好天に恵まれた穏やかなある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

 

【今月のレポート盤】

BRINSLEY SCHWARZ  The New Favourites Of... Brinsley Schwarz United Artists/ワーナー(1974)

※試聴はこちら

 

鮫洲 哲ブリンズレー・シュウォーツといったら、やっぱり74年のこのラスト・アルバム『The New Favourites Of... Brinsley Schwarz』だろ!」

雑色理佳「異議なし! ブリンズレーの作品は良い意味でまとまりのないものばかりだけど、盟友デイヴ・エドモンズのプロデュースのおかげもあってか、特に本作はその雑多さが10倍増しでプラスに働いている感じですよね!」

杉田俊助「彼らはパブ・ロックの代表格みたいに言われているよネ! でもさっきから聴いているとパブっぽいアーシーなイメージより、ずっと開放的でポップなフィールだヨ!」

鮫洲「そうっすよね! 後期のブリンズレーって意外とパブ・ロックのイメージから逸脱していておもしろいんすよ」

梅屋敷由乃「確かニック・ロウさんが在籍していたグループですわよね!?」

雑色「Yes! まあ、B級好きの私としちゃ、むしろイアン・ゴムがいたバンドっていう認識ですけどね、にゃはは」

鮫洲「でもよ、このアルバムは共作を含めて10曲中8曲をニックが書いてっから、ヤツのポップ職人的なソングライティング・センスが全面開花した印象だよな」

杉田「Please Wait! 2曲目の“Ever Since You're Gone”ってチューンはイックバルみたいじゃない!?」

梅屋敷「あら、本当ですわ! とても都会的でお洒落なメロウ・グルーヴですこと!」

鮫洲「そうそう、コイツらは黒光りしたグルーヴィーな曲も結構多いんだぜ。ほかにも“I Like You, I Don't Love You”なんてどうよ!?」

杉田「Wow! ホーン・セクションもVery Hotな、16ビートのロッキン・ソウルだネ! これならヴィンテージ・トラブルのファンも絶対にイケるよ、Ha! Ha! Ha!」

梅屋敷「あそこまで本物っぽくはないですけどね」

雑色「いやいや、梅ちゃん会長! このなりきりソウル・バンド風な胡散臭さこそが永遠のニッチ・グループ、ブリンズレーの魅力じゃないですか!」

梅屋敷「あら、そうなんですね……」

雑色「話は変わりますが、エルヴィス・コステロがカヴァーして有名になった“(What's So Funny 'Bout)Peace Love And Understandig”なんて、ワン・ダイレクション以降のボーイズ・バンドが演っていそうな曲じゃないですか!?」

杉田「You're Right! いまの耳にフィットするグレイトなパワー・ポップだヨ!」

鮫洲「これはすでにヴァンプスがカヴァーしてるっしょ!」

梅屋敷「鮫洲さん、嘘はいけませんわ」

杉田「そしたらミーからももう1曲。“The Ugly Things”のちょっとユルユルしたアマチュア・ライクなポップ・テイストは、まるでクリストファー・オーウェンスアリエル・ピンクみたいじゃない!?」

雑色「確かに!」

鮫洲「っつうことはよ、このアルバムには最近のロック界隈のトレンドがほとんど入っているってことじゃね!?」

雑色「40年以上も前に現在の状況を予見していたとは恐るべし……」

杉田「これ一枚で去年のロック・シーンが復習できるネ、Ha! Ha! Ha!」

梅屋敷「ちょ、ちょっと皆さん! いくらなんでも過大評価しすぎじゃないですか!? お茶を煎れるので冷静になりましょう」

鮫洲「梅屋敷君、パブ・ロックなんだからビールにしようぜ、ビールに!」

梅屋敷「私には、すでに皆さんがお酒を飲んでいるようにしか思えませんわ」

アクの強い3人の飛躍的な話は留まるところを知らないようで、梅屋敷会長も大変そうですね。それにしても後期試験の真っ最中だというのに、ロッ研の連中は大丈夫なのでしょうか……。 【つづく】