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ヒップホップ感覚を手掛かりに往年の音世界研究する〈黒いモリコーネ〉エイドリアン・ヤングの美学、その原点と軌跡を探る

【IN THE SHADOW OF SOUL:ソウル・ミュージックの光と影】[第90回]エイドリアン・ヤング Pt.1

ヒップホップ感覚を手掛かりに往年の音世界研究する〈黒いモリコーネ〉エイドリアン・ヤングの美学、その原点と軌跡を探る

平凡なレトロ趣味や安直なヴィンテージ志向とは真逆の輝きを放つ、凝りに凝ったサウンドの圧倒的な美意識――自身の楽器演奏とヒップホップ感覚を手掛かりに往年の音世界を研究する〈黒いモリコーネ〉の美学、その原点と軌跡を探ってみよう

 偏執狂と呼んでしまいたくなる若き巨匠。プリンスがワーナーからデビューした78年に生まれたエイドリアン・ヤングは、まるでその殿下のように20種類以上の楽器を巧みに操りながら、サンプリング/DJ感覚で古いソウル・サウンドを現代に蘇らせるミュージシャンだ。この数年間には、デルフォニックスゴーストフェイス・キラーソウルズ・オブ・ミスチーフビラルのアルバムをプロデュース。いわゆる〈レトロ〉〈ヴィンテージ〉といったサウンドを作る音職人だが、ブームに便乗して試しにそれっぽいことをやってみた……という類の輩でないことは、エンジニアとしてアナログ・レコーディングに精通し、往年のサウンドを細微に至るまで研究し尽くして作り上げた彼の楽曲を聴いてみれば明らかだろう。

 そもそも、LAを拠点に活動を続ける彼は15年近く前から〈レトロ〉にこだわっていた。初期の作品は、架空の映画サントラという名目で自主リリースしたEP『Adrian Younge Presents Venice Dawn』(2000年)。エンニオ・モリコーネのファンである彼が自身の映画音楽趣味を打ち出したサイケなソウル盤で、これを作ったのは、90年代後半からヒップホップのビートメイキングをしていたもののMPCのようなサンプラーで曲を作ることに限界を感じ、生演奏で曲を作りたかったからだともいう。そして、そのアップデート版とも言える『Something About April』を2011年にワックス・ポエティックスから発表すると、同作は60~70年代のソウル名盤の如くサンプリング・ソースの宝庫として複数の大物ラッパーたちに再利用されはじめる。例えば、“Sirens”はジェイZの“Picasso Baby”で、“It's Me”はコモンの“7 Deadly Sins”で、“Two Hearts Combine”は(ビッグ・クリットゲイリー・クラークJrをフィーチャーした)タリブ・クウェリの“Demonology”で、といった具合に。DJプレミアロイス・ダ・5'9"の組んだプライムに至っては、『Something About April』を中心にエイドリアン関連の楽曲のみを使ったアルバム『PRhyme』を制作したほどで、インスタントにヴィンテージ化した同盤で彼は往年のソウル偉人のような扱いを受けることになったのだ。

 そうしたヒップホップ勢からのラヴコールは、2009年の映画サントラ『Black Dynamite』を任されたように、エイドリアンの音楽が70sブラックスプロイテーション趣味を打ち出しているからでもあるのだろう。ゴーストフェイス・キラーやRZAとの邂逅もそんな彼だからこそで、ゴーストフェイスが愛して止まないデルフォニックスと結び付いたのも頷けるところだ。もともとエイドリアンは自身の曲で、ヴィブラフォン、グロッケンシュピール、ティンパニ、エレキ・シタールなどをみずから操り、トッド・サイモンにフリューゲル・ホルンやフレンチ・ホルン、トランペットを吹かせているが、それらの楽器はデルフォニックスのシグネイチャー・サウンドを作り上げたトム・ベルが多用していたもので、そうした面でも両者が結び付くのは必然だったと言える。

ADRIAN YOUNGE Something About April II Linear Labs/OCTAVE(2016)

 自主レーベルのリニア・ラブスから発表した『Something About April II』は、そんな彼を巨匠たらしめた出世作の第2弾。裸体の黒人&白人女性が身体を寄せ合うジャケットからして70年前後の女囚ブラック・ムーヴィーやヨーロッパ映画を思わせるが、架空のサントラを作るという妄想癖をふたたび呼び覚まし、ヴィンテージ機材を用いて編み上げた今作でも、モリコーネやセルジュ・ゲンスブール的にしてクエンティン・タランティーノの劇世界を音にしたようなサウンドが全編で繰り広げられている。ヴォーカリストに名を連ねるのは、ローレン・オデンサウディア・ヤスミン、オペラ歌手のブルック・デローザといった常連に加え、ステレオラブレティシア・サディエールやイスラエル女性のキャロライナ、そしてラファエル・サディークビラルといった面々。サイケなソウル・バラードやラムゼイ・ルイス風のラウンジーなピアノ伴奏曲、ラファエルとサウディアが歌ったアーシーなファンク、フランス語の語りとスキャットを披露するレティシアがビラルと相見えた欧州映画風の曲など、退廃的とも言える美意識とプログレッシヴな感性が光るアルバムは、エイドリアン・サウンドの集大成と呼べるものだ。

 すでにアリ・シャヒード・ムハマドとのコラボも進行中のエイドリアン。今後もラファエル・サディークのような同志を増やしながら、奇才が集うラボ(研究室)で新たな実験を試みていくことだろう。

 


 

エイドリアン・ヤング初来日公演が決定!

日時/会場:2016年3月19日(日)~21日(月・祝) 東京・丸の内コットンクラブ
開場/開演:
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:18:30/20:00
料金:自由席/6,800円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★詳細はこちら

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