この『The Golden State』までを第1期とするなら、通算5枚目のアルバム『Manzanita』(2005年)以降は第2期と言っていいだろう。『Manzanita』を境に、ミアはタウン・アンド・カントリーのジョシュ・エイブラムスや、ヴィオラ兼ヴァイオリン奏者のミゲル・アットウッド・ファーガソンなどと知り合い、ビルド・アンド・アーク周辺のミュージシャンを中心とした新しい人脈を築いていく。

『Manzanita』収録曲“My Room Is White”。リミックス集『La Ninja: Amor And Other Dreams Of Manzanita』(2006年)にはフライング・ロータスによる同曲のリミックスも収録されている

ミアとミゲルに加えて、カルロス・ニーニョもプロデュースに名を連ねている『GEA』(2008年)は、その最初の大きな成果だ。このアルバムで注目すべき点は、キューバの詩人アルマンド・スアレス・コビアンの詩に基づく“Esperar Es Caro”という曲が収められていること。ミアがどんなきっかけでこのキューバの現代詩人の作品に目をつけたのかわからないが、ラテン・アメリカへの眼差しは、『Cosmic Ocean Ship』(2011年)と『Floresta』(2014年)といった2枚の素晴らしいアルバムに引き継がれていく。

『GEA』収録曲“Sleepless Nights”

『Cosmic Ocean Ship』には、自作曲に加えて、ブラジルのバーデン・パウエル&ヴィニシウス・ヂ・モライスによる“Canto De Lemanja”と、チリのビオレータ・パラ“Gracias A La Vida”が取り上げられている。しかも、どちらも原語で歌われている。“Canto De Lemanja”は、バーデンとヴィニシウスによる歴史的名盤『Os Afro Sambas』(66年)に収録されている曲。〈人生よありがとう〉という邦題で知られる後者は、74年にジョーン・バエズが原語でカヴァーしたことから、アメリカでも広く知られている。が、この2曲の選曲には唸らされた。

ミシェル・ゴンドリーが監督を務めた『Cosmic Ocean Ship』収録曲“Open Your Heart”のMV

『Cosmic Ocean Ship』収録曲“Canto De Lemanja”

『Floresta』は、サンパウロ・アンダーグラウンドでの活動で知られるブラジル人パーカッション奏者のマウリシオ・パウロなどと一緒にブラジル・ツアーをした際に、サンパウロで録音されたアルバム。サンパウロは、ブラジルでもっとも多くの日系人が住んでいる都市だ。『Floresta』はブラジル音楽のカヴァー・アルバムだが、これもまず選曲がすごい。ドリヴァル・カイミやカエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメントなどの曲に加えて、ブラジル人で初めてアルゼンチンのアタウアルパ・ユパンキの詩に曲をつけた音楽家として知られるデルシオ・マルケスの“Segredos Vegetais”や、カンデイアのサンバ“Preciso Me Encontrar”が取り上げられているのだから。このような幅広い選曲だけとっても、『Floresta』は、アメリカ人によるブラジル音楽へのアプローチとしては、かなり画期的なアルバムと断言できる秀作だ。なお、コンピレーション『Red Hot+Rio 2』(2011年)には、前述した“Canto De Lemanja”に加えて、スウェーデン人のホセ・ゴンザレスとのコラボレーションによるロー・ボルジェスのカヴァーが収録されている。

『Floresta』収録曲“Segredos Vegetais”

ホセ・ゴンザレスとコラボした『Red Hot+Rio 2』収録曲“Um Girassol Da Cor Do Seu Cabelo”のライヴ映像