8年の間に男を上げたアレックス・ターナー

 TLSPのお披露目をきっかけに、アレックス・ターナーの創作意欲が大爆発したことは、2009年作『Humbug』以降のアークティック・モンキーズ盤を聴けばすぐにわかるはず。クラシックなハード・ロックをヒップホップ的な視点で解釈した最新作『AM』(2013年)に至るまで、バンドはリリースのたびに進化を遂げていくことに。また、オーウェン・パレットのストリングスが彩りを添えるフォーク・タッチのEP『Submarine』で、ソロ・デビューを果たしたのも忘れ難いトピックだ。

 そんなアレックスはこの8年間、UKとLAを頻繁に行き来してきた。というのも、『Humbug』のプロデューサーであるジョシュ・オムを慕うようになったからで(リーゼントやオールバックといった髪型の変化も兄貴の影響!?)、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ作品にも嬉々として参加。余談だが、アークティックのマットもジョシュに誘われてイギー・ポップの新作『Post Pop Depression』を全面サポート。ジョシュから男らしさを学んだアレックス、その成果を『Everything You've Come To Expect』で確認してほしい。 *山口智男

ラスト・シャドウ・パペッツの2008年作『The Age Of The Understatement』収録曲“Stanting Next To Me”
アレックス・ターナーの2011年のEP『Submarine』トレイラー
イギー・ポップのニュー・アルバム『Post Pop Depression』サンプラー

 

モッズの後継者として成長を続けるマイルズ・ケイン

 TLSPの初作『The Age Of The Understatement』のリリースから2か月後に、自身がリーダーを務めるラスカルズでもアルバム・デビューを飾ったマイルズ・ケインは、 翌2009年にバンドを解散させて独り立ち。これまでにコロムビアより2枚のソロ作を発表しており、2011年の『Colour Of The Trap』では全12曲中6曲をアレックスと共作、2013年の『Don't Forget Who You Are』のデラックス・エディションでも彼とコラボし、仲の良さをアピールしている。

 そのマイルズと言えば、〈モッズ・スタイルの後継者〉として期待され、ブリティッシュ・ロック界の大物から非常に可愛がられていることをご存知だろうか。例えば、ノエル・ギャラガーがみずから進んで『Colour Of The Trap』に参加したかと思えば、負けじとリアムはビーディ・アイのツアー・サポートに指名。グリフ・リースとは互いの作品に客演し合う間柄だったり、ライヴ共演がきっかけで急接近したポール・ウェラーとはジョン・ヴァルヴェイトスのモデルを共に務め、『Don't Forget Who You Are』でもタッグを組み……といった具合で、シーンのなかで日に日に存在感を強めているのである。 *山口智男

マイルズ・ケインの2011年作『Colour Of The Trap』収録曲“Rearrang”
マイルズ・ケインの2013年作『Don't Forget Who You Are』収録曲“Better Than That”

 

二枚看板の個性を影で支えるジェイムズ・フォード

 2007年の2作目『Favourite Worst Nightmare』以降、アークティック・モンキーズの全作品に関与するなどアレックスのことを知り尽くし、TLSPにも結成時から名を連ねるジェイムズ・フォード。この8年間はシミアン・モバイル・ディスコ本隊でコンスタントに作品をリリースしながら、引き続き名裏方としてフローレンス・アンド・ザ・マシーンリトル・ブーツハイムジェシー・ウェアらにヒットをプレゼントしてきました。昨年にはマムフォード&サンズの脱アコースティック化を手助けしたことも記憶に新しいですよね。

 そんなジェイムズは仕事相手に自分のカラーを押し付けるタイプじゃなく、アレックスいわく「僕らの狙いを汲んで臨機応変にアイデアを出してくれる人」だそう。この新作でも縁の下の力持ち的な役回りに徹し、60~70年代のバロック・ポップやA&Mサウンドを更新したようなプロダクションで、アレックスとマイルズのワガママなリクエストに応えています *山西絵美

シミアン・モバイル・ディスコの2014年作『Whorl』収録曲“Tangents”
マムフォード&サンズの2015年作『Wilder Mind』収録曲“Ditmas”

 

歌心あるベースが身上のザック・ドーズ

 クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジマイケル・シューマン率いるミニ・マンションズのメンバーとして、2015年にアレックスとコラボしているザック・ドーズは、今回の新作からTLSP入りしたベーシスト。そのマイケルに連れられ、キンブラの2014年作『The Golden Echo』でも演奏にソングライティングにと活躍していました。が、もともとはTボーン・バーネットの専属プレイヤー/アシスタント・エンジニアであり、グレッグ・オールマンダイアナ・クラールエルトン・ジョンらの作品にて彼の名を確認することができます。 

 もともとピアノを習っていたらしく、その影響なのか、はたまたビートルズが好きでポールに心酔しているからなのか、ザックのプレイは甘くメロディアスなベースラインが特徴的。ストリングスを使った大掛かりな音響効果に耳が行きがちですが、新作でのどこか『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』風なサイケ感は、この男がもたらしたものなのかも。 *山西絵美

ミニ・マンションズの2015年作『The Great Pretenders』収録曲“Vertigo”