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KING
クイーンでもプリンセスでもプリンスでもない。名立たる大物たちの賞賛を背に受け、3人のキングがクリエイティヴな世界を統治する!

 

 3曲入りのEP『The Story』を発表した2011年の時点ではほとんど無名だった。が、ルーツクエストラヴが話題にし、プリンスがライヴの前座に起用したことで注目を集めたこの女性トリオは、ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』における“Move Love”への客演や、EP収録の“Hey”がケンドリック・ラマーのデビュー作にて引用されていたという事実が改めて知られるところとなり、一気に株を上げている。エリック・ロバーソン『The Box』でもそよ風のようなハーモニーを披露していた彼女たちは、大雑把に括ればジ・インターネットに通じるアンビエントなネオ・ソウル系ユニットであり、エレクトロニカ、ダウンテンポといった文脈でも語ることができるが、その個性は前例が見当たらない。

 双子であるパリスとアンバーのストローザー姉妹と友人のアニータ・バイアスから成る3人組。ストローザー姉妹はフォーリン・エクスチェンジ“All The Kisses”への参加も記憶に新しいところで、特にバークリー音楽院で学びジャズの素養を持つパリスは、鍵盤を弾いたジル・スコット“So Gone(What My Mind Says)”や3人で参加したビラル“Right At The Core”でもペンを交えていた。そのパリスが奏でるビートにアンバーとアニータを中心としたクリスタルなヴォーカル&ハーモニーを浸していくようなスタイルは女性トリオといってもSWVのようなグループとは別種のもので、強いて言えば、姉妹(兄弟)からなる西海岸の自作自演R&Bユニットという点でトニ・トニ・トニに近い。ラファエル・サディークとも印象がかぶるパリスの裏方仕事も含めてそう思う。

KING We Are King KING/Pヴァイン(2016)

 フェラ・クティのトリビュート盤に参加するアフロセントリックな姿勢を示しながらも、パリスはXTCジョニ・ミッチェルフランク・ザッパ、アンバーは坂本龍一コクトー・ツインズを愛聴。アニータはその歌にも表れているようにブレンダ・ラッセルパトリース・ラッシェンを好むようだが、これまでにリリースしたシングルやEPに収録していた3曲のリアレンジ版を含む待望のフル・アルバム『We Are King』はまさしくそうした音楽の折衷で、ドリーミーなサウンドでトロピカルなジャケの如き楽園に誘う。パリスが紡ぐ精緻で洒落たトラックが敬愛するスティーヴィー・ワンダースティーリー・ダンを思わせる一方で、ミニマルな音使いは、モハメド・アリを讃えた“The Greatest”のMVが8ビットのTVゲーム風だったように、姉妹が誕生した80年代中期頃のエレクトロニック・サウンドからの影響が大。2014年の〈Essence Festival〉でライヴを観た時には、パリスがTR-808と思しきドラム・マシーンや各種シンセを操りながら、ザップの“Computer Love”も披露していた。

 そして、“In The Meantime”に代表されるオリエンタルで人懐っこいメロディーやビート感覚は、日本的にキャッチーな例を挙げれば佐藤博『Awakening』から一十三十一『CITY DIVE』へと繋がるエレクトロ・シティー・ポップ的なそれとも通じており、欧米人にとっては神秘的に思えるそうした部分がエリカ・バドゥの言う〈2029年にいるような音楽〉といった絶賛を生んでいるのだろう。また、“Carry On”などでのウィスパリング系のヴォーカル&ハーモニーはジャネット・ジャクソンの“Come Back To Me”や“Let's Wait Awhile”にも近く、メロウネスに包まれた“Red Eye”もマイケル・ジャクソン“I Can't Help It”をジャネットがアンビエントな解釈で歌ったように聴こえなくもない。ジャム&ルイスが賛辞を贈り、プリンスが彼女たちを前座に起用したのも頷けるところだ。ちなみにストローザー姉妹はミネアポリス出身で、おじは同地のブルース偉人であるパーシー・ストローザー。が、偶然の再会などもあってアニータの出身地であるLAで活動することになったという。

 アルバムは管弦などの一部を除き自作自演で、すべての作業を自分たちのホーム・スタジオで完了。レーベルも含めて、徹底してインディペンデント精神を貫く彼女たちは一国の長であり、それゆえに〈キング〉を名乗る。来るコリーヌ・ベイリー・レイの新作に参加し、敬愛するマイルス・デイヴィスの自伝的映画に関連したリミックス集にも楽曲を提供した才能豊かなトリオは、新しい何かを探し求めるようなリリックよろしく、さらに前進し続けていくことだろう。 *林 剛