【Click here for English translation of interview with Anchorsong】

メロディアスな作風で世界にその名を響かせる俊英が、アフロセントリックな音楽の魅力とサンプリングの手法に開眼! よりミニマルで味わい深い陶酔の門を開く……

 ボノボクァンティックらを輩出したUKのレーベル=トゥルー・ソーツに見い出され、2011年にアルバム『Chapters』でインターナショナル・デビューを果たし、ロンドンを拠点にさらなる動きを見せてきたAnchorsongこと吉田雅昭。彼がふたたびトゥルー・ソーツと手を組み、セカンド・アルバム『Ceremonial』をリリースした。

Anchorsong Ceremonial Tru Thoughts/BEAT(2016)

 その間に一度は完成させていたアルバムを「あまりに驚きがなくて」丸ごと破棄した彼に、『Ceremonial』のヴィジョンを与えたのは何よりも70年代のアフリカ音楽だった。どんな音楽かすら知らずにジャケ買いした西アフリカはベナンのバンド、オーケストラ・ポリリズモ・デ・コトノーの編集盤『Volume 1:“The Vodoun Effect” Funk & Sato From Benin's Obscure Labels 1972-1975』をきっかけに広がったというアフリカ音楽への興味は、Anchorsongの音楽をサンプリングの手法へと誘い、その姿を変えさせた。

 オーケストラ・ポリリズモ・デ・コトノーの編集盤『Volume 1:“The Vodoun Effect” Funk & Sato From Benin's Obscure Labels 1972-1975』

 

「それまでサンプリングって手法自体にあまり興味がなかったし、抵抗もあったんですけど、エレクトロニックな音楽によりウォームな要素を取り入れるうえでサンプリングの可能性を感じて。といっても、あくまでいろんな音楽のバックグラウンドの一部として消化したうえで出したかったんで、アフリカ一色じゃなく楽器の鳴り方で共通点のあるものを盛り込みたかった。基本的には自分のなかからは出て来得ないリズムとかパターンを(サンプリングで)引っ張ってきて、それにゼロから作ったメロディーで自分のテイストを乗せるやり方が多かったですね」。

 アフロ/トライバルなサウンドを基調とする生楽器の音色をサンプリングで盛り込んだその作風は、いまにしてみれば彼がBBEから配信およびアナログ盤で発表した『Mawa EP』(2014年)に連なるもの。さまざまなアプローチとBPMでみずからの音楽の間口の広さを見せた『Chapters』に対し、細やかな叙情性と彼のミニマルな音楽的志向をより際立たせた本作は、アルバムとしてもより一貫したカラーを湛えている。

 「前作はアップテンポなものもあればダウンテンポなものもあって、リズム・パターンもいろいろだったんですけど、今回はよりBPMのばらつきが少ないと思う。もともと曲展開にしろ構成にしろ、あんまり複雑なアレンジは必要なくて、すごくシンプルなものを無意識に作っちゃうところがあるんですけど、少しずつ形を変えながら起承転結を描いて着地するっていう曲作りは、ひとりで音楽を作りはじめた頃から少しも変わっていないです」。

 本作にあって、歯切れ良いリズム捌きにバラフォンの音色がいっそう心地良く響く“Last Feast”は、「原曲の良いところと自分の良いところを最良のバランスで残せた」とAnchorsongが胸を張る一曲。そして、揺らめくシンセ・ワークと柔らかなパーカッション、鳴り物が穏やかなノリを紡ぐ“Eve”や、タイの音楽から引用したケーンの音色とこぶしを利かせたヴォーカルが印象的にループされる“Monsoon”――過去の音楽から温かなエッセンスを抽出/消化した今回の楽曲群が、聴く者をアクティヴに揺らすばかりでなく、ゆったりとしたリスニングにも適う一面を持ち合わせているのは、「最近BGMとして楽しめる音楽の魅力にも気付きはじめた」という彼自身の変化によるものかもしれない。そしてそれはシンプルだからこそ飽きがこないものともなった。ジャイルズ・ピーターソンローラン・ガルニエをはじめ、アディソン・グルーヴなどからもすでに集まる本作への賞賛も、その一端だろう。

 「いまやるべき音楽、いまでこそ成立する音楽ってたくさんあるし、コンテンポラリーな音楽をたくさん聴いてはいるんですけど、ホントに向こう10年聴ける音楽ってやっぱり少ないと思う。自分の音楽は5年後、10年後も決して古くない音楽にしたいなといつも思ってるし、突拍子のないものは自分が飽きちゃうんですよ。だからすごくストレートで馴染みがある音なんだけど、繰り返し聴くたびに味が出る曲やアルバムを自分は作りたいなと思うし、今回の作品はよりそういうものにできたかな」。

 【Click here for English translation of interview with Anchorsong】