NOTHING WAS THE SAME
ドレイクをとりまくふたつのミュージック・ファミリー
本人のクリエイティヴの勝利なのは当然としても、それを世界に届けたヤング・マネー/キャッシュ・マネーの存在がなければ、ドレイクの成功像もまた違う眺めだっただろう。もともとリル・ウェインというカリスマにお墨付きを得る格好でシーンに紹介されたことは、無名の新人が我流を貫いていくうえでこれ以上ない助けとなったはずだ。逆に、ウィージーもドレイクの貢献によって“She Will”や“Love Me”など新しいスタイルのヒットを掴んでおり、キャラの違うふたりは良いコンビだと思う。
ただ、ヤング・マネー全体がやがて一枚岩でなくなっていったのは、クルー・アルバム第2弾『Rise Of An Empire』(2014年)へのドレイクの参加がソロ1曲の提供に止まったことからも明白だった。案の定タイガにはディスられ、前後してウィージーがキャッシュ・マネー本体と揉めはじめた結果、クルーの動きはホールド状態に。ドレイクとのヒット“Believe Me”も含むはずだった『Tha Carter V』が無事に出るのかも気になるところだ。なお、ドレイクと“I'm On One”や“No New Friends”のヒットを共作してきたDJキャレドはさっさとキャッシュ・マネーを去ったが、移籍後も共に“For Free”をヒットさせたばかりで、こちらの良い関係は継続されている。
一方、ドレイクが地元のトロントでノア“40”シェビブと興したレーベル/プロダクションこそ、OVO(October's Very Own)だ。もともと最初のミックステープを出した際に表記したブランド名のようなものだったが、40やボーイ・ワンダら身近なブレーンたちも所属する形で2012年に正式な会社組織へ発展した。レーベルとしてはワーナーと配給契約を結び、まずはトロント近隣のミシサガ出身だというパーティーネクストドア、そしてトロント産R&Bデュオのマジッド・ジョーダンと契約。揃って『Nothing Was The Same』でお披露目された両組に続いてはLAのアイラヴマコネンと契約し、ドレイクも加わった“Tuesday”がヒットした。
今年に入ってからはそのマコネンが離脱するも、マジッド・ジョーダンは待望のアルバムを発表、ナインティーン85を含むDVSNも初作『Sept. 5th』をリリースしたばかりで、近々にはパーティーネクストドアの新作『P3』も届くはず。現時点ではドレイクと色の近い作品が中心ながら、さらなる個性の発露にも期待しつつ、勢いを増すOVOの動向に注目したい。 *出嶌孝次