。あるときは沈黙を、あるときはバッハのあえかな響きを効果的に配し、演奏者や聴衆の心に寄りそう。ロシアの老人の半生を聴いた後、マーラー「復活」のクライマックスで彼の頬を伝う涙を見たとき、私たちは音楽を愛してよかったとため息をつくのだ。

M「音楽は人を幸福にし、生きる力を与えます。そこにジャンルや敷居なんてないと伝えたい。そしてコンサートに来てほしい。端末ですぐに音楽を聴けるいまだからこそ、コンサートで本物を味わってほしいのです」

R「オーケストラには偉大な指揮者だけでなく、聴衆が必要なのです。あのタクシー運転手や、アフリカの少女や、ロシアの老人や、そういう聴衆がいてこその私たちなんです。音楽ってなんのためにあるのかと疑問に思う人がいたら、この映画を観てほしい。爆弾を落とすより音楽を――そのほうが、世界がよりよくなるとは思いませんか?」

 


映画「ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る」
監督:エディ・ホニグマン
出演:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団/マリス・ヤンソンス(指揮)/デニス・マツーエフジャニーヌ・ヤンセンマルセル・ポンセアリス・マコラネポルティア・マコラネミシェル・マソテセルゲイ・ボグダーノフソウェト・マリンバ・ユース・オーケストラソウェト・ユース・オーケストラ/他
Around the World in 50 Concerts (C)2014 Cobos Films & AVRO
配給:SDP(2014年 オランダ 98分)後援:オランダ王国大使館 協力:KAJIMOTO
◎2016年1月30日(土)渋谷・ユーロスペースにて公開 他全国順次
http://rco-movie.com/

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